エンバーゴ期間の持続は可能か
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/01/23 07:17 UTC 版)
「エンバーゴ (学術出版)」の記事における「エンバーゴ期間の持続は可能か」の解説
ただし、現行のエンバーゴ期間はSTEMで6-12ヵ月、社会科学および人文科学12ヵ月以上に設定され、学術誌の購読に対するその期間の長短が与える影響に経験則は当てはめていない。イギリス議会庶民院の発明技術特別委員会は2013年、「エンバーゴ期間が短いまたはゼロであっても、定期購読の停止の原因になるという利用可能な証拠はない」とすでに結論付けている。 学術論文が総ダウンロード数の半分に達するまでにかかる時間を「使用半減期」とすると、その中央値について分野間の違いをまとめた入手可能なデータは複数あるが、これらをもってエンバーゴ期間の長さが定期購読に影響する証左とはならない 。 待機期間を設けないセルフ・アーカイブは、定期購読方式のリスクになるという議論であるが、ポストプリント(en)のアーカイブがある以上、皮肉な状況にある。出版社が査読の先の製作工程(版下づくりから配本、アーカイブ作成など)に進むとして、読者はたとえ印刷用の書式設定のないポストプリントを利用できても、冊子版の付加価値にお得感があるなら代金を支払って買うからである。エンバーゴがあるから個々の記事を有償購読しているが、実は、課金額は査読を経た冊子版がもたらす付加価値よりも高くつく(費用対効果が低い)という理論を、有償購読者に突きつけていると見なされる。 出版社はこれまで、たとえば人道的危機が発生すると特定の研究課題のエンバーゴ期間を解除したり、解除を要求された経験がある(例えばジカ熱とエボラ出血熱の発生)。それ自体を称賛に値すると考える研究者はいても、そこには暗黙のうちに、エンバーゴ措置は科学の進歩と科学研究の応用の可能性を阻害するという了解が横たわる。特に生命を脅かす感染症爆発においては否定できない。どんな研究でも果たして生命を救うために重要かどうかは論を分けるが、特定の研究者の成果にその個人の人脈または一般社会の提携相手が無制限にアクセスできたとして、そのような措置で誰も利益を受けない分野は想像しがたい。 伝統的な学術誌がエンバーゴ期間をゼロにして、セルフアーカイブの方針と平和に共存できる証拠はあり、「論文の普及と引用が増えるほど出版社と著者に悪い影響を与える」とする推定とは対照的に、両者ともにそれを上回る利益を受ける。出版社にとってプレプリントのリポジトリは事実上、著者に出版物の記録(VOR)へリンクしたりアップロードするように奨励していて、つまり個々の学術誌と出版社にとって無料のマーケティング効果を生んでいる。 プランS(en)は主要な原則の1つとして、セルフ・アーカイブのエンバーゴ期間をゼロにした。すでにそのような方針を実施する王立学会やセージ(Sage)、エメロード(Enerald)などの出版社は 、これまでのところ財政状況への悪影響を報告していない。『HighWire』はプランSへの反応を載せ、同社に加盟する3つの学会出版社ではすべての論文を原稿提出時から自由に利用できるよう公開しており、この慣行が購読の減少に寄与したとは判断しないと述べた。結論として、エンバーゴ期間の必要性は証拠で裏付けできず、正当化する論拠はほとんど見当たらない。
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