ヒト以外の動物と微生物叢
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/08 13:33 UTC 版)
「微生物叢」の記事における「ヒト以外の動物と微生物叢」の解説
ヒトと同様に様々な動物が微生物と共生関係にあり、固有の微生物叢を持つ。微生物叢はそれを保持する動物の行動によって構成が変化し、また微生物叢が宿主となる動物の行動に影響を与えるとされる。一方でアリなどの一部の動物は、病的な状態や一過性に微生物が寄生することを除くと、共生関係にある微生物叢が存在しない場合もあると指摘する研究もある。 ペットとして、ヒトと生活空間を共にするイヌはそこで生活するヒトと同じ大腸菌を共有することがある。また、イヌの皮膚の微生物叢は飼育するヒトの皮膚の微生物叢と類似し、ヒトの皮膚の微生物叢はイヌを飼育することで多様性を増す。 一般に動物の腸内細菌叢は食性によって変わり、系統学的に近い種であっても食性が異なると腸内細菌叢の構造は異なったものとなる。食性の違いによって生じる腸内細菌叢の差異は、腸内細菌叢の機能にも影響を及ぼすとさせる。2011年に公表された研究では、草食動物の糞便においてアミノ酸や糖の生合成に関わる酵素の遺伝子が増加していた一方、肉食動物ではアミノ酸や糖の分解に関わる酵素の遺伝子が増加していた。レッサーパンダとジャイアントパンダは食性と腸内細菌叢の関連性における例外的存在であり、これらの動物は草食動物であるが、その腸内細菌叢はむしろ肉食動物のものである。これはパンダが最近になって食性を肉食から草食へと変化させたことを反映させているのかもしれない。 ウシに代表される反芻動物は、胃が4つの部屋に分画されており、食道から直接つながる第一胃は食物の発酵槽として働く。草食動物であるウシは草本を栄養源として利用するが、一般に植物の葉は果実や動物の肉と比べて栄養の利用効率が低い。これは植物の葉がセルロースに代表される不溶性の多糖類から構成されるためであるが、反芻動物はこの不溶性の多糖類を第一胃の微生物による発酵で分解し、最終生産物として得られる酢酸、酪酸、プロピオン酸などの短鎖脂肪酸(揮発性脂肪酸とも呼ばれる)を吸収する。反芻動物はこの短鎖脂肪酸を材料に糖新生、脂肪新生という過程を経て糖や脂肪を合成している。反芻動物の飼料利用効率は農業において重要であり、第一胃の微生物叢と飼料利用効率の相関が調査されている。それによると、ウシの飼料利用効率は第一胃にフィルミクテスが多い場合に高いとされている。 細菌叢や特定の細菌が、それを保持する宿主に及ぼす生理作用を明らかにするために、ノトバイオート技術が用いられる。ヒトの細菌叢がヒトの健康に及ぼす影響を明らかにするためには、ヒトそのものを研究材料とすることがもっとも直接的な方法だが、遺伝的、環境的な背景を揃えた実験群を用意することは困難であり、また、健康を害するおそれのある処置を伴う実験は倫理的に行うことができない。そのため、ヒトの腸内細菌の研究であっても実験動物を用いた実験が必要となる。既知の細菌のみが腸内などに定着しているノトバイオート動物の作製においては、細菌の株やその混合物を何の微生物も定着していない無菌動物に接種する。さらに、細菌を移植されたノトバイオート動物の病態や健康状態の変化を観察することで、移植した細菌叢が宿主に与える生理作用を調べる。現在広く用いられる無菌動物はマウスとラットだが、無菌動物を用いた初期の研究ではモルモットが多く用いられた。他にもウサギ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマ、イヌ、ニワトリなどの動物でも無菌化が行われている。
※この「ヒト以外の動物と微生物叢」の解説は、「微生物叢」の解説の一部です。
「ヒト以外の動物と微生物叢」を含む「微生物叢」の記事については、「微生物叢」の概要を参照ください。
- ヒト以外の動物と微生物叢のページへのリンク