反応炉の原理と概要
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/26 18:53 UTC 版)
「核融合」も参照 重水素と三重水素(トリチウム)を融合させると、ヘリウム4原子核(アルファ粒子)と高エネルギー中性子が生じる。 1 2 H + 1 3 H → 2 4 He + 0 1 n + 17.6 MeV {\displaystyle {}_{1}^{2}{\mbox{H}}+{}_{1}^{3}{\mbox{H}}\rightarrow {}_{2}^{4}{\mbox{He}}+{}_{0}^{1}{\mbox{n}}+17.6{\mbox{ MeV}}} 鉄より原子番号の小さな元素の安定同位体は、融合する事でエネルギーを発生させる。重水素と三重水素は水素の同位体であり、最小のエネルギーで融合を実現できる、最も魅力的なエネルギー源である。 すべての主系列星は、核融合反応により莫大なエネルギーを得て夜空に輝いている。重水素―三重水素核融合反応は、ウラニウム235の核分裂反応の約3倍のエネルギーを発生する。石炭を燃やすことで得られる化学反応のエネルギーと比べれば数百万倍の違いがある。核融合発電プラントの目的は、このエネルギーを発電に利用することにある。 互いに正電荷を持つ核内の陽子同士が強く反発し合うため、核融合に必要なエネルギーは非常に大きい。おおざっぱに見積もると、トンネル効果によって静電気力の壁を越え、さらに核力と静電気力がバランスする距離まで近づいて融合するには、原子核同士は100フェムトメートル(1×10 − {\displaystyle {}^{-}} 1 {\displaystyle {}^{1}} 3 {\displaystyle {}^{3}} m)以下にまで接近しなければならない。ITERでは、これを高温と磁気による閉じ込めによって実現する計画である。 高温は、原子核同士の静電気斥力を超える十分なエネルギーを与える(マクスウェル分布を参照)。重水素―三重水素核融合の反応率を最適化するには、1億K(ケルビン)台の高温が必要である。プラズマを高温に熱するにはジュール熱を用いる。この場合はプラズマ中に電流を流して発生させる。さらなる加熱には中性粒子ビーム入射(Neutral Beam Injection, NBI)加熱法と高周波(Radio Frequency、RF)加熱法を用いる。 このような高温では、粒子は極めて大きな運動エネルギーをもつ。これらの粒子は、束縛しなければエネルギーを保持したまま直ちに拡散してしまい、反応を起こす最低の温度以下にまでプラズマが冷えてしまう。核融合炉の設計を成功させるためには、プラズマが核融合を行なうよう、十分に小さなスペースに必要な高温の粒子を詰め込んだまま、必要な時間だけ維持する必要がある。ITERを含む磁気閉じ込め式の反応炉の多くは、プラズマ、つまり荷電粒子のガスを磁力で閉じ込めるよう設計されている。粒子はトロイダル磁場によって進行方向と垂直な中心方向に加速され、内部に閉じ込められることになる。 高熱と強力な光子・粒子から磁石とその他の機器を守り、同時に真空に近いプラズマを保持し、確実に密閉する格納容器も必要である。 格納容器は激しい粒子の衝突にさらされる。表面は電子、イオン、陽子、アルファ粒子、中性子の間断ない攻撃にさらされ、構造が劣化してゆく。このような厳しい環境でも、経済的な意味で十分な長期に渡り発電プラントとして存続できるよう、適切な材料が選ばれる。ITERと国際核融合材料照射施設(International Fusion Materials Irradiation Facility, IFMIF)では、今後それらの材料の試験が実施される。 核融合反応が開始すると、プラズマの反応領域から高エネルギー中性子が放射される。中性子は電荷を持たないため、磁界の影響を受けずに自由に運動できる(中性子束(neutron flux)参照)。これにより、ITERでは主に中性子がエネルギーを外部に運ぶ。理論上はアルファ粒子がプラズマ中でエネルギーを放出することで温度を保つ働きをする。 格納容器の内壁の内側には、数種のテスト・ブランケット・モジュールのうちの一つが置かれる。これらのモジュールは、信頼性と効率性に配慮した方法で中性子を減速・吸収し、構造物へのダメージを限定しつつ、リチウムと入射してくる中性子とから新たな燃料となる三重水素を生産するよう設計されている。 エネルギーは、高速中性子が一次冷却液を通り抜ける過程で吸収される。発生した熱エネルギーは、実際の発電所では発電タービンを回す力として使われることになるが、ITERでは科学的興味の対象ではないため、取り出されて捨てられる。
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