惑星冒険ものとSF
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1926年から出版が始まり1930年代に隆盛を迎えたSFパルプ雑誌は惑星冒険ものの新たな市場を創出し、このジャンルの新たな担い手を生み出す効果を発揮した。プラネット・ストーリーズ(英語版)やスタートリング・ストーリーズといったパルプ雑誌は惑星冒険ものが中心だった。一方ウィアード・テイルズのような既存のファンタジー誌は、それまでのホラーや剣と魔法ものからSF冒険ものへと移行しはじめた。中でも特筆すべき作家として、《ノースウェスト・スミス》シリーズ(1933年-1947年)で知られるC・L・ムーアがいる。ムーアのストーリーには活劇がほとんどなく、むしろ心理的緊張を描いており、特にムーアにとって危険で官能的だった未知なるものの恐怖と魅力を描いている。 1940年代と1950年代において惑星冒険もののジャンルの特筆すべき作家としてリイ・ブラケットがいる。そのストーリーは複雑で、単純な勧善懲悪ではなく、冒険活劇も盛大であり、時にはラブストーリーもからめ、パルプ雑誌では滅多に見られないほど重厚で詳細な設定があり、スペースオペラとファンタジーを融合させたスタイルだった。ブラケットはプラネット・ストーリーズ(英語版)とワンダー・ストーリーズ誌の常連で、同じ世界設定を共有するが主人公の異なる(エリック・ジョン・スタークは例外的に複数作品で登場)一連の作品を生み出した。ブラケットのストーリーは第一に冒険小説だが、文明の衝突や帝国主義や植民地主義といった問題をテーマとしていた。 ブラケットの「金星の魔女」とA・E・ヴァン・ヴォークトの「原子の帝国」を比較してみると興味深い。これらの作品はロバート・グレーヴスの『この私、クラウディウス』をプロットや設定の下敷きにしている。ヴァン・ヴォークトは自身の考案した帝国の詳細を語り、主人公の脆弱さを強調する。ブラケットは、陰謀に巻き込まれたある女性の空想的魅力にとりつかれた地球人を登場させている。どちらもスペースオペラだが、ブラケットの作品だけが惑星冒険ものと言える。 1960年代中ごろから、太陽系を舞台としてきた伝統的な惑星冒険ものは廃れていった。科学技術の進歩によって太陽系には地球以外に生命の存在しうる場所がほとんどないことがわかったためで、以降は何らかの超光速航法を前提として太陽系外惑星を舞台とするようになっていった。例外として1966年から始まったジョン・ノーマンの《反地球》シリーズがある。舞台となる惑星ゴルは太陽をはさんで地球と反対側にある反地球である。「異星人の優れた科学」により重力の作用や地球からの探査機ではゴルを発見できないという惑星冒険ものによくある設定になっている。 惑星冒険ものは現在もSFの中で重要な一部となっているが、その呼称が軽蔑的なものと見られているため、作家自らがこの呼称を使うことは少ない。また、惑星冒険ものとスペースオペラの要素が交じり合った作品が多く、どちらか一方に分類することは困難である。 フランク・ハーバートの《デューン》シリーズの特に初期の作品はアラキスという砂の惑星を舞台としており、惑星冒険ものとしての要素を全て備えている(「剣と惑星」ものの要素も若干ある)。しかし、ハーバートは哲学、生態学、政治などについての自分の考え方を披露するために設定を使っているだけともいえる。 マリオン・ジマー・ブラッドリーのダーコーヴァ年代記もダーコーヴァという惑星が舞台の中心であり、惑星冒険ものに分類できる。ただし、銀河規模の設定が単なる背景にとどまっているとは言えない。同様にL・スプレイグ・ディ・キャンプのスペースオペラ「Viagens Interplanetarias(英語版)」シリーズの一部をなしている Krishna も惑星冒険ものと言える。 アーシュラ・K・ル=グウィンの初期作品『ロカノンの世界』や『辺境の惑星』は惑星冒険ものとされている。《ハイニッシュ・サイクル》は総じて惑星冒険ものといえるが、後期の作品ほどファンタジー的要素は薄く、社会学や人類学がテーマとして前面に出てきている。 Science Fiction: The 100 Best Novels(英語版)(1985) で編集者で評論家のデビッド・プリングル(英語版)は、マリオン・ジマー・ブラッドリーとアン・マキャフリイを惑星冒険ものの重要な作家として挙げている。マキャフリイの《パーンの竜騎士》シリーズは銀河規模の背景設定が冒頭で簡単に書かれているだけである。読者の科学的世界観は重要だが、パーンの社会では科学技術が失われている設定である。
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