競走馬 競走馬名

競走馬

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/21 05:20 UTC 版)

競走馬名

競走馬は競馬に出走するにあたり馬名登録を済ませることが義務付けられている(馬名登録義務)。相撲で言うところの四股名に相当する。

日本において馬名登録をするには、ばんえい競馬を除いて公益財団法人ジャパン・スタッドブック・インターナショナル(2010年11月30日までは財団法人日本軽種馬登録協会)による馬名審査を通過しなければならず、馬主の申請に対して「馬名登録実施基準」に基づいた審査が行われる[20][† 2]。不適とされた馬名は登録できず、変更を求められる。日本における馬名登録の時期・方法については、以前はトレーニングセンター(中央競馬の場合美浦栗東)に入厩するか、産地馬体登録検査をするときにJRAに申請して正式登録となったが、2002年からJRA、NAR(地方競馬)の全ての競走馬登録を日本軽種馬登録協会が一括して行うようになり、血統登録証明書が発行され次第(概ね1歳7月以降)馬名登録ができるようになった。

馬名登録のルール

世界におけるルール

競馬と生産に関する国際協約(通称:パリ協約)により、アルファベット18文字(空白、記号を含む)までと決められている。ドイツでは、その競走馬の競走馬名の1文字目は、母親と同じ文字でなければならない。香港ではアルファベットの馬名の他に漢字表記(4文字以下)の馬名も登録する。なお、香港ジョッキークラブでは、ジャパンカップ凱旋門賞といった香港域外の主要競走の馬券を独自に販売しているため、香港で出走したことがない競走馬に対しても漢字表記が設定される場合がある[† 3]

なお、馬名登録は各競馬管轄区で行われるため、異なる国で同世代に同名馬が誕生するケースがある[22]。近年では2022年6月12日にアイルランドのゴーランパーク競馬場で同じレースに同一名の馬(ともにSierra Nevada)が出走した[22]。一方はアメリカで馬名登録された3歳牝馬で、もう一方はアイルランドで馬名登録された4歳牝馬であった。このような場合には混乱を避けるために出馬表の馬名の後ろに出生国が付される。1835年にはイギリスのダービーステークスで同名馬(ともにIbrahim)が出走したケースもあった[22]

日本におけるルール

アルファベット18文字(空白を含む)以内、かつカタカナ9文字以内[20][23]。アルファベットの馬名とカタカナの馬名を併せて登録する。

パリ協約調印以前に付けられた馬名の場合、アルファベットの馬名は18文字以内とは限らない(「ニホンピロムーテー」Nihon Pillow Moutiers…21文字、「ニホンピロウイナー」Nihon Pillow Winner…19文字 など)。

馬名に使用できる文字

カタカナのみ。1928年以降カタカナに統一される。

それ以前の20世紀初頭までは漢字の馬名があり、その後も「第一」、「第三」などのついた馬名は認められていた。またかつて、「ザ・キング」[24]、「ザ・ビクター」[25]、「ラ・フウドル」[26]など、約物中黒を含む馬名が認められていた時期もあった[27]

  • 歴史的仮名遣いの「」・「」については、過去に使用例(「スウヰイスー」「ダイヱレク」など)があったが、現在では「昭和61年7月1日付内閣告示第1号による現代仮名遣いに限る」と定められているため使用できない。
  • 」についても戦前に使用例(「ヤマトマスラヲ」「イサヲ」など)があり、戦後に「ヰ」・「ヱ」と同様の理由により使用禁止となったが[要出典]1997年より再び使用が認められた。同年にデビューしたエガオヲミセテが解禁後最初の「ヲ」馬名の馬となった[28]。登録基準上は助詞として正しい用法でなければ使用できないとされているが[29]、実際はそれ以外の「ヲ」も稀に使用されている(「ゼンノスサノヲ」など)。
  • 「ハ」については「は」と「わ」、「ヘ」については「え」と「へ」、各カナ共に両方の読みが可能である(「オレハマッテルゼ」、「ミライヘノツバサ」など)。
  • 「ヴ」については、1960年の東京牝馬特別を制したヴァイオレットなど広く用いられていた[30]。しかし、「ブ」と紛らわしいとして1962年6月に馬名への使用が禁止となった[30]1990年1月より「外来語として原音の意識がなお残っているもの(元の単語がアルファベット表記で「V」を使用しているものなど)」に限り使用が認められ、1月11日にヒルゼンヴァリー、ミリオンスタイヴァの2頭が解禁後第一号の登録となった[30]。「ヴ」馬名の初出走は同年2月4日にデビューしたヒルゼンヴァリー[31]。ただし血統馬名、繁殖牝馬ではそれ以前からも認められていた例がある(「ネヴァービート」など)[30]
  • 促音拗音については、中央競馬では1968年9月21日より使用を認めた[32](「カツトップエース」など)。リュウズキのように使用可能になるまでリユウズキと大文字で代用していた例もある。しかし地方競馬では1990年まで使用が認められておらず、例えばオグリキャップ笠松所属時は「オグリキヤツプ」と称していた。血統登録でも同年より使用を認められるようになったため、それ以前に繁殖登録された促音・拗音の付いた競走馬は全て大文字で登録されている(サツカーボーイマツクスビユーテイメジロデユレンなど。読みは競走馬時代と同じ)。
  • 戦前までは馬の徴発を目的とした馬籍法の関係で生後30日以内に馬名を登録する必要があった。この「血統名」と競馬会に登録する「競走名」は生産者が馬名登録しない限り通常異なる名前となる。そして特に牝馬の場合は繁殖入りした際に血統名を使用することが一般的のため、競走名と血統表に残る名はその多くが関連しなかった。血統名については漢字を使用することも可能である。例を挙げると下総御料牧場では毎年勅題の中の一字と母馬の最後の一字をあてる。1932年(勅題は月)産まれの星友の仔→月友1940年(勅題は年)産まれの賢藤の仔→年藤(クリフジ)となる。一方で父の名の頭に第一、第二、第三…と連番を打つだけの血統名もあり、シアンモア産駒では第二シアンモア(ヨネカツ)、第六シアンモア(オオツカヤマ)、第七シアンモア(ワコー)、第十シアンモア(エーシアンモア)などが血統名で種牡馬入りするなど混乱をきたしたため、1941年以降は種牡馬については競走馬名を使用することになった[要出典]
  • 同名の繁殖馬が同時期に複数いた場合、エンタープライズII、ロイヤルアカデミーII、シアトルダンサーIIのようにローマ数字を付加して区別することがある。
馬名に使用できる字数

2文字以上9文字以内。1937年に「7文字以内」の字数制限が設けられ、戦後に「9文字以内」に変更された[要出典][† 4]。10文字馬名の競走馬は、1936年の第4回農林省賞典障害(春)優勝馬・「ジユピターユートピア」などが存在する。戦前で最も長い馬名は「ナンバートウエンチーシキス」と「ゼスカーレツトピンパーネル」でいずれも13文字である[要出典]。また、2002年より10文字以上の馬名のほかに1文字の馬名も正式に禁止となった[要出典]。1文字馬名の競走馬は、1934年春デビューの「ヤ」(青毛牝4歳、血量69.5%のアングロアラブ、「矢」が語源)[33]が唯一。正式に禁止されるまでは、発音などに難点があるため使用しないように指導していた。

9文字以内という字数制限のため、「カツラノハイセイコ(ー)」「メイショウビ(ク)トリア」「マチカネタンホイザ(ー)」「ファビ(ュ)ラスラフイン」「ハートランドヒリュ(ウ)」「カルストンライトオ(ー)」「オウケンブルースリ(ー)」など単語の一部の字を割愛して登録した馬名も存在する。

日本以外で登録された競走馬を日本に輸入した場合、カナ転記の際には文字数による制約を受けない。しかしジャパンカップなどの国際招待競走に出走する輸入馬がカナ馬名にで9文字を超える場合に、日本国内のシステムが対応できずに10文字目以降が省かれてしまう場合がある(例:サイレントウィットネス(Silent Witness) - 9文字目までの「サイレントウィット」しか表示されなかった)。

使用できない馬名
  • サラブレッド造成から今日まで、功績を残した著名な馬の馬名[23]
  • 国際保護馬名[23](後述)
  • 日本国外の重要な競走の勝馬の馬名[23]
カタカナ表記では異なっても、英表記にした際にこの項に抵触するという理由で許可されない例もある。
日本国内に「バルバロ」という、ケンタッキーダービー優勝馬「バーバロBarbaro)」と英表記で同一になる競走馬がいる。「バルバロ」は「バーバロ」と同じ2003年生まれで、「バーバロ」が活躍する以前に馬名を登録されたことから問題はなかった。ただし、「バーバロ」が活躍した現在では、「バルバロ」の登録抹消後5年を経過しても「バルバロ」という競走馬名は英表記で「Barbaro」となることから認められない。
2001年にニュージーランドで生まれた香港所属の「アルマダ」(Armada。以下、香港のアルマダ)が2008年の安田記念に出走して2着となった直後、日本で2006年に生まれた牡馬に同じ名が付けられ競走馬登録された。「アルマダ」が国際保護馬名に該当しないために起こったもので、2009年に香港のアルマダが安田記念への出走を決めた際に、2頭をどう区別するかが問題となった。対応策として、2009年の安田記念にて発券された香港のアルマダの単勝・複勝・応援馬券には、「アルマダ(NZ)」と生産国の略号が加えられた[34][35]
  • 2008年以前の中央競馬GI競走及びJpnI競走(2歳時の競走は、1991年以降)、中山グランドジャンプ並びにダート競走格付け委員会により格付けされた地方競馬のGI競走及びJpnI競走の勝ち馬の馬名[36]
以上4項の例外 - 冠名など別の単語を付け足した馬名は認められることがある(シンザンミホシンザンベガアドマイヤベガといった例がある)。
1989年生まれのヒシマサルは、1955年に生まれたヒシマサルが安田記念などに勝利して種牡馬にもなっていたため馬名登録できなかったが、アメリカで「Hishi Masaru」として血統登録を行った上で輸入することにより、これらの問題を回避したいきさつがある。
ゴールドシチーは1986年のGI競走阪神3歳ステークスの勝ち馬であるが、1991年以前の2歳(施行当時の馬齢では3歳と表記)GI競走であったこと、更に種牡馬にならず乗馬としての訓練中に1990年に死亡したため、2016年に全く同じ名前の「ゴールドシチー」がデビューしている。
  • 日本の競走馬の系統上、特に有名な種牡馬または繁殖牝馬の馬名
  • 父もしくは母の馬名と同じ馬名
  • 特定の個人・団体名など宣伝(営利)目的のような馬名[23]
例外 - 馬主自身の名称や商標については冠名として認められる(「オンワード」・「サクラ」・「ニホンピロ(ー)」など)。
  • ブランド名、商品名、曲名、映画名、著名人などが含まれる馬名。
過去には「トヨタクラウン[37]のように既存の商品名をそのまま馬名にしたもの[27]や、「ヒヤキオーガン」(2頭存在[38][39])・「タチカワボールペン[40][41]・「マルマンガスライタ[42]のように、馬名を商品の広告宣伝に利用する事例が存在した[27]が、このような馬名は1964年から原則として禁止になった[27]
特許は存在するが商標登録されていない物や、商標登録されていたのが期限が切れて更新しなかった商標の普通名称化された物(普通名詞になったもの[† 5])は、認められることがある。
著名人では「リンカーン」「シャラポワ」「ペリー」「シンゲン」などフルネームでない場合や、キングカメハメハのように若干捩りをいれたり、著作権に触れないフルタイトルでない作品名(あるいは、その作品の登場キャラクター)、冠名を伴う馬名は公式には別の由来として登録するなどの手段で認められることがある。1980年代半ばに「プリンセスナウシカ」、1990年代には「サザンシルフィード」(漫画『風のシルフィード』の「サザンウィンド」と「シルフィード」から引用された)、2000年代には阪神ジュベナイルフィリーズ勝ち馬「テイエムプリキュア」、2010年代は「ジャスタウェイ」(脚本家の馬主である大和屋暁が脚本を担当したアニメ「銀魂」に登場する物体から引用。公式には「その道」(Just a way)として登録)など、その時代の漫画やアニメのヒット作を感じさせる馬名も存在した。また世界的に有名な企業と同名であっても、一般の英単語であれば認められることも多い(「トランセンド」(Transcend)=「卓越する」という動詞)。
  • 馬の性別にそぐわない馬名
1976年に輸入されたRaise a Ladyというアメリカ産種牡馬が日本ではレイズアボーイという名前に改名された例がある。
例外 - 「ウズシオタロー」「オンナウルトラマン」のように牝馬でありながら認められた例もある。「トムボーイキャット」(tomboy=おてんば娘)や「オトコマサリ」など、単語の一部に異性を表す言葉を含んでいても単語全体が性別と一致する場合は使用可能。また「アドマイヤベガ」は母「ベガ」の馬名を含んでおり、由来である恒星ベガには日本語では「織女星」の別名があるが、原語では性別を表す語を含まないため認められた。
  • 公序良俗に反する馬名[23]
いわゆる放送禁止用語に該当するような言葉を含む馬名。ただし一見そのように見える言葉を含む馬名でも「チェリーコウマン」(馬主が有限会社弘馬〈こうまん〉であることに由来)や「キンタマーニ」(インドネシアの地名・キンタマーニに由来)のように、冠名としての利用や正当な馬名意味として証明できる場合には認められる場合がある。
  • 再使用禁止馬名以外で、現役馬・登録抹消馬・種牡馬・繁殖牝馬に類似する馬名(特に1文字違いや発音)
却下例 - 「チョウカイテイオー」(「トウカイテイオー」に発音が似ている。チョウカイは冠名)
却下例 - 「モルフェーヴル」(「オルフェーヴル」に発音が似ている。オルフェーヴル産駒、モルフェは冠名)
採用例 - 「ナイキシャトル」(「タイキシャトル」に発音が似ている。本馬の馬主は97〜98年産はナイキを冠名にしている)
採用例 - 「クラローレル」(「サクラローレル」から頭の1文字を削った。クラは冠名)
  • 競馬用語・競走名などと同一もしくはそれらが含まれる馬名
実況放送で紛らわしく混乱が起きる懸念があることから認められない。小田切有一が「ニバンテ」という馬名を申請したことがあるが、この理由で却下された[43]。同様に地方競馬全国協会においては馬名の末尾にゴオ、ゴウ、ゴー、を用いないという制約もあった(2002年よりこの規定は削除された)。すなわち場内放送などで「○○号の進路が…」などという場合に不都合で紛らわしいからである[44]
競馬関係者の名前や通称として用いられているものも同様に認められない(例:「アンカツ」など)。過去には1971年生まれの競走馬に「タケユタカ」が実在した例はあるが[45][† 6]、これも武豊という騎手がいる現在では馬名として登録できない。
  • カタカナ表記では異なる馬名でも、アルファベット表記では同一もしくは類似となる馬名

以下の条件については、次の一定基準期間を満たさないと馬名の再使用ができないものであるが、その基準年数を超えた場合であっても、上記GI級競走や主要国際競走優勝馬、及び国際保護協定馬と同じ馬名の再使用は認められない。

  • GII優勝馬・GIII優勝馬の馬名(登録抹消後10年を経過しないと再使用できない)[23]
1968年金鯱賞を制したローエングリン(1965年生まれ、父・タリヤートス、母・トサモアー)の馬名を再使用した1999年生まれのローエングリンは、中山記念マイラーズカップなどに勝利した。なお、厩舎、馬主とも両馬との関係はなかった。このほか「コンチネンタル」「スズホープ」「ホワイトアロー」などの馬名が再使用されている[46]
  • 過去に登録された馬名(登録抹消、あるいは死亡後5年を経過しないと再使用できない)[23]
1971年年度代表馬トウメイ」のように、元々は「メイトウ」にしたかったがこの規定のために使えず、急遽メイとトウをひっくり返して馬名にした例がある。
登録抹消後5年を過ぎれば、他の制限に掛からない限りは自由に使用できる。このことから、同じ馬主が再度使用したために、近親に同名馬が存在する例もある。実際の例としては「トウカイスバル」があり、1987年生まれの「トウカイスバル」の母トウカイナチュラルと、2003年生まれの「トウカイスバル」の母トウカイローマンは姉妹(ローマンが姉)で、2頭の「トウカイスバル」は従兄弟の関係にある。
  • 馬名変更前の旧馬名(変更後2年を経過しないと再使用できない)
  • 繁殖登録された馬の馬名は、以下のいずれかの条件を満たさないと再使用できない。
    • 種牡馬の場合 - 死亡後15年が経過する、最後にその馬を父とする産駒が産まれてから15年が経過する、満35歳になる
    1989年生まれのヒシマサルは2002年が最後の産駒生産となった(2018年死亡)。使用可能となった2016年に、2014年生まれのヒシマサルが登録された[47]
    • 繁殖牝馬の場合 - 死亡後10年が経過する、最後に産駒を産んでから10年が経過する、満25歳になる
馬名の変更

競走馬登録前であれば、何度でも可能である。競走馬登録後は年齢にかかわらず、初出走前に1回に限り変更できる。初出走後はいかなる理由があっても、変更することはできない。

なお、1982年までは2歳時であれば1回に限り、初出走後も馬名を変更することができた。主な例としてトキノミノル(旧名:パーフェクト)、ダイナナホウシュウ(旧名:タマサン)などが挙げられる。また、戦前であるが1942年横浜農林省賞典四歳呼馬優勝馬・アルバイトが、トレードの際に馬名をクリヒカリに変え、翌年(1943年)の帝室御賞典(秋)を制した例がある。さらには初出走後に中央競馬から地方競馬、または地方競馬から中央競馬に移籍した際にも馬名の変更が認められていたが、中央競馬では1982年8月以降[48]は同名馬がいた場合などの例外を除いてできなくなり、地方競馬においても2010年現在は認められていない。

1986年の富士ステークスとジャパンカップに出走した「ウェイバリースター」(Waverley Star)は、翌1987年にニュージーランドからオーストラリアに移籍したが、オーストラリアでは同名馬がいたことから「アワウェイバリースター」(Our Waverley Star)の名で出走した[49]。日本には同名馬はいなかったが、1987年の富士ステークスとジャパンカップにおいても「アワウェイバリースター」として出走した。

近年においては日本出身馬のオーストラリアへの移籍が活発になっているが、2017年の函館2歳ステークスの勝馬「カシアス」の豪州移籍時は移籍時に既に同名馬が居たことから日本語由来の「ケモノ」(Kemono)の名前に変更されている。

アルファベット表記

アルファベット表記についてはかつてはローマ字のみを採用しており、また促音の「ッ」が「ツ」(TSU)として扱われるなどしていた[50]が、1982年に出された「馬名登録改善案」[48]の実施後は外国語に由来する単語については原則として原語を用い、ローマ字についても一部の長音を表記しないなどの対応がなされた。雑誌『優駿』では改善の例としてホウヨウボーイのアルファベット表記(HOUYOU BOH-I→HOYO BOY)が紹介されている[48]

ローマ字のつづり方は外来語を除いてヘボン式に従うが、前述のように18文字以内の規制があるため、シ・チ・ツについては字数オーバーとなる場合に限りSHI・CHI・TSUではなくSI・TI・TUと表記することが認められている。例としてマチカネフクキタル(MATIKANEFUKUKITARU)がある。

珍馬名

従来、馬の名前には、主にスピードや強さを表す語(パワー、スピード、ハヤテ、ハヤト、ストロング、サンダーなど)が良く使われていたが(ほかには星座ギリシャ神話の神、牝馬のレディ、フラワー、ガールなどの英単語はあったが、日本語のフレーズはジョオー、ヒメなどを除きほとんど使われていなかった)、1990年代以降は単なる漢語和語フレーズなどをそのまま馬の名前にした、いわゆる「珍名馬」が増加している。

代表例は、2006年の高松宮記念を制した「オレハマッテルゼ」を始めとする小田切有一の所有馬(俗にオダギラーと呼ばれる)、「マチカネ」の冠を付けた馬を所有する細川益男マチカネワラウカドマチカネフクキタルなど この2頭も含め、一部は一般公募で命名)、医師の國分純らである。

一連の「珍名馬」増加の背景には、日本語のフレーズを馬の名前に最初に採用した小田切の影響、あるいは国際レースの増加に伴う海外の馬との名前の重複の可能性の回避などが強いと言われている。

国際保護馬名

国際保護馬名(International list of protected names)は、過去の優秀な成績の競走馬や主要な種牡馬や繁殖牝馬との馬名の重複を防ぐために国際競馬統括機関連盟(IFHA)によりアルファベットで登録され管理されている。

2005年以降の登録基準は以下の通りである。

以下、日本調教馬・日本国内の種牡馬(輸入種牡馬含む)及び繁殖牝馬における選出例を挙げる(対象競走優勝馬除く)[52]

一方で、ST.LITE(1941年の三冠馬)、NARITA BRIAN(1994年の三冠馬)やOGURI CAP顕彰馬)が未登録など必ずしも一貫して申請・登録されてはいない。

幼名

主にセリ市で用いられる幼名については現在は「母の名前+誕生年」のパターンがほとんどで、縁起を担ぐために「ハツラツ」と言う名を与えられたオグリキャップのような例はまれとなっているが、血統名でも同様の例がある(「松風」 など)。メジロ牧場では母親の名前から一字取り、なおかつ、毎年違う漢字を一字付けて幼名にしている(メジロドーベルの子にはすべて「飛」の文字が入っている)。また幼名をそのまま競走馬名にする場合もまれにある(「クサタロウ」や「オグリワン」など)。また、幼名と繁殖名が同じで、競走馬名だけ異なる馬も存在する(「クリフジ〈年藤〉」など)。

また、広く知られるところでは、その誕生から馴致・育成に至るまでの期間をJRAのイメージCMドキュメント形式で放映された幼名「カゼノオー」というサラブレッドが、1996年にそのままの名前で競走馬登録されたことがある。

なお繁殖馬・種牡馬で、過去に同名馬があった場合、「○○Ⅱ(2)」(読み方は「○○ツー」「○○セカンド」)と区別して紹介される事例がある。過去に「クリエイターⅡ(2)」や、「アルデバランⅡ(2)[53]などがある。

歴史

近代競馬以前、競走馬はオーナーの名前で区別することが一般的だった。[54]

三代父祖のバイアリータークは「バイアリー氏所有のトルコ馬」、ゴドルフィンアラビアンは「ゴドルフィン伯所有のアラブ馬」、ダーレーアラビアンは「ダーレー氏所有のアラブ馬」という具合である。ほかにはカーウェンズベイバルブ(カーウェン氏所有の鹿毛のバルブ馬)、ダーシーズホワイトターク(ダーシー家所有の白いトルコ馬)など。馬主が変われば呼称もかわるため、同一馬が複数の異なる名称を持つこともある。

名前がない馬に、後年固有名詞が与えられることもある。例えば、英クラシック競走セントレジャーステークスの第一回勝者はアラバクーリアとされることが多いが、かなり後年になってからつけられた馬名であり、当時は名前がなかった。[54]


注釈

  1. ^ 地方競馬全国協会業務方法書第18条の2
  2. ^ 旧法人による馬名登録実施基準は「日本軽種馬登録協会馬名登録実施基準[21]」にある。
  3. ^ ディープインパクト=「大震撼」など。
  4. ^ 戦後ではゴールデンユートピアが唯一の10文字馬名である。[要出典]
  5. ^ 2019年11月17日デビューの「ラガービール」、2022年にデビューした「ジャスコ」など。
  6. ^ 子孫に2018年のNARグランプリ年度代表馬のキタサンミカヅキ等がいる。
  7. ^ 2004年以前は対象となる競走が一部異なっていた。
  8. ^ 2005年のみコックスプレート
  9. ^ 2020年は新型コロナウイルスの影響により開催中止。
  10. ^ a b G1レースはパートI国のみ。
  11. ^ 本来の意味は血統表で太字で表記される馬のことであり、ここでは特定のレースを勝利した馬のことを指す。日本の対象レースはJRAの重賞リステッド競走及び地方の交流重賞である。
  12. ^ 同馬は2021年のジャパンカップ優勝馬であるが、2020年時点で国際保護馬名として登録された。
  13. ^ 中京競馬場は2012年再開のリニューアルオープンに際して、周回距離が延長され最後の直線に坂が設けられたため、中央競馬からは「平坦」「左回り」「小回り」の3条件を満たす競馬場がなくなった。
  14. ^ 日本軽種馬協会『JBBA NEWS』2006年9月号の武市銀治郎の記事によると、高砂、四ツ谷、老松、巴黎、吾妻、第二四ツ谷などが歴史に名を残した。高砂も参照。

出典

  1. ^ かつては数え1歳
  2. ^ 北海道方言辞書 索引トップ用語の索引ランキング北海道方言辞書北海道方言辞書 とねっこ
  3. ^ a b c 櫻井他 2004, p. 74.
  4. ^ 「日本中央競馬会競馬番組一般事項」IIの11「痼疾馬の出走制限」第1項に規定。
  5. ^ 【阪神6R】メロディーレーン レコードV!最少体重優勝記録を2キロ更新 スポニチ(2019年9月29日)2019年12月22日閲覧
  6. ^ グランローズがJRA最少体重出走記録を37年ぶりに更新 ラジオNIKKEI(2011年1月22日)2015年1月9日閲覧
  7. ^ JRA史上最軽量!334キロ馬デビュー サンケイスポーツ(2011年1月23日)2015年1月9日閲覧
  8. ^ “大物”新馬に2つの目標 東京スポーツ(2013年1月27日)2015年1月9日閲覧
  9. ^ 3歳馬ではJRA最高馬体重出走 JRA史上3番目に重い馬体重でショーグンが出走 ラジオNIKKEI(2013年11月3日)2015年1月9日閲覧
  10. ^ 警視庁騎馬隊
  11. ^ 「満13歳のゴールデンバージが復活勝利」十勝毎日新聞』電子版「ばんえい十勝劇場」(2010年7月24日閲覧)
  12. ^ ホッカイドウ競馬の競走能力・発走調教検査で13歳馬が合格”. 日本軽種馬協会「競走馬のふるさと案内所」 (2013年9月17日). 2016年6月7日閲覧。
  13. ^ 櫻井他 2004, p. 9.
  14. ^ 矢作 2008, p. 130.
  15. ^ 中央競馬の馬主活動(日本語版) (PDF) 」(P.25) 2012年9月30日閲覧
  16. ^ a b 列島をあるく■地域のチカラ、地元のタカラ:引退馬を活用し命を救う/再調教 乗馬用や神事に/各地で試み 教育にも『朝日新聞』朝刊2021年6月22日(道内面)2021年8月10日閲覧
  17. ^ 「引退馬 癒し・健康に/TCC、滋賀に交流施設」日経MJ』2018年7月13日(シニアBiz面)2018年10月3日閲覧
  18. ^ 勝てなくなっても 走れなくなっても――引退馬に生きる道を/競走馬の余生 牧場で見守る/支援の輪「ウマ娘」で広がり『朝日新聞』夕刊2022年8月5日1面(2022年8月15日閲覧)
  19. ^ 豪競走馬、年数千頭が虐待され食肉処理か 日本にも輸出 潜入調査報道”. AFP (2019年10月18日). 2019年10月18日閲覧。
  20. ^ a b 公益財団法人ジャパン・スタッドブック・インターナショナル馬名登録基準” (PDF). 公益財団法人ジャパン・スタッドブック・インターナショナル (2012年11月27日). 2015年7月21日閲覧。
  21. ^ 日本軽種馬登録協会馬名登録実施基準” (PDF). 財団法人日本軽種馬登録協会. 2015年7月21日閲覧。
  22. ^ a b c 1つのレースで同じ馬名の2頭が対戦(イギリス・アイルランド)[その他]”. 公益財団法人 ジャパン・スタッドブック・インターナショナル. 2022年7月28日閲覧。
  23. ^ a b c d e f g h 池田 2010, p. 40.
  24. ^ ザ・キング”. JBISサーチ. 日本軽種馬協会. 2018年6月1日閲覧。
  25. ^ ザ・ビクター(NZ)”. JBISサーチ. 日本軽種馬協会. 2018年6月1日閲覧。
  26. ^ ラ・フウドル”. JBISサーチ. 日本軽種馬協会. 2018年6月1日閲覧。
  27. ^ a b c d 珍名馬年表”. 競馬道online. 珍名馬アワード in 20 century. 2020年8月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年3月26日閲覧。
  28. ^ 「ヲ」馬名と「ヴ」馬名。
  29. ^ 馬名登録実施基準.日本軽種馬登録協会
  30. ^ a b c d 優駿』2002年1月号 156頁
  31. ^ 優駿
  32. ^ 『優駿』2014年6月号、85頁。 
  33. ^ 競馬成績書 昭和9年 春季”. 2014年2月28日閲覧。
  34. ^ [外]アルマダ号の勝馬投票券における馬名表記(JRAホームページ、2009年6月4日)[リンク切れ]
  35. ^ NZ産まれ(アール・エフ・ラジオ日本「うまログ」、2009年6月6日)
  36. ^ 馬名登録実施基準』(プレスリリース)公益財団法人ジャパン・スタッドブック・インターナショナル、2012年11月27日https://www.jairs.jp/contents/pdf/bameitouroku.pdf2020年4月5日閲覧 
  37. ^ トヨタクラウン”. JBISサーチ. 日本軽種馬協会. 2018年6月1日閲覧。
  38. ^ (1951年生まれの馬)ヒヤキオーガン”. JBISサーチ. 日本軽種馬協会. 2018年6月1日閲覧。
  39. ^ (1961年生まれの馬)ヒヤキオーガン”. JBISサーチ. 日本軽種馬協会. 2018年6月1日閲覧。
  40. ^ タチカワの歴史”. 立川ピン製作所. 2018年6月1日閲覧。
  41. ^ タチカワボールペン”. JBISサーチ. 日本軽種馬協会. 2018年6月1日閲覧。
  42. ^ マルマンガスライタ”. JBISサーチ. 日本軽種馬協会. 2018年6月1日閲覧。
  43. ^ 日本中央競馬会『優駿』2000年5月号、p.167
  44. ^ 地方競馬全国協会業務方法書
  45. ^ タケユタカ”. JBISサーチ. 2014年3月31日閲覧。
  46. ^ 『優駿』2011年8月号、166頁。 
  47. ^ デイリースポーツ 2016年5月17日 ダービー制覇へ 3代目ヒシマサル登場
  48. ^ a b c 優駿』1982年9月号、p.128
  49. ^ 『優駿』1987年11月号 p.62
  50. ^ 大橋 1989, p. 81.
  51. ^ INTERNATIONAL LIST OF PROTECTED NAMES”. IFHA. 2020年3月6日閲覧。
  52. ^ INTERNATIONAL LIST OF PROTECTED NAMES”. IFHA. 2021年3月2日閲覧。
  53. ^ 馬名にⅡ(セカンド)が付く馬
  54. ^ a b 『イギリス文化と近代競馬』彩流社、2013年10月25日、32-34頁。 
  55. ^ コース紹介:札幌競馬場 JRA”. JRA. 2020年5月4日閲覧。
  56. ^ 小島 2002, p. 172.
  57. ^ 熱中症にかかる馬は14倍に 暑さ対策にシャワーも登場 - 日本経済新聞 2020年8月1日
  58. ^ “災害級の暑さ”は競走馬にも大敵 JRAが進める熱中症対策とは? - netkeiba.com 2023年8月31日
  59. ^ 馬の資料室(日高育成牧場): サラブレッドの「ウォブラー症候群」について - 日本中央競馬会 2020年1月6日
  60. ^ 岩手競馬が刑事告発 禁止薬物問題”. 産経新聞 (2019年1月24日). 2019年9月5日閲覧。






競走馬と同じ種類の言葉


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「競走馬」の関連用語

競走馬のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



競走馬のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの競走馬 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS