復旧に向けた設計検討
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/25 03:32 UTC 版)
「富士川橋梁 (東海道本線)」の記事における「復旧に向けた設計検討」の解説
流失が起きた8月2日当日の午後には、静岡鉄道管理局、岐阜工事局、国鉄本社土木課、鉄道技術研究所、構造物設計事務所などの要員が現場に到着して、本格的復旧対策の検討が始まった。復旧方法としては、1. 列車の早期運転再開のために川の中に仮橋脚を設置し、保有している桁(たとえば東北本線の利根川橋梁の架け替えで発生した桁)を転用して3径間または4径間で仮復旧して、その後本復旧する、2. 元の橋脚の構造が支障する可能性のある元の位置での橋脚再建を回避して、第3・第5橋脚を補強した上で径間126メートルのトラス桁を架設する、3. 新桁の製作に時間を要するので、廃線に残されているピントラスを補修して転用し、その後本復旧する、4. 元通りの位置に橋脚を再建してトラス2連を架設する、の4案が考えられた。比較検討の結果、1案は富士川のような荒れ川に仮橋脚を設置するのは再度の被災の恐れがあり、また仮桁の補修も必要であり工期がそれほど短縮できない上に、トータルでは工費が高い、2案は桁が特殊な設計となり標準設計にはないため設計自体に相当の時間を要し、補強を要する橋脚の工事にも手間がかかって工費が高い、3案は転用が可能であれば安く工期も短いが、廃線の桁を点検した結果腐食が激しくて到底転用に耐えないと判断された。この結果、復旧までの工期が長いと見込まれたものの本復旧が必要ないためトータルでは安いと判断された、オーソドックスな4案が採用されることになった。 橋脚が1基と決まり、その基礎としてベノト杭3本、ベノト杭5本、ケーソン、鋼管ウェルの比較検討を行った。工期が短く、大口径の転石があっても施工可能で、流水阻害が小さくて出水に対してより安全度が高いとして、ベノト杭3本案が採用された。ベノト杭の直径は2メートルとすることで、いざというときに中に人が入って掘削もできるようにした。ベノト杭の深さは20メートルとされた。こうした事項はまだ増水がおさまらず河床の状況がわからず地質調査もできない時点で決定されたが、結果的には現地の状況にうまくマッチしていた。さらに隣接する第3橋脚と第5橋脚も、倒壊を免れたが危険な状態にあると判断され、根固めの補強工事が行われた。 上部工については、直ちに工場製作に入れるように設計活荷重KS-16の標準桁の設計を利用することになった。ただし架設クレーンを台風のたびに撤去していては日数を要するため、クレーンを載荷したまま台風をやり過ごす場合を考えて下弦材断面を大きくして強化し、新しい第4橋脚が細いことから地震時のトラス応答を加味して架設用の連結構をそのまま耐震用連結構となるようにするなどの改造をおこなった。その架設については、トラベラクレーンを利用した跳ねだし架設、地上クレーン架設、ベント(仮設の支柱)を利用した工法の3種類が比較検討され、橋脚の工事と競合せず、出水時にも対応できる工法として、トラベラクレーンによる跳ねだし架設が採用された。 工事を行うための仮設工も大きな課題であり、流れている川の水を一時的に他の部分に迂回させることで第4橋脚の構築、桁の架設、根固め工を行うとともに、工事用の通路にするための桟橋を架設することにした。河川管理者に対する手続きは、書類作成期間を短縮するために簡略化した図面を口頭で説明して了解を得ることになった。流水迂回工は、右岸よりに迂回させる案、左岸よりに迂回させる案、わずかに右岸よりに迂回させる案の3案から検討し、施工性・工期・工費の観点から、最後のわずかに右岸よりに迂回させる案が採用された。桟橋はH形鋼を打ち込み通路面に覆工板を敷いて形成した。さらに出水に備えて、上流で流水量を測定している観測所から通報を受ける体制を整備した。
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