つがい形成
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/04/04 09:24 UTC 版)
生殖は、遺伝子が次の世代へ繁茂してゆく手段であり、生殖における性的選択は、人間の進化において重要な役割を果たしている。それで、つがい形成やつがい維持の仕組みを解明しようとする進化心理学者は、人間のつがい形成に興味を持っている。つがいの相手の選択、不倫、つがいの維持、つがい形成の傾向、男女間の争いなどの研究領域は、この興味に基づいている。 1972年に、Robert Triversは、性差について、重要な論文を発表した。これは、現在では「親の投資の理論」と呼ばれている。男の生殖細胞(精子)のサイズは小さいが、女の生殖細胞(卵)のサイズは大きい。Triversは、この生殖細胞のサイズの違いが原因となって、いろいろなレベルにおける親の投資の違いをもたらしていると主張した。例えば女性は最初に多くを投資しているが、Triversは、この親の投資の違いが、性選択における異なる繁殖戦略をもたらし、男女間の争いをもたらしていると主張した。そしてTriversは、例えば、子どもに少ししか投資しない親は、包括適応度を高めようとして、子どもに多くを投資する親への接触を求めて競争すると主張した(Batemanの理論を参照)。Triversは、親の投資の違いが、つがい相手の選択や、同性間や異性間の生殖競争や、求愛の誇示行動の違いをもたらすと主張した。ヒトを含む哺乳類では、妊娠や分娩や授乳など、メスはオスよりずっと多くの投資をしている。親の投資の理論は、生活史理論の一部分である。 BussとSchmitt(1993年)の性的戦略理論は、次のように主張する。親の投資の違いにより、ヒトは性的に異なった適応を進化させた。例えば、性的な接近のしやすさ、生殖能力の評価、相手への関与や拒絶、資源調達の緩急、父性の確実性、つがいの価値の評価などにおける異なった適応を進化させた。BussとSchmittの戦略妨害理論は、片方の性の繁殖戦略が、他方の性の繁殖戦略を妨害する場合には、両性間の争いが起きて、怒りや嫉妬のような感情が引き起こされると主張する。 女性は、慎重に相手を選ぶ。特に短期的なつがい形成において慎重である。しかし、ある環境下では、短期的なつがい形成は、女性にも男性と同様の利益をもたらす。例えば繁殖の保険として、あるいは、より良い遺伝子への乗り換えとして、近親交配のリスクの減少として、自分の子どもを保護する保険として、女性に利益をもたらす。 父性の不安定さは、性的な嫉妬の性差をもたらす。女性は、配偶者が感情の結びつきのある不倫をすることに強く反発するが、男性は、配偶者が性的な不倫をすることに強く反発する。これは、つがい形成におけるコストが男女間で異なっていることに由来する。女性は通常、資源(資産や関与)を提供する相手を好むので、相手が感情の結びつきのある不倫をすることは、資源を持つ相手を失う脅威になる。他方男性は、自分で子どもを産むわけではないので、子どもの父親が誰であるのか確証を持てない(父性の不確かさ)。それで男性にとって、相手が感情的な不倫をするより、性的な不倫をした方が、脅威になる。なぜなら、他の男の子どもに投資しても、自分の遺伝子が繁茂するわけではないからである。 女性は月経周期のいつ、どういう相手を好むかという興味深い研究がある。この研究の理論的根拠は、先祖の女性は、自分のホルモンの状況により、特定の特徴を持つ男性を選択する仕組みを進化させていたと考えられることである。この理論の仮説の一つは、月経周期の排卵の時期(月経の約10~15日後)に、遺伝的な性質の優れた男性とつがい形成した女性は、より健康な子どもを産んで育てることができることである。女性によるこの好みは、短期的なつがい形成の際に、より明瞭になると予想される。研究者たちが予想するのは、女性は月経周期の中の妊娠しやすい時期に、良い遺伝的性質を持つことを示す特徴を備えた男性を選択することである。実際、研究により、月経周期により女性の好みが変化することが示されている。特に、HaseltonとMiller(2006年)は、高度に妊娠しやすい女性は、短期的な相手として、創造的で貧しい男性を好むことを示した。創造性は、良い遺伝子の指標となる。Gangestadら(2004年)の研究は、高度に妊娠しやすい女性は、社会的存在感や同性内競争を誇示する男性を好むことを示した。これらの特徴は、男性が資源を持っているか持つ能力があることを、女性が判断するカギとして機能すると考えられる。
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