ブロードウェイとヨーロッパへの進出
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/12 08:35 UTC 版)
「早川雪洲」の記事における「ブロードウェイとヨーロッパへの進出」の解説
ハリウッドと決別した雪洲は、ニューヨークへ出て舞台俳優に活路を見出し、フレッド・ド・グレザック(英語版)作の『タイガー・リリー』という芝居を上演することにした。雪洲はブロードウェイでの舞台経験がなく、演技力も未知数だったため、まずは1923年1月からデラウェア、ピッツバーグ、アトランティックシティなどの東海岸の都市で公演を重ねた。ところが、公演は好成績を収めるには至らず、1月26日付けの『羅府新報』はアトランティックシティでの上演が「観衆は期待を裏切られたほどの出来」だったと報じた。その結果、『タイガー・リリー』は3週間の都市公演で事実上打ち切られ、ニューヨークで日の目を見ることは叶わず、雪洲はブロードウェイの劇場に出演することが生易しいことではないことを痛感した。 それでも雪洲は諦めず、ニューヨークで新しい芝居の題材を探していたところ、フランスの映画会社のフィルム・ダール(フランス語版)から、クロード・ファレールの小説が原作で日露戦争を舞台にした国際的大作『ラ・バタイユ』(1923年)で主役の日本海軍将校を演じるオファーを受けた。契約を結んだ雪洲は「アメリカでは人気が落ちたが、ヨーロッパではまだまだいける」と自信を深め、1923年7月に将校の妻役で共演が決まった鶴子とフランスへ渡り、パリで熱狂的な歓迎を受けた。『ラ・バタイユ』は雪洲の力が働いたおかげで、フランス海軍の協力により本物の軍艦を動員して撮影された。作品はパリで2年間も上映が続くほどの大きな成功を収めたが、日本では国辱的な描写があるとして、原形をとどめぬほどに編集されたものが公開された。 その後、雪洲はパリの劇場カジノ・ド・パリ(フランス語版)で1幕の短い芝居『神の御前に』(1923年)に出演し、連日大入り満員のヒットとなった。雪洲はヨーロッパでもすっかり人気者となり、イギリス国王ジョージ5世からは王室主催のコマンド・パフォーマンス(英語版)での芝居の指名を受けた。1923年11月にロンドン入りすると数万人の群衆に出迎えられ、チャップリンが凱旋帰国した時よりも熱狂的な歓迎ぶりだったと報じられた。雪洲が上演したのはウィリアム・アーチャーの戯曲『サムライ』で、12月13日にロンドン・コロシアム(英語版)で国王の天覧を受けた。舞台は高い評判を呼び、約7か月にわたりイギリス各地で巡演し、その間には2本のイギリス映画にも出演した。 1924年末に雪洲は再びパリへ戻り、しばらく遊びほうけていたところ、パリのナイトクラブで知り合ったニューヨークの大劇場主リー・シューバート(英語版)から『ラブ・シティ』という舞台で主役の中国人を演じる話を受けた。単なるスターから演技力で評価される俳優へと転身したいと思っていた雪洲は、一度は失敗したブロードウェイで自分の力量を再び試すため、約2年を過ごしたヨーロッパを離れ、1925年夏にニューヨークへ戻った。『ラブ・シティ』はこれまでにない長台詞が多く、完璧な演技が求められたため、雪洲は稽古中にプレッシャーで胃炎を患い、ひどく痩せてしまったという。舞台は翌1926年1月からブロードウェイのリトル・シアター(英語版)で上演されると成功を収め、雪洲の舞台での演技も正当に評価された。 『ラブ・シティ』の成功で、雪洲はニューヨークに腰を落ち着け、そのあとに自身初の小説『バンディット・プリンス』(1926年)を出版した。この小説はハーバード大学で学ぶ中国の王子が主人公の恋物語で、雪洲はその一部を脚色する形で次の舞台『馬賊の王子』を自作し、1926年6月にニューヨークで上演した。舞台は評判を呼び、雪洲はすぐに日米の俳優10数人を集めて一座を組み、1927年までニューヨーク、フィラデルフィア、シカゴ、ロサンゼルス、サンフランシスコなど全米各地で『馬賊の王子』を巡業した。1928年には自ら脚本と演出を兼ねた新作舞台『笑へる男』の全米巡業を行ったが、この舞台の評判も上々で、映画化の話も持ち上がり、翌1929年に自身初のトーキーとなる『大和魂(英語版)』として公開された。すでに映画界はサイレントからトーキーへ移行し、多くのサイレント映画のスターがトーキーに適応できずに銀幕から消えていったが、雪洲はヨーロッパ時代から舞台俳優として台詞の経験を積んでいたおかげで、トーキーに適応して映画出演を続けることができた。
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