分析・教訓
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/01 08:15 UTC 版)
「2020年ナゴルノ・カラバフ紛争」の記事における「分析・教訓」の解説
欧州外交関係委員会のグスタフ・グレッセル博士による分析は以下の通りである。 アルメニアの敗因は対ドローン防空システム及び電子戦装置の欠如である。アルメニアで最も「近代的な」防空システムであるS-300 (ミサイル)のPT及びPSシリーズと9K37ブークのレーダーは小さくて遅いドローンを無視するように設計されており、それを再設定するためにはシステム全体の大規模改修が必要だった。また、アルメニアに配備されているロシア製兵器は、輸出用のモンキーモデルであり、小さなドローンの検出に必要な、複数のレーダの機影を一つに集約するプロットフュージョン機能を有していなかった。また、アルメニアはドローンと誘導装置の通信を遮断するための電子戦装置を有していなかった。戦争の最後の数日間のみ、アルメニアの都市ギュムリに駐屯するロシア軍がクラスハ電子戦システムを運用してアゼルバイジャンのバイラクタル TB2の活動を妨害した。それでもアゼルバイジャンは、ドローンの自律機能により運用を続けた。この教訓は、米国、ロシア、中国だけでなくトルコ、イスラエル、南アフリカなどの地域大国においても自律型致死兵器の研究を促すだろう。 アゼルバイジャンの勝因はドローンと火砲を連携させ、敵予備隊を阻止し、局地的に戦闘力を優越させて各個撃破したことである。アゼルバイジャンは、①偵察ドローンにより敵の主戦闘地域の陣地の位置及び予備部隊の位置を標定、②クラスター爆弾、多連装ロケット砲、LOLA戦域弾道ミサイルにより予備部隊を打撃するとともに主戦闘地域と予備部隊を結ぶ橋・道路を破壊。(この際コマンド部隊による遊撃行動を併用 )③予備隊が増援できず孤立した地域に戦力を集中して各個撃破した。この戦術は、一般的に防御が容易であると考えられている山岳地帯で有効であった。なぜならば山岳地帯では主戦闘地域と後方地域を結ぶ道路が少ないため、ドローンは容易に目標を発見できるからである。アゼルバイジャンのドローンの運用が洗練されている一因にはトルコの軍事顧問の存在がある。 ヨーロッパのほとんどの防空部隊はアルメニア軍と同様にドローンに対処できない。冷戦以降、ヨーロッパの軍隊は機関砲タイプの自走式対空砲を段階的に廃止してきた。主に配備している携帯式防空ミサイルシステムのスティンガーミサイルや9K38 イグラなどは小さなドローンを標定することが難しい。ヨーロッパの軍隊は、ドローンを標定するための高解像度のセンサーフュージョン又はプロットフュージョン機能を持つ装甲化された防空システムを有していない。フランスとドイツだけが短距離のドローン妨害装置及び基地防空アセットを有している。 英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)のジャック・ワトリング博士とシドハース・カウシャル博士は戦術弾道ミサイル及びドローンの普及により、中小国は長射程精密射撃が可能となり、大国と同じ戦術が行えるようになったと分析する。アゼルバイジャンが運用したドローンはそれ自体で精密攻撃が行え、さらに旧来の野戦砲及び多連装ロケット砲の観測手段として使うことによって安価に長射程精密射撃を可能とした。これにより、かつては大国の領分であった、縦深地域の集結地、指揮所、兵站地域、予備部隊、重要な橋・道路、重要なインフラ施設を攻撃できた。この際、ドローンと戦術弾道ミサイルは一般的な軍隊の防護の「隙間」を縫って機能するため対処が難しいという。対処手段は多層的な防空システム及び電子戦装置を導入することであるが、これらは高価であることが問題となる。さらに防空システムや電子戦装置は電波を発射することによって敵に位置を暴露する弱点がある。そのため、デコイ、偽電波発射、陽動といった欺騙を積極的に行ってその弱点を補う必要がある。 フォーリン・ポリシー誌は、両国が公開する映像から両軍の部隊運用の稚拙さを指摘する。航空優勢が失われているにもかかわらず、戦車等は偽装もせずに密集したり、また遮蔽物のない広く開けた地域を諸職種協同の掩護もなく前進して撃破されているからである。両軍の戦車等の大量損耗の原因は、最新装備の有無よりも訓練不足であると総括する。
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