船舶工学 風の抵抗

船舶工学

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/03/04 07:55 UTC 版)

風の抵抗

推進エネルギーの損失を考える場合には、空気の密度は水の約800分の1であるため、水による損失のみが検討され、空気による抵抗成分は従来はあまり考慮されなかった。ただ横風による船体の動揺や横滑りが操船に無視できない影響を与えることが生じている。

接岸時と離岸時の危険性

純自動車専用船(Pure car carrier, PCC)のような上部構造物の巨大な船では船首部や船尾部を丸く作る事で風の抵抗を出来るだけ受けないようにする工夫も行なわれるようになった。

PCCに限らず、巨大コンテナ船や超大型フェリーも運搬対象がかさばる割に重量が軽い。このため、水面上の船体が水面下の船体に対して非常に大きい。これは空荷状態か満載状態によらない。いずれの場合も水に浮かぶサッカーボールのように風に簡単に流されてしまう。この現象は広い公海上ではそれほど問題とならないが、港での接岸と離岸時には危険を生む。実際に、これらの船が風に吹かれて流され、たびたび事故が発生している[6]

抵抗の低減

船底

航海時に水流と接する船の底の表面の粗さは、直ちに摩擦係数の増大となって船足を下げ燃費の悪化を招くため、可能な限り平滑な状態を維持しなければならない。 船底には自己研磨性防汚ポリマー剤が塗装されており、これが水中へと徐々に溶け出すことでフジツボなどの海洋生物の付着を防止して平滑度を維持している。

バルバス・バウ

バルバス・バウ。錨鎖の出ているベルマウス部分の下にバルバス・バウのマークが描かれている。バウ・スラスターとそのマークも見える。

近年21世紀初頭でのほとんど全ての大型で単胴の船舶の造船では、水中の船首部をバルバス・バウ(球状船首)とすることで造波抵抗を最小化する工夫を取り入れている。

バルバス・バウも設計時の喫水では最適の効果を発揮するが、空荷の時の貨物船やタンカーではバルバス・バウが水面上まで出てしまってかえって効率を悪くすることがある[7]

バルバス・バウは水面下で船の前方に大きく突き出ているため、港に停泊中に小さなボートなどがこれらの船の前を横切ろうとする場合などに、誤って船底を擦ってしまう恐れがある。他船からバルバス・バウであることが判るように船首の両側面にバルバス・バウを備えているという印が描かれている。

シーマージン低減型船首

斧の形をしたAx-Bow(アックスバウ、シップ・オブ・ザ・イヤー2001受賞)、鋭角な形をしたLEADGE-Bow(レッジバウ)[8]、Whale Back Bowは、船首端での水線面形状がシャープで、波から受ける抵抗が小さく、波浪中での船速低下が少ない。実海域でのシーマージンが小さい技術として、実用化されている[9]

トリムタブとインターセプター

トリムタブとインターセプター

モーターボート程の大きさの滑走船では、凪いだ水面を高速で航走すると船首が上がって船尾が下がる(船尾トリム)状態になってしまい滑走一歩手前でそれ以上加速できなくなることがある。船尾のトランサム英語版の船底角に取り付けられた「トリムタブ」や「インターセプター」[2]と呼ばれる板を下方へ押し下げることで船尾に揚力を作り、過度な船尾トリム状態を解消して船底で発生していた抵抗を無くすことで滑走へと入ることが出来る。ただし、追求しすぎると速度低下をまねく。大型の高速船でもコンピュータ制御のトリムタブを持つ船がある。

エンジン

船舶用のエンジン、つまり「主機関」としては、ディーゼルエンジンを使用するのが最も一般的であり、ガスタービンエンジンも使用されている(主として艦船や高速船)。船外機も含めて、小型ボートではガソリンエンジンが多い。ただし、船舶ではガソリンの使用は避けられる傾向にある。これは、ガソリンが燃費が悪く、可燃性のリスクが高く船上火災事故が多いためである。

核物質の核分裂反応を利用した原子炉も利用されている(原子力船)。ただし、空母潜水艦などの艦船用やロシアの砕氷船と数えるほどでしかない。

エンジンの回転方向は特に規定は無いが、一軸推進の場合に前進で右回転のものがほとんどであり、2軸では右が右回転、左が左回転のものが多い。

エンジン出力は次の式で求められる。

有効馬力 = 船の抵抗 × 船速 ÷ 75

実際にはプロペラシャフトの回転摩擦時のロスやプロペラの効率などによって必要な出力は2倍程度が求められる。

ディーゼルエンジン

ディーゼルエンジンはガソリンエンジンに比べれば重くかさばるが、燃料には低品質で廉価ながら引火リスクが小さく高カロリーな重油や軽油が使用できるため船舶用エンジンとしては最も代表的なものである。ディーゼルエンジンの原理により高圧力に耐えるだけの重く分厚いエンジン・ブロックが必要となり重く場所を取るだけでなく、ピストンやシリンダーのサイズに比例して燃焼時の騒音や振動を抑制することはかなり困難となっている。出力増大のために過給器インタークーラーが補機として備わっているのが普通である。始動時には、あらかじめ電動ポンプによって蓄えられた起動用圧搾空気タンクからの高圧空気をシリンダー内に抽気してピストンを動かす。また、後進時にはギヤーではなくエンジンを逆回転させる。

船舶に用いられているディーゼルエンジンもいくつかの種類に分けられる。

低速回転ディーゼルのプラント
1.空気 2.空気加圧ポンプ 3.始動用高圧空気タンク 4.低速回転ディーゼル・エンジン 5.燃料(A重油、C重油) 6.燃料ポンプ 7.燃料加熱器 8.冷却水 9.冷却水ラジエーター 10.潤滑油 11.潤滑油ラジエーター 12.-14.冷却用海水 15.高温排ガス 16.船内水排気ボイラー 17.排ガス 18.燃焼用空気 19.給排気タービン 20.プロペラ・シャフトと推進器 21.発電機(複数)
低速回転ディーゼル・エンジン
300回転/分以下で回転するものと分類される低速回転ディーゼルエンジンは、一般に巨大であり大直径で長尺のシリンダーを複数備えている。2サイクルのものが多く、4サイクルに比べて圧縮比を少し下げることで燃焼時のガス圧を下げてエンジン・ブロックの厚みを軽減している。
水中での物理を考えれば、大きな翼面を持つプロペラを低速で回した方がエネルギー効率が良い。その点、低速回転のエンジンでは減速歯車が不要でプロペラ・シャフトに直結できるため、重量、保守、故障、騒音振動などの面で有利であるが、エンジン本体の重量とその大きさが帳消しにしており、歯車がなければ1本のプロペラ・シャフトに1台のエンジンしか接続出来ないという制約が生じる。
回転数も100-300回転/分程度のものが多く使われており、シリンダー当り3,000馬力以上の出力のもので75-110回転/分、シリンダー当り1,000馬力程度のもので150-180回転/分となっている。
このため、タンカーやコンテナ船などの大きく比較的速度も遅い船は大きく低速回転のディーゼルエンジンを搭載している。気筒ピストンシリンダー)のロングストローク化が進んでいるが、さらに機関室の高さを求めることになる。
中速回転ディーゼルエンジン
中速回転ディーゼルエンジンは300-1,000回転/分が分類上の回転数だが、実際は380-600回転/分のものが多い。4サイクルのものが多く圧縮比を高められるので燃料消費が少なくて済む。減速歯車(ギヤー)を備えるために、エンジン回転数とプロペラの特性に最も適した設定を選べるので燃費が向上し、また、複数のエンジンを1本のプロペラシャフトに接続できるため、エンジン選択の幅も広がる。減速歯車を持つディーゼルエンジンをギヤードディーゼルと呼び、複数のエンジンを1本のプロペラシャフトに接続したものはマルチプル・エンジンと呼ばれる。複数のエンジンを接続するためにそれぞれにクラッチを備える。また、エンジンとクラッチの間に弾性継手を介することによってエンジンからの回転変動によって歯車が傷むのを防いでいる。
こういった中速回転のものは機関室の高さが抑えられるので、カーフェリーやRORO船に向く。
高速回転ディーゼルエンジン
高速客船や小型の漁船プレジャーボートなどではディーゼル・エンジンを使用していても1,000-2,000回転/分程度の高速回転のコンパクトなエンジンを使用しており燃料も軽油を使用する。4サイクルのものが多い。
ユニフロー掃気方式のディーゼルエンジン
ターボ過給器によって加圧された空気はシリンダー下部の吸気ポートから押し込まれ、排ガスは上部のポペット・バルブから出てゆく。

船舶用ディーゼルエンジンでも2サイクルのもののほとんどは、排気用のポペット・バルブをシリンダーの上に持ち、掃気を一方向にして掃気性能を高めた「ユニフロー掃気方式」をとっている。

排気用ポペット・バルブの駆動は一般に油圧空気バネが使われている。

低速回転域での効率を優先しているため、ピストンはストロークとボアの比率が3前後の超ロングストロークになっている。

長いストロークをそのままクランクで受けずに、ピストンとコンロッドの中間に側圧を受け止める潤滑部のあるクロスヘッド機構を持ち、コンロッドの長さを抑えている。 超ロング・ストロークのピストン・シリンダーとクロスヘッド機構のためにエンジンの背は高くなる。

船体の大型化と推進力の大出力化を阻むもの

21世紀初頭現在、大きなディーゼルエンジンは、ボアは90cm、ストロークは3mほどになり、12気筒ほどが最大である。これ以上の出力を求めると燃費の良い低速回転ディーゼルでも、ギヤード・ディーゼルでマルチプル・エンジンにしないと、エンジンルームが前後にばかり場所をとってしまう。

また一軸推進のままだと、出力に見合ったプロペラを製作する工場がないと言う問題と共に、通過する海峡、水路などの深さから喫水に制約を受けることによってあまり大きなものは付けられない。

ガスタービンエンジン

小型軽量で比較的大出力が得られるガスタービンエンジンは艦船や高速客船や高速カーフェリーなどで使用される。

ディーゼルエンジンのような大きな振動も発生せず、使用燃料の灯油は大型ディーゼルエンジンの重油と異なり比較的良質なため、窒素酸化物(NOx)や硫黄酸化物(SOx)といった有害な排気ガスは少なくて良いが、燃費は悪くなり、エンジンそのものとメンテナンスのコストがディーゼルエンジンに比べて高い。ガスタービンエンジンには航空機用のものと陸上での発電などで使う産業用のものがあるが、船舶に使われるものは航空機用エンジンの転用品がほとんどである。 ガスタービン・エンジンは陸揚げしての整備が可能なように取り付けられている[2]

焼玉エンジン

従来漁船に多く用いられた焼玉エンジン(Semi-diesel engine)はディーゼル・エンジンに代わった[10]

蒸気ピストン・エンジン

蒸気ピストン・エンジン(Steam reciprocate engine)を使用する船は21世紀の現在、全くない[10]

蒸気タービン・エンジン

21世紀の今でも液化天然ガス(LNG)タンカーでは蒸気タービン・エンジンを使うものが多い。運搬中のLNG(液化天然ガス)が少しずつ気化するためにこれをエンジンの燃料として利用できるためである。 蒸気タービンでは前進時とは別に後進用にタービンを備え、前進時に常に空転している無駄を小さくするために後進用タービンの大きさは半分程度としているのが普通である。このため、船のブレーキに相当する「後進全速一杯」(クラッシュ・アスターン)の時のエンジン出力も小さくなるという弊害がある。 原子力航空母艦や原子力砕氷船に使われている原子力機関も、核燃料の核分裂エネルギーを熱源とする蒸気タービン・エンジンの仲間である。


  1. ^ a b 泉江三著 『日本の戦艦 上』 グランプリ出版 2001年4月20日初版発行 ISBN 487687221X
  2. ^ a b c d e f g 池田良穂著 「図解雑学 船のしくみ」 ナツメ社 2006年5月10日初版発行 ISBN 4-8163-4090-4
  3. ^ 渡辺逸郎著 「コンテナ船の話」 成山堂書店 18年12月18日初版発行 ISBN 4425713710
  4. ^ 伊藤雅則著 「船はコンピュータで走る」 共立出版 1995年1月15日第一版発行 ISBN 4-320-02915-1
  5. ^ a b c 池田宗雄著 「船舶知識のABC」 成山堂書店 第2版 ISBN 4-425-91040-0
  6. ^ a b c d e f 仲之薗郁夫著 「海のパイロット物語」 成山堂書店 2002年1月28日初版発行 ISBN 4-425-94651-0
  7. ^ 小野寺幸一著 「地球90周の航跡」 東京経済 1995年4月20日第一刷発行 ISBN 4-8064-0419-5
  8. ^ 「船の省エネ技術開発」『海の環境革命~海事社会と地球温暖化問題~』(PDF) 日本海事センター、2010年3月、17頁。
  9. ^ ジャパン マリンユナイテッドホームページ TOP > 技術・研究開発 > 技術開発 > 流力技術 > 実海域性能
  10. ^ a b c 野沢和夫著 「船 この巨大で力強い輸送システム」 大阪大学出版会 2006年9月10日初版第一刷発行 ISBN 4-87259-155-0
  11. ^ 檜垣和夫著 「エンジンのABC」 ブルーバックス 講談社 1998年3月20日第6刷発行 ISBN 4-06-257129-3
  12. ^ 野沢和夫著 「氷海工学」 成山堂書店 2006年3月28日初版発行 ISBN 4-425-71351-6
  13. ^ a b 拓海広志著 「船と海運のはなし」 成山堂書店 平成19年11月8日改訂増補版発行 ISBN 978-4-425-911226
  14. ^ 恵美洋彦著 「Illustrations of Hull Structures」 成山堂書店 2006年11月28日初版発行 ISBN 4-425-71381-8
  15. ^ 佐藤忠著 「セメント船を造ろう」 パワー社 2001年9月25日発行 ISBN 4-8277-2277-3
  16. ^ 吉識恒夫著 「造船技術の進展」 成山堂書店 2007年10月8日初版発行 ISBN 978-4-425-30321-2
  17. ^ 池田良穂著 『内航客船とカーフェリー』 成山堂書店 平成20年7月18日新訂初版発行 ISBN 9784425770724
  18. ^ 満田豊他著 『海のなんでも小事典』 講談社ブルーバックス 2008年3月20日第1版発行 ISBN 9784062575935
  19. ^ 海上における船舶のための共通通信システムの在り方及び普及促進に関する検討会報告書p.14 (PDF) 「海上における船舶のための共通通信システムの在り方及び普及促進に関する検討会」報告書(案)に対する意見募集の結果及び最終報告書の公表 総務省報道資料別紙3 平成21年1月27日 (国立国会図書館のアーカイブ:2009年7月22日収集)
  20. ^ 船舶が任意に設置する安価な国際VHF機器の導入に伴う関係規定の整備 総務省報道資料 平成21年10月1日 (国立国会図書館のアーカイブ:2009年10月21日収集)





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