ロトベーター
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/26 04:49 UTC 版)
ロトベーター (rotovator) という用語は、ローター (rotor) とエレベーター (elevator) を組合わせたかばん語である。ロトベーターは高速で回転するテザーであり、先端は高速で移動する(毎秒1kmから3km)。 宇宙船は一方の先端とランデブーし、そこに固定され、テザーの回転によって加速される。その後、適当な時点でテザーと宇宙船を切り離し、テザー先端の速度に加速されて宇宙船が進んでいくことになる。 これには動力を必要とする。テザーの運動量や角運動量が変化するため、そのエネルギーを補充するコストがかかる。この場合のエネルギー補充には様々なもの(太陽電池など)が利用できるため、多段ロケットで燃料を消費するよりもずっと安価である。 ロトベーターは外部からやってきた宇宙船を減速させるのにも使え、その場合ロトベーター自体の運動エネルギーは増加する。つまり、外部からやってくる宇宙船が与えるエネルギーと惑星から上がってくる宇宙船が奪っていくエネルギーが均衡すれば、余分なエネルギーを必要としなくなる。 惑星の周回軌道にあるロトベーターで、先端と地表の相対速度がゼロで、高高度で物体をつかむものをスカイフック(後述)と呼ぶ。このようなロトベーターは中心力のストレスに耐えられる材料がないため、現在の技術では妥当なコストで建設できない。回転速度を3分の2程度にすれば、中心力の応力は半減する。応力耐性を強めるには、中心部分を太くすればよい。 月のように大気がなく、周回速度も遅くて済む場合、ロトベーターの先端が地表に接するようにもでき、月から地球への安価な輸送手段となる。このためには一定のエネルギー消費が必要と考えられるが、月の表面から貨物を持ち上げたとして、月の表面自体が地球に比べて位置エネルギーが高いため、貨物を地球を周回する低い軌道に乗せることはエネルギー効率的に好ましい。 ロトベーターは運動量の交換によってエネルギーがチャージされる。貨物を重力場内で「高い」位置から「低い」位置に運ぶ場合、運動量がチャージされる。質量を落とすことでロトベーターの回転速度は上がる。例えば、月と地球の間にいくつかのロトベーターを並べるという方式が考えられる。ロトベーターは月からの貨物を地球に運ぶ際に運動量がチャージされ、その運動量を使って地球から月への貨物を運ぶことができる。 ロトベーターは理論的には太陽系全体の安価な輸送手段となる可能性もある。その場合、貨物の輸送先は太陽や地球などの大質量の天体となる。 地球や土星などの強い惑星磁場では、電気力学的テザーを応用した伝導式ロトベーターが考えられる。これは発電機としても使え、発電により角運動量を失い、逆に太陽光や原子炉で発電することで角運動量を増すことができる。なお、角運動量を増すにはテザーに電流を流す必要があるが、回転方向によって電流の方向も変えなければならない。 弱い材質でロトベーターを構築する方法としてロトベーターを楕円軌道で周回させるという方法がある。この場合、近地点で貨物を受け取り、より高い軌道で貨物を投げるためにテザーの長さを変えたり、貨物のテザー上の位置を変化させる。つまり、角運動量だけでなく周回軌道における運動量も変化させることで、必要な強度やサイズや質量を劇的に減らすことができる。これを周回 (revolution) の運動量も利用するという意味でレボベーター (revovator) と呼ぶことがある。レボベーターでの運動量のチャージはさらに複雑になる。 もう1つの弱い材質でのロトベーター構築方法は、地表で貨物を受け取るのではなく、ある程度の高度で乗り物を捕まえて軌道に投げ上げる方法である。例えば、マッハ 12 の航空機を地球の大気圏上層で捕まえ、軌道に投げるのである(逆も可能)。その程度の速度をロケットで実現することは容易である。これにより燃料を節約でき、輸送機関を単純化して貨物積載量を増やすことができる。 NASAはHASTOL(Hypersonic Space Tether Orbital Launch System)計画の研究を行った。これはマッハ10、高度100kmまで極超音速機で加速するものである。本研究ではザイロンやスペクトラといった既に実用化されているもので十分建造に足ることを示唆している。 ロトベーターの実用的な改良として、貨物を捕まえるポイントを先端だけでなく複数用意して、様々な運動量を与えられるようにするというものがある。また、リニアモーターをロトベーターに装備することでロトベーター自身の角運動量以上に宇宙船を加速させるというアイデアもある。
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