テクストを使用しない表現での代替
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/09/18 14:25 UTC 版)
「合唱交響曲」の記事における「テクストを使用しない表現での代替」の解説
ベルリオーズは、テクストの標題的側面を利用して『ロメオとジュリエット』の交響曲形式を形作らせ、その内容の手引きとする一方で、管弦楽がテクストに取って代わって言葉を使わずにどれだけそうした表現を深められるかを示しもした。彼は『ロメオ』の序文に次のように書いている。 もし、有名な庭園と墓地のシーンの2人の恋人の対話にてジュリエットの傍らで、またロミオの情熱の爆発が歌われず、もし愛や嘆きの二重唱がオーケストラに委ねられたのだとしたら、理由は多数あり理解も容易である。第一に、これは交響曲であってオペラではないのであり、これだけで十分であろうということ。第二に、この類の二重唱は幾度となく最大級の巨匠たちが声楽として扱ってきているのだから、別の表現方法を試みるのが賢明かつ風変りであること。さらに、この愛が高尚であるために表現が音楽家にとって非常に危険だった。そのため、こうした場合には器楽の方がより豊かで、より変化に富み、正確性に劣り、非常に漠然としているが故に比較にならない程力強いにもかかわらず、音楽家は歌われる言葉の前向きな意味が器楽語法を頼りにすることをさせないと思うほどに、創造力を豊かにしなければならなかった。 宣言文として、この段落は同一の音楽作品の中における交響的要素と標題的要素の融合にとり重要なものとなった。音楽学者のヒュー・マクドナルドが記すには、ベルリオーズは交響的構築に関する詳細な見解を頭の中に持っていたため、管弦楽に器楽的に劇的な箇所の大半を表現させ、説明的であったり叙述的な部分に言葉を使って音楽にしたという。同僚の音楽学者であるニコラス・テンパーリーは、ベルリオーズは『ロメオ』において作品が交響曲と認識できる範囲を逸脱するのを避けつつ、物語的なテクストが合唱交響曲の構造を支配できるようなモデルを創り上げたのだと論じている。この意味において、リストやマーラーの交響曲はベルリオーズの影響に負うところがあるのだと、音楽学者のマーク・エヴァンス・ボンズは書いている。 さらに最近では、アルフレート・シュニトケがテクストの物語的側面を用い、自身の2作の合唱交響曲において言葉が歌われない場面も含めて曲を規定させてみせた。全6楽章からなる彼の交響曲第2番はローマ・カトリック式のミサ曲の順序に従って進み、物語風に2つの段階が並行して進むようになっている。昇階曲から採られたコラールへ付された音楽により独唱者と合唱が簡潔にミサ曲を演奏する中、オーケストラが拡大された同時解説を行っていき、それがミサの部分の演奏よりもかなり長く続いていく。解説はときに特定のコラールに従ったものとなるが、多くの場合自由度が高く様式的にも広い幅を持つ。結果として形の上で不均衡となっているが、伝記作家のアレクサンドル・イヴァシュキン(Alexander Ivashkin)はこう述べる。「音楽的にこれらほとんど全ての箇所で、コラールの曲と、続く拡大されたオーケストラの『解説』が混ぜ合わされている。」この作品はシュニトケが呼ぶところの「見えざるミサ曲」となり、イヴァシュキンは「コラールを背景にした交響曲」と名付けることになった。 シュニトケの交響曲第4番の持つ標題は、作曲当時の作曲者自身の宗教的ジレンマを反映しており、演奏はより複雑となり、大部分は言葉を伴わずに表現される。単一楽章の交響曲を形作る22の変奏において、シュニトケはイエス・キリストの生涯における重要な瞬間を際立たせる15の伝統的なロザリオの神秘を示し出した。第2交響曲で行ったのと同様に、彼は描写中の事柄に関する音楽解説を同時に用意した。カトリック、プロテスタント、ユダヤ教、正統派の信仰する教会音楽を引用しつつ、数多くの音楽の流れが同時に進行してオーケストラのテクスチュアが極端に濃密になる中で、彼はこれを実行している。テノールとカウンターテナーが曲中の2か所で歌詞のない歌唱を行う。歌詞はフィナーレで4種類の教会音楽が対位法的に扱われる場面まで温存され、そこで4部の合唱が『アヴェ・マリア』を唱和する。合唱は『アヴェ・マリア』をロシア語で歌うか、ラテン語で歌うかを選択することが出来る。イヴァシュキンが書くのは、これら異なる種類の音楽を用いる標題的な意図は、作曲者の「様々な信条が表明される中にあっての、人類の団結、統合、調和(中略)という思想」の主張にあるということである。
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