9K38 イグラとは? わかりやすく解説

9K38 イグラ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/05/09 03:55 UTC 版)

9K38 イグラ
写真上が9K38 イグラの9P39発射装置と9M39ミサイル、下が9K310 イグラ-1の9P322発射装置と9M313ミサイル
種類 携帯式防空ミサイルシステム(MANPADS)
原開発国 ソビエト連邦
運用史
配備期間 1983年-現在
開発史
製造業者 機械製作設計局(KBM)
値段 60,000-80,000アメリカ合衆国ドル
諸元
重量 10.8 kg (24 lb)
全長 1.574 m (5.16 ft)
直径 72mm

射程 5.2 km (3.2 mi)
弾頭 1.17 kg (2.6 lb) with 390 g (14 oz) 高性能炸薬
信管 直撃ないし近接信管

エンジン 固体ロケット
最大高度 3.5 km (11,000 ft)
誘導方式 2波長光波誘導
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9K38 イグラロシア語: 9К38 «Игла́»(ロシア語で「針」の意), : 9K38 Igla)は、ソビエト連邦が開発した携帯式防空ミサイルシステム(MANPADS)。NATOコードネームSA-18 グロースSA-18 Grouse、艦載型はSA-N-10)。初期型は9K310 イグラ-19К310 «Игла́-1»)と称され、SA-16 ギムレットSA-16 Gimlet)というNATOコードネームが付与されている。

開発

ソビエト連邦は、近距離防空(VSHORAD)システムとして、1968年よりストレラ・ファミリーの運用を開始し、車載式としては9K31 ストレラ-1携行式としては9K32 ストレラ-2が配備された。しかし、特に携行式(MANPADS)において交戦可能域の狭さが問題視されるようになり、改良型の9K34 ストレラ-3が開発されたものの、十分な解決には至らなかった。このことから、ソビエト連邦共産党中央委員会およびソビエト連邦閣僚会議は、1971年2月12日付け決議でソ連国防工業省機械製作設計局(KBM MOP)に対し、新世代のMANPADSの開発を提示した[1]。しかし、開発開始後まもなく、技術的な困難から開発が難航することが明白となった。そのため、1978年5月6日付けのソビエト連邦大臣会議幹部会委員会の軍事産業問題に関する第114号決定で、その保険として簡易型の並行開発が採択した。簡易型は9K310と命名され、これをまず開発・配備したのちに、完全版としての9K38を配備することとされた[2]

9K310 イグラ-1システムは、1981年3月11日付けで制式採用され[3]、完全版の9K38 イグラシステムは、1983年9月23日付けで制式採用された[2]

設計

9K310 イグラ-1システムは、簡単に言えば改良したストレラ-3のシーカーをつけたイグラシステムであった[2]。使用する9M313ミサイルはストレラ-3システムの9M36ミサイルと比べると、

などの改良点があった。

9K38 イグラシステムは9M39ミサイルを使用しており、空力設計やモーター部分はイグラ-1システムで使用していた9M313ミサイルのものを踏襲しているが、アンチモン化インジウム素子と硫化鉛素子を併用することで2波長誘導とされており、妨害への抗堪性を向上させている[2]

運用

最初に開発された9K310は、イラク軍により湾岸戦争において実戦投入され、1991年1月17日、イギリス空軍トーネード IDS撃墜する戦果が記録されている[4]。9K38 イグラはスルプスカ共和国軍により、1995年のNATOによるボスニア・ヘルツェゴビナ空爆の際に使用され、少なくとも1機のミラージュ2000を撃墜した。

2004年には、弾頭を大型化するとともに射程を延伸した9K338 イグラ-S9К338 «Игла́-С»)が開発され、SA-24 グリンチSA-24 Grinch)というNATOコードネームが付与された[2]

9K310と9K38、9K338は9K31/9K32の後継として、東側諸国発展途上国に輸出された。

朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)では1990年代からライセンス生産を開始し、2000年代初頭に「HT-16PGJ」の名称で国産化、シリアモザンビークベトナムなどといった海外諸国に積極的に輸出した[5]。またその利益は金正日の長男である金正男が運用していた[6]九州南西海域工作船事件でも工作船に搭載されていたが使用されず、のちに引き揚げられた。

後継として、2014年9K333 ヴェルバ英語版が採用された。

2024年ロシアのウクライナ侵攻の過程で、ウクライナ軍の女性がイグラを用いて巡航ミサイルKh-101 (ミサイル))を破壊したとする映像が公開された[7]

派生型

3M47 グブカ
イグラ-1E
9K310 イグラ-1の輸出型
9M39 イグラ-1V
Mi-24 ハインドなどの攻撃ヘリコプターから発射できる空中発射型
イグラ-M
艦艇に搭載する近接防空ミサイル
イグラ-1M
9K38 イグラの発展型
9K338 イグラ-Sロシア語版
NATOコードネームはSA-24 グリンチ
シギート
支柱を伴う固定式の発射装置
3M47 グブカ・システムロシア語版
光学射撃管制装置連動の3連装発射機2基を中核にした艦対空ミサイル。ブーヤン型コルベットなど、新しい小型艦艇に搭載されている。
HT-16PGJ
北朝鮮での9K310の派生型。FIM-92やロシアから入手した9K38に影響を受けており、9K38と同じシーカー機構を採用し、空力抵抗を考慮した設計がなされている[5]。また3連装発射機2基で構成された近接防空ミサイル型も確認されており、近年の朝鮮人民軍海軍の新造艦艇に搭載されている[8]

採用国

脚注

注釈

  1. ^ 2024年時点で、アゼルバイジャン陸軍が9K310を保有[9]
  2. ^ 2024年時点で、クロアチア陸軍が9K310を保有[10]
  3. ^ 2024年時点で、ジョージア陸軍が9K310を保有[11]
  4. ^ 2024年時点で、北マケドニア航空団が9K310を保有[12]
  5. ^ 2023年時点で、パキスタン空軍が9K310を保有[13]
  6. ^ 2024年時点で、エクアドル陸軍が1両のM1を保有[14]
  7. ^ 2024年時点で、エジプト陸軍が9K38を保有[15]
  8. ^ 2024年時点で、インド空軍が9K38を保有[16]
  9. ^ メキシコ海軍
  10. ^ 2024年時点で、モロッコ陸軍が9K38を保有[17]
  11. ^ 2023年時点で、シンガポール空軍が9K38(装甲車に搭載した自走型を含む)を保有[18]
  12. ^ 2024年時点で、トルクメニスタン陸軍が9K38を保有[19]
  13. ^ 2024年時点で、アゼルバイジャン陸軍が9K338を保有[9]
  14. ^ 2024年時点で、エジプト陸軍が9K338を保有[15]

出典

  1. ^ ПЗРК "Игла-1" и "Игла"” (ロシア語). Вестник ПВО :: Авторский проект Саида Аминова. 2011年3月14日閲覧。
  2. ^ a b c d e "Игла" (9К38, SA-18, Grouse), переносный зенитный ракетный комплекс©” (ロシア語). ОРУЖИЕ РОССИИ, Каталог вооружения, военной и специальной техники. 2011年3月14日閲覧。
  3. ^ ПЗРК "Игла-1" и "Игла"” (ロシア語). Вестник ПВО :: Авторский проект Саида Аминова. 2011年3月14日閲覧。
  4. ^ Lawrence, Richard R.. (2002). Mammoth Book Of How It Happened: Battles. Constable & Robinson Ltd 
  5. ^ a b Mitzer & Oliemans 2021, p. 28.
  6. ^ “金正男, 北の海外武器販売責任者””. デイリーNK (2007年2月13日). 2024年10月27日閲覧。
  7. ^ 【動画】元幼稚園教諭のウクライナ女性兵士がMANPADSでロシアの巡航ミサイル「Kh-101」を撃墜する劇的瞬間”. ニューズウィーク日本語版 (2024年11月19日). 2024年11月20日閲覧。
  8. ^ Mitzer & Oliemans 2021, p. 166.
  9. ^ a b IISS 2024, p. 180.
  10. ^ IISS 2024, p. 79.
  11. ^ IISS 2024, pp. 184–185.
  12. ^ IISS 2024, p. 116.
  13. ^ The International Institute for Strategic Studies (IISS) (2023-02-15) (英語). The Military Balance 2023. Routledge. pp. 279-283. ISBN 978-1-032-50895-5 
  14. ^ IISS 2024, p. 431.
  15. ^ a b IISS 2024, p. 348.
  16. ^ IISS 2024, pp. 269–270.
  17. ^ IISS 2024, p. 374.
  18. ^ The International Institute for Strategic Studies (IISS) (2023-02-15) (英語). The Military Balance 2023. Routledge. p. 288. ISBN 978-1-032-50895-5 
  19. ^ IISS 2024, pp. 208–209.
  20. ^ . http://sp.rian.ru/onlinenews/20081119/118401447.html  {{cite news}}: |title=は必須です。 (説明)

参考文献

  • The International Institute for Strategic Studies (IISS) (2024) (英語). The Military Balance 2024. Routledge. ISBN 978-1-032-78004-7 
  • Mitzer, Stijin、Oliemans, Joost『朝鮮民主主義人民共和国の陸海空軍』宮永忠将(監修)、第日本絵画、2021年。ISBN 9784499233279 

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