『ガメラ対バルゴン』の特撮
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「大怪獣決闘 ガメラ対バルゴン」の記事における「『ガメラ対バルゴン』の特撮」の解説
前作『大怪獣ガメラ』では、東京撮影所の中で「継子扱いだった」という湯浅憲明ら撮影スタッフは、『大怪獣ガメラ』の大ヒットで「大威張りだった」という。続く本作では、湯浅は特撮監督に、前作に引き続き築地米三郎を考えていたが、築地が撮入前にテレビ番組『コメットさん』(TBS)の準備のために国際放映に引き抜かれてしまった。これには湯浅は「ショックだった」と振り返っている。大型予算が組まれたため、デビュー3年目の湯浅は「大作監督にはまだ早い」とする本社の意向で築地に代わって特撮専任となり、本編監督にはベテランの田中重雄が据えられた。 こういった経緯で、本作では湯浅は特撮班に回され、元々大映の撮影所では特撮班があまり重視されてこなかったこともあって、前作以上に撮影所からは軽い扱いを受けることが多く、現場では本編監督が重視されたという。本編重視で特撮部分があまりにカットされ、湯浅が「特撮担当だって監督なんだ、こっちのカットを変えないでくれ」と撮影所所長の元へ直接抗議に向かったこともあったという。大映のスタッフは基本的に縁故採用であり、「これに起因する近親憎悪だった」と湯浅は語っている。 しかしベテラン中心の本編スタッフに対し、特撮現場が若いスタッフ中心となったため、湯浅ら特撮班は逆に結集して仕事に燃えることができたそうで、これに伴い、特撮パートもかなり長いものになっている。前作から特殊美術を担当しているエキスプロでは、社長の八木正夫以下スタッフ総出で特撮セットに入り、ミニチュアの制作の他に、操演も担当している。 A級予算が組まれた作品だが、湯浅によると、東宝ほどの予算編成は望めないため、特撮は出来るだけ現場で処理したそうで、バルゴンが噴射する冷凍液には光学合成ではなく消火器を使った。大映には現像所が無かったため、予算を圧迫する光学合成は東洋現像所に一任する形となるので、虹色光線も自分で現像所に行って焼きこんだという。東洋現像所も導入したばかりのオプチカル・プリンターの実験を兼ね、グロス受注で虹光線の合成を行ってくれた。バルゴンが通り過ぎる旅館の中を逃げる人影は、16mmフィルムで逃げる人々を撮影し、建物内に映写したものである。 前作『大怪獣ガメラ』とのつながりを示すものとして、ガメラを封じた「Zプランロケット」のカプセルの宇宙シーンが新撮され冒頭に登場するが、前作のミニチュアとは大きさ、形状が全く異なっている。バルゴンがポートタワーを舌で押し倒すシーンは、工作部のスタッフがポートタワーを頑丈に作り過ぎてなかなか壊れず、ミニチュアが倒れ切る前にフィルムが尽きてしまった。撮り直しはきかず、余韻のないものになってしまったと湯浅は惜しんでいる。 大型予算を受け、大阪城のミニチュアセットはフルスケールで作られたが、美術監督の井上章が縮尺を正確にしすぎて、セットに入りきらなくなってしまったという。バルゴンの冷凍液によって凍りつく大阪城の描写はコマ撮りの手法を使って徹夜で撮影されたが、現像が上がってみると、湯浅いわく「パラパラ漫画」のようになっていた。このため、1コマずつ現像で尺を伸ばし、オーバーラップで画を重ねて編集している。ガメラの表面の氷が徐々に溶けて流れるカットは、セットを斜めにして氷を溶かし、流水を表現した。 冒頭でガメラが破壊する黒部ダムの特撮セットは、石膏製のフルスケール模型が作られた。この向こう側に12トン超の貯水量の木製水槽が置かれ、観音開きで一斉放水してダム決壊のシーンを10倍速の高速度で撮影した。万全の用意の末にいざ撮影が始められたところが、30人の大道具係が開いた水槽の扉のタイミングがずれてしまい、濁流が二段階で流れ出てしまった。10倍速撮影のため、1秒のずれは10秒に拡大されてしまい、かえって迫力のある決壊描写となった。このとき、ダムの下流では火災描写の効果を出すため赤い照明が当てられていたが、濁流で火が消えた後に照明を消すのをスタッフが忘れてしまった。結局撮り直すことはできず、このシーンは赤い照明のまま使われた。 小野寺が飲み込まれるシーンのために、実物大のバルゴンの頭が作られた。日本の怪獣映画としては初めての、人間が怪獣に食べられるさまを描写した作品である。 湯浅の「東宝のゴジラとは違う画を創ろう」との意向で、怪獣同士の戦いにも、切ったり突いたりといった絡みが採り入れられ、円谷英二の方針で流血を避けた東宝の怪獣映画と差別化され、本作以降、ガメラシリーズでは怪獣の流血描写が頻繁に見られるようになった。バルゴンの角やトゲもそういった意向でデザインされている。カラー画面を考慮して、必要以上の残虐風味を避けるためガメラやバルゴンの血の色は緑や紫にされた。「四つ足怪獣同士の戦い」という本作の構図も、従来の東宝作品に見られなかったものだった。これもプロデューサーの斉藤米二郎や湯浅らの「ゴジラが二本足なら、こっちは四本足で」という前作から続くゴジラシリーズへの対抗意識の現れだった。
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