作品39
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実質的に、ラフマニノフがロシア時代に完成させた最後の曲集である。1920年にベルリンにおいて、クーセヴィツキー夫妻が経営するロシア音楽出版(Edition Russe de Musique)により刊行された。作品39の楽曲も個別に分冊されて出版されており、合本による全曲出版は1969年のブージー&ホークス社版まで出なかった。 ラフマニノフに特有な、高貴なメランコリーとノスタルジーを湛えた叙情的な旋律は、第5曲を除いて現れず、リズム的な練習曲に終始するものや、トッカータ的な曲想を持つもの、ムソルグスキーやプロコフィエフのグロテスクな表現に近づいたものが中心となっている。ベックリンの絵画が作曲に影響を与えたという説もある。有名な第6曲は、とりわけ中間部がバルトークの《アレグロ・バルバロ》に近づいているのも興味深い。全体的に超絶的な技巧を必要とするエチュード。 第1曲 ハ短調 アレグロ・アジタート さまざまなテクスチュアの練習曲で、左手のオクターブ、右手の急速なアルペッジョと重音のトレモロ、両手の房状和音、クロスリズム、クロスフレーズ、シンコペーションなどの要素が現れる。 第2曲 イ短調 レント・アッサイ 「海とかもめ」として有名。演奏技巧としては単純ながらも、多様なテクスチュアが含まれており、タッチが難しい。この憂鬱な作品で、演奏者は楽曲の地味な雰囲気を強調しないように自重が要求される。単調な演奏にならないように神経を尖らすことが求められる。クロスリズムの練習曲であり、3拍子の左手のアルペッジョと、1小節を2分割する右手の旋律という楽想が現れる。悲劇的で詩的な雰囲気のうちに終結を迎える。 第3曲 嬰ヘ短調 アレグロ・モルト さまざまな音程の練習曲。すばやい跳躍や一音一音を繊細に演奏することが求められる。9拍子のこまやかな音にエネルギッシュな3拍子を刻み、豊かな和音とアクセントは非常に魅惑的なハーモニーを薫らす。弾きこなしていく過程で次々とメロディーラインの美しさと響きの妖しさに気付かされる一曲。 第4曲 ロ短調 アレグロ・アッサイ 手と指を広げる練習曲。拍子記号が示されておらず、3拍子、2拍子、4拍子を自在に変化する。さまざまなかたちで1音を連打するという発想が盛り込まれている。 第5曲 変ホ短調 アパッショナート ソナチネ形式もしくは展開部のないソナタ形式として構成されており、スクリャービンの《練習曲 嬰ハ短調》作品42-5に似た構成を採る。右手は弱い指で情熱的な旋律を奏でつつ、同時に残りの指で和音を押さえることが要求されており、左手は密集位置の和音や2オクターブにわたるアルペッジョが求められている。旋律が切れないようにする技術と、左手の音量に旋律が掻き消されないようにする注意力が求められる難曲である。 第6曲 イ短調 アレグロ―ピウ・モッソ―プレスト 「赤頭巾ちゃんと狼」と評されている。逃げ惑う幼児に押し寄せてくる恐怖をユーモア交じりに描き出している。中間部で速度を上げて、スタッカートで演奏される急速な和音や、面倒な16分音符の音型が含まれている。左手の本当に大きな跳躍や、両手にばら撒かれた明らかに半音階進行のオクターブも目立っている。 第7曲 ハ短調 レント(ルグブレ) 作品33-3に似た、荘重な葬送行進曲という曲想を採る。和音のユニゾンとさまざまな音程の練習曲。 第8曲 ニ短調 アレグロ・モデラート 重音と叙情的な表現の練習曲。開始の曲想は第3曲に似ている。音が濁らないように、厳密なペダリングと、しなやかで独立した指、敏捷さが求められる。リズム練習曲に始まるが、中間部で息の長い、明示されたレガートの旋律線が現れ、後半部のスタッカートの部分と好対照を生している。 第9曲 ニ長調 アレグロ・モデラート(テンポ・ディ・マルチア) 行進曲。曲集中唯一「長調」と銘打たれている。曲集を締めくくるにふさわしい演奏効果の高い壮大な曲。
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