方程式
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/12 05:44 UTC 版)
分類
与えられた等式がどのようなものであるかということによって、方程式には幾つかの分類がある。以下に代表的な方程式の種類を挙げる。
代数方程式
両辺を多項式 (polynomial) とする等式によって表された方程式を代数方程式と言う。多項式 p(·) によって与えられる変数の組 (x, y, z,...) を未知数とする方程式[注 5]
の解 (x, y, z,...) のことを p の根 (root) または零点 (zero) とも言う。代数方程式はさらに、一次方程式、二次方程式といったように、多項式の次数 (degree) d により d 次方程式 (d-ic equation,[注 6] d th degree equation) に分類される。
四次以下の一変数代数方程式は多項式の係数に関する四則演算と根号を用いて解を表すことができる。代数方程式の解のようすを調べる研究は、群の概念の導入など、ガロア理論を始めとする19世紀の代数学の発展の大きな原動力の1つとなった。
歴史上の数学の発展において様々な代数方程式の解を求める試みはそれまでになかった新しい数の体系を生み出してきている。その最も古い例として、古代ギリシアにおける無理数の発見をもたらした、正方形の辺と対角線の比 x に関する方程式[注 7]
が挙げられる。さらに、三次方程式
の実数解表示を与えるカルダノの公式
は複素数の発見につながった。また、量子力学における粒子の位置と運動量の間に成り立つ正準交換関係
は系の状態を通常の数(C 数、classical number)の組でなく作用素で与える範例をもたらした。
関数方程式
数の等式ではなく関数の等式で与えられる方程式を関数方程式と呼ぶ。
関数方程式によって決定される関数を未知関数 (unknown function) と呼び、方程式中のそれ以外の関数は既知関数 (known function) として区別される。特に関数とその導関数に対して関係式を与えることで得られる微分方程式は、物理学の研究から興味深い実例を与えられ、逆にその研究成果が物理学に寄与するなど、物理学との関連が深い。一方純粋数学的には層の理論などと結びついて興味深い結果が得られている。微分方程式はさらに常微分方程式と偏微分方程式に別けられる。
連続的な変数に関する微分の近似として、離散系における差分によって定式化された差分方程式の考察がしばしば有用である。微分方程式と差分方程式では様々な類似概念や類似手法が並行して通用するため、同じ事象の連続的な側面と離散的な側面とを表していると考えることもできる。
また、方程式の形のみならず「重ね合わせの原理が働く」か否かという、解の状態についての分類が考えられる。解の重ね合わせが考えられる方程式を線型方程式、そうでないものを非線型方程式と呼ぶ。解の重ね合わせはベクトル空間の概念と結びつき、線型性という観点から線型代数学の様々な概念や手法を適用することが可能になる。とくに微分方程式を代数的に取り扱うという立場においては線型微分方程式は最も基本的な対象となる。
重要な数学的概念の導入・発展をもたらした関数方程式に、熱方程式や超幾何関数の微分方程式、可積分系に対するKdV方程式・KZ方程式が挙げられる。
関数方程式の解の種類
微分方程式や差分方程式の解は、一般解と特異解とに分類されることがある。
- 一般解
- 微分方程式や差分方程式の解の多くは、積分定数などの任意定数や、任意関数を含む形で記述されることが多い。例えば、n 階の常微分方程式であれば n 個の積分定数を持つ。このように、任意定数や任意関数を含む形で書かれる解のことを 一般解 (general solution) と言う。また、一般解に含まれる個々の解のことを特殊解 (particular solution) あるいは特解と言う。一般解に含まれる任意定数や、任意関数に特定の値や関数を与えることによって得られる解は全て特殊解である。一般解が任意定数を係数とする関数の線型結合で表される場合、この既知の関数の組を基本解系と呼び、その要素を基本解 (elementary solution) と言う(基本解系を単に基本解と呼ぶこともある)。
- 特異解
- 一般解はその名前から「方程式の解のすべてを表現したもの 」と誤解されることが多いが、一般解だけでは表現できない解が存在することがある。この一般解で表されない解を特異解 (singular solution) と言う。
有名な例としては、クレローの方程式
は、一般解
の他に特異解
を持つ。
- ^ "=" という記号はロバート・レコード (Robert Recorde, 1510–1558) によって発明された。同じ長さの平行な直線よりも等しかり得るものは存在しないと考えた。
- ^ 関数を最小化する変数の値は「最小解」と呼ばれる。
- ^ 解の近似と見なされる変数の値は「近似解」、「収束解」などと呼ばれる。
- ^ 一般に「方程式を解く方法」は必ずしも存在するわけではない。
- ^ 等式の両辺から1つの多項式を足し引きすることはいつでもできるため、等式の一方の辺をゼロにするように引き算をすることで、各辺の多項式を1つの辺にまとめることができる。従って一般の代数方程式は必ず以下の形に表すことができる。
- ^ d にはラテン語かギリシア語の数詞が入る。d = 2 なら quadratic, d = 4 なら quartic, d = 5 なら quintic など。例外として、d = 1 なら linear, d = 3 なら cubic と呼ばれる。
- ^ この方程式の正の根は2の平方根 √2 である。この数は整数の比で表すことができない。
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