偽1568年版
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/11/22 14:33 UTC 版)
「ミシェル・ノストラダムス師の予言集 (1568年)」の記事における「偽1568年版」の解説
1568年リヨン版には、ニセ版も複数出されている。まず、1649年頃には、『国王シャルル9世の侍医にして不世出の卓抜な天文学者の一人であったミシェル・ノストラダムス師の予言集。リヨン、1568年』(Les Propheties de M. Michel Nostradamus. Medecin du Roy Charles IX. & l'un des plus excellens Astronomes qui furent iamais)と題する偽版が、トロワもしくはパリで出版された。 これは、当時ジュール・マザランを中傷するために出されていたマザリナードに類するもので、以下のようなニセの詩篇が織り交ぜられた版だった。 7-42 Quant Innocent tiendra le lieu de Pierre, Le Nirazam Cicilien (se verra En grands honneurs) mais apres il cherra, Dans le bourbier d'une civille guerre.インノケンティウスがペテロの座についている時 シチリア人のニラザムは(自覚するだろう 大いなる栄誉のうちにあると。)しかし後に没落するだろう。 内戦の泥沼のなかで 7-43 Lutece en Mars, Senateurs en credit, Par une nuict Gaule sera troublee, Du grand Croesus l'Horoscope predit, Par Saturnus, sa puissance exillee.マルス(=戦火)の中にあるルテティア、信頼ある元老院議員たち。 夜にガリアは混乱させられるだろう。 大クロイソスのホロスコープは予言する。 サトゥルヌスによって、彼の権力は追放されることを。 ニラザン(Nirazam)はマザラン(Mazarin)の単純なアナグラムである。クロイソスは富豪で知られる古代リディア王国の王で、財と権勢を誇ったマザランの比喩だという(Benazra [1990] p.209)。つまりは、どちらもマザランの没落を祈って書かれたものである。 この版は、1656年の著者未詳の注釈書『ミシェル・ノストラダムス師の真実の四行詩集の解明』にて、既に偽物であることが指摘されていた。そのため、後の時代の版にはほとんど影響を及ぼさなかったのだが、テオフィル・ド・ガランシエールは1672年に初の英仏対訳版『予言集』を出版したときに、この偽版を底本にした。彼は上記のニラザン(ガランシエールの版では Nizaram となっている)の詩について、こう註解している。 この予言以上に平易で正しいものがあるはずがない。それを否定する人は、太陽の光だって否定してしまうのだろう。(略)にもかかわらず、私が40年前にこれを読んだときには、馬鹿げたものと受け止めていた。 ジェームズ・ランディが指摘するように、この詩を40年前(1632年)に読んだことはありえず、少なからず誇張が含まれている。これらのあからさまな偽の詩篇は、日本で唯一の仏和対訳版『予言集』にも、本物として収録されている。 なお、この偽1568年版のタイトルページは1605年版のものと酷似しており(上掲の画像参照)、内容も1605年版以降でないと現れないものが含まれていることから、直接1568年版を参照したのではなく、1605年版を基にしたのだろうと推測されている。 もうひとつ、全く異なる偽版がある。これは本来の1568年版のタイトルや版元の記載を忠実に写したものだが(画像参照)、木版画は全く異なっている。この木版画も含む表紙のデザインを、ノストラダムス自身が手がけたと主張する者もいるが、裏付けるような資料はない。 この偽版の作者は、正書法の変化に無頓着なため、16世紀当時の表記に比べると現代の綴りに近くなっている(NOSTRADAMVS→NOSTRADAMUS, Adioustees→Ajoûtéesなど)。この綴り字と正書法の歴史的変化の比較から、18世紀以降の版であろうということは、1960年代には指摘されていた。現在では、よく似たデザインの暦書が1792年に出版されていることなどから、1772年から1792年に出版されたものだろうと推測されている。ただし、実際の出版地や出版社については、明らかになっていない。 19世紀の段階では本物と考えられていたため、19世紀の注釈者アナトール・ル・ペルチエが校訂本を出版したときにも、底本のひとつとして用いられた。 この版の内容は、オリジナルの1568年版と異なって、2部構成を採っていない。また、百詩篇第6巻2番の後半2行が、次のように改変されている。 本来の原文 En l'an sept cens, & trois cieulx en tesmoings, Que plusieurs regnes vn à cinq feront change.七百と三の年に、諸天は証する 一から五までいくつかの王国が変化するであろうことを。 改変された原文 En l'an sept cens et neuf cieux seront tesmoings, Que pour de l'or en bled non sans peine il change.七百と九の年に、諸天は証する 金を小麦に替えるのには痛みを伴うということを。 この改変はほとんど相手にされていないが、信奉者のストゥワート・ロッブなどは、1709年に凶作で小麦価格が高騰したことを特筆している。
※この「偽1568年版」の解説は、「ミシェル・ノストラダムス師の予言集 (1568年)」の解説の一部です。
「偽1568年版」を含む「ミシェル・ノストラダムス師の予言集 (1568年)」の記事については、「ミシェル・ノストラダムス師の予言集 (1568年)」の概要を参照ください。
- 偽1568年版のページへのリンク