グリム兄弟『ドイツ伝説集』の伝える「白鳥の騎士」
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「ローエングリン (アーサー王伝説)」の記事における「グリム兄弟『ドイツ伝説集』の伝える「白鳥の騎士」」の解説
グリム兄弟は『ドイツ伝説集』 (1816/18)において白鳥の騎士にまつわる伝説を数話伝えている。 541話「ライン河の白鳥の舟」(Das Schwanschiff am Rhein)では、ヒロインの名はベアトリクス、彼女の領地はクレーヴェ (Kleve)、白鳥の騎士の子孫は現存し、白鳥を象った風見鳥が回転する「白鳥の塔」がこれを記念するものであると。(このドイツ西部、ライン川下流地域、オランダとの国境に近い町には「白鳥城」が存在する。) 542話「ブラバントのローエングリーン」(Lohengrin zu Brabant)では、ヒロインの名はエルス(Els)ないしエルザ(Elsa)。彼女の父ブラバント=リンブルク公(Herzog von Brabant und Limburg)は死の床で若き娘を家臣の一人フリードリヒ・フォン・テルラムント(Friedrich von Terlamund)に託す。彼は竜退治をしたこともある勇者であったが、傲慢になり、姫がかつて彼に結婚を約束したと偽って彼女に求婚する。彼女がそれを拒否すると、彼は皇帝ハインリヒ・デア・フォーグラー(Heinrich der Vogler)に訴え、その結果、姫は勇士を代理に立てて、フリードリヒとの決闘で相手の主張の不当性を証明しなければならなくなる。姫を助けようとする者が現れないなか、彼女は熱心に神に祈り助けを求める。ちょうどその時、聖杯城で鐘が鳴り、緊急に助けを求める人がいることを知らせる。聖杯はパルチヴァールの息子ローエングリンを派遣するようにと告げる。ローエングリンが馬に乗ろうとすると、白鳥が舟を曳いて近づいてくる。 その間、エルザムはアントウェルペンに重臣や家臣を招集していた。その集会の日にシェルデ川(die Schelde)を上って、舟を曳く白鳥が現れる。ローエングリンは姫から事情を聞き、彼女のために戦うことになる。エルザムはその後、親族を呼び寄せる。母方の一族からはイングランド王も駆けつける。一行はザールブリュッケンに集合し、さらにマインツにまで行く。フランクフルトに滞在していた皇帝ハインリヒもマインツに向かう。マインツで決闘が挙行され、ローエングリンが勝利し、フリードリヒは処刑される。ローエングリンは自分の出自を問わぬように言いつつエルザムと結婚する。ローエングリンは国を良く治めたばかりか、皇帝のためにもフン族や異教徒との戦いで優れた働きをする。ところがある時、クレーヴェ公と一騎討をした際に相手を槍で突いて落馬させると、公は腕を折ってしまう。すると公妃はローエングリンが素性の知れぬ者、と嫌味を言う。その言葉に傷ついたエルザムはついに、夫にしてはいけない質問をしてしまう。ローエングリンは白鳥の曳く舟に乗って聖杯城に向かう。エルザムは気絶し、残された子供たちは皇帝が引き取る。 543話「ロートリンゲンでのロヘラングリーンの最期」(Loherangrins Ende in Lothringen)においては、主人公はブラバントを去ったあとに、リツァボリー国(Lyzaborie/Luxemburg)にやって来て、その国の美しい女性ベライエ(Belaye)の夫になる。彼女は夫を愛してやまず、夫が側にいないと病気になってしまうほどだった。ある時、彼女は侍女に、夫をさらにしっかと自分に縛り付けるには、彼が猟から帰ってきて疲れて寝ているときに、その体の一部を切り取って食べなければならないとそそのかされる。ベライエはその勧めを退け、侍女を追い払ったが、侍女はベライエの一族に嘘をつく。一族はベライエの苦しみを減らすためにその夫の肉を切ろうと相談をし、実行する。彼は左腕に致命傷を負い、悲報を聞いたベライエも死ぬ。二人の遺骸は同じ棺に納められ、墓地の上には修道院が建てられる。この国はロヘラングリーンに因んでロタリンゲン(Lotharingen)と呼ばれるようになる。 544話「白鳥の騎士」(Der Schwanritter)では、ヒロインの父親はブラバント公ゴットフリート(Herzog Gottfried von Brabant)と名を明かされているが、ヒロインには名が付されていない。この話では、ヒロインの母にも言及され、ブラバント公は自国の相続人は妻と娘とする文書を残していた。しかし、公の死後、兄弟のザクセン公(Herzog von Sachsen)がブラバント国を奪取する。 公妃は王に訴えることにする。ドイツ王カールがネーデルラント(Niederland)に赴き、ナイメーヘン(Neumagen)に滞在するというので、公妃は娘を連れてそこに向かう。ザクセン公も来ている。王が窓から外を眺めると、白鳥がライン川を上って舟を曳いてくる。舟の中には騎士が眠っている。皆は驚き、岸辺に向かう。王は騎士を歓迎し、裁きの場の諸侯の席に騎士を座らせる。 公妃がザクセン公の不当を訴えると、公は反論し、公妃は彼と戦って決着をつけてくれる人物を出さなければならなくなる。件の騎士がザクセン公と戦い、打ち負かす。騎士は公妃の娘と結婚する、彼の素性を尋ねないという条件をつけて。 二人は二人の子宝にも恵まれたが、妻は夫がどういう素性なのかを知らないことに悩まされタブーを犯してしまう。夫婦の子供たちからはヘルデルン(Geldern)家、クレーヴェ(Kleve)家、リーネック(Rienek)伯爵家など多くの貴族が生まれ、すべてがその紋章に白鳥を描いている。 (この544話「白鳥の騎士」は、編者Utherの注によると、15世紀の1643行の詩を原拠とし、その詩はコンラート・フォン・ヴュルツブルクの作品に基づいている。コンラートの「白鳥の騎士」には、詳しい注のついた邦訳がある。「参考文献」参照) 545話「善人ゲルハルト・シュヴァーン」(Der gute Gerhard Schwan)の主人公も白鳥の舟で来た騎士であるが、口をきくことができない。カール王に迎えられ名前を訊かれると、名前と旅の目的の書かれた文書を示す。王に良く仕え、皆に気に入られて言葉を急速に身につける。王は娘を彼の妻にし、アルデンヌ(Ardennenland)を治める公爵に任ずる。 この短い話には、主人公の聖杯城との関わり、窮地の姫の救出と条件付きの結婚、そして妻子との別離についての言及は全くない。 以上の話は、素性の知れぬ、よその地から来た若者が、窮地の姫を助けて彼女と結婚するものの、妻が夫の素性を訊かぬという約束を破ったがために彼は妻子を捨てて行ってしまうという筋を骨格とする。それは世界中に類話が見いだされるタイプであるが、「ローエングリン伝説」の特徴となっているのは、主人公が白鳥の曳く舟でやってきて、同じ舟で帰っていくことである。この説話を、A型説話とする。
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