メディア・コングロマリット 利点

メディア・コングロマリット

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/20 07:55 UTC 版)

利点

メディア・コングロマリットは高い生産力・影響力・技術力・競争力を持つ。北米のコンテンツ産業の強さの源である。企画・人財・資金のグローバル調達で、超大作(メガコンテンツ)を作り、クロスメディアの手法で傘下のメディアを通じて世界中に販売するワンコンテンツ・マルチユースを企画・運営する事が出来る。ワンコンテンツ・マルチユースは売上げを2~3倍に伸ばすことが出来、利益率が高い。例えばDVDの利益率は6割である。

代表的な成功例としては、1997年の映画『タイタニック』が挙げられる。20世紀フォックス(ニューズ・コーポレーション)とパラマウント映画(バイアコム)が共同で2億ドルという巨費を投じて製作。傘下のメディアで宣伝攻勢をかけ、映画の興行収入は20億ドルに達した。更にDVDやサウンドトラック、書籍、食品・化粧品などの関連グッズを販売し、合計で43億ドルを売り上げた。

欠点

メディア・コングロマリットはメディアの寡占化と集中により、言論の自由・多様性を損なう。一例として、ニューズ・コープが、対テロ戦争を煽った事が知られている[6]

公共性より利益追求が重視され、激しいリストラが行われる。その結果、出版や報道の質が低下する。合併がマネーゲームと化し、逆シナジー効果がある。傘下に収められた出版社はリストラされ、無理な商法に走った挙句、利益率が低いとしてスピンオフされることもある[要出典]

歴史

英米におけるメディア・コングロマリットの形成

1980年代、衛星放送CATVが実用化され、ニューメディアとして注目された。アメリカのレーガン政権やイギリスのサッチャー政権規制緩和と市場開放を行って、メディアを再編した。

イギリスではロバート・マクスウェルルパート・マードックが新聞の買収闘争を展開。マードックはザ・サンニューズ・オブ・ザ・ワールドタイムズなどを傘下に収め、80年代後半には衛星放送事業へ進出する(Sky Television、BSkyB。現在のスカイグループ)。

アメリカでは、多チャンネル化時代を迎えたことを踏まえ、1987年にレーガン政権が放送の公平原則(フェアネス・ドクトリン)を撤廃、政治的に偏った放送が可能となった。1985年にマードックが多数の放送局を有するメトロ・メディアを、87年に20世紀フォックスを立て続けに買収。同時に第4のテレビネットワークであるFOXネットワークを旗揚げする。多チャンネル化に最適化したビジネスを積極展開する。1990年に出版大手のタイム社ワーナー・ブラザースを有するワーナー・コミュニケーションズの経営統合によりタイム・ワーナーが、1995年にウォルト・ディズニー社キャピタルシティーズABCを買収、1996年にタイム・ワーナーがCNNなどを有するターナー・ブロードキャスティング・システムと経営統合、1999年にパラマウント映画を傘下に有するバイアコムCBSを買収するなど、幾度の資本的再編により、多数のメディア・コングロマリットが形成された。

2000年にはネット大手AOLがタイム・ワーナーを買収、AOLタイム・ワーナーが誕生する。直後にITバブルが崩壊、タイム・ワーナーの社名が復活した。2009年にはAOL部門のスピンオフを実施する。2004年にゼネラル・エレクトリック(GE)傘下のNBCヴィヴェンディ傘下のヴィヴェンディ・ユニバーサル・エンタテインメントが合併、NBCユニバーサルが誕生。2007年にはマードック率いるニューズ・コーポレーションウォールストリートジャーナルなどを有するダウ・ジョーンズを買収した。2009年にケーブル通信大手のコムキャストNBCユニバーサルの一部持分を取得、2013年には完全子会社化を実現した。

日本における民放の誕生と新聞、フジサンケイグループの結成

日本では、1951年4月21日に日本初の民間放送としてラジオ16社へ予備免許が交付。同年9月1日に中部日本放送(現・CBCラジオ)と新日本放送(現・MBSラジオ)がラジオ放送を開始し、2年後の1953年にはNHKに続き、日本テレビ放送網が本邦初の民間テレビ局として開局した。中部日本放送は中日新聞社を核に在名財界各社が、新日本放送は毎日新聞社京阪神急行電鉄日本電気の3社を軸に関西財界が、日本テレビは正力松太郎が主導して読売新聞社朝日新聞社毎日新聞社の3社が中心となりそれぞれ設立された。以降、1950年代、60年代にかけて、新聞社が旗振り役となり、民間ラジオ、民間テレビが相次いで開局していった。1970年代に当時郵政大臣だった田中角栄が主導して、放送局ー新聞社の資本及び放送系列を整理(腸ねん転)。日本テレビ読売新聞社TBS毎日新聞社フジテレビサンケイ新聞社NETテレビ(現・テレビ朝日)は朝日新聞社東京12チャンネル(現・テレビ東京)は日本経済新聞社と、現在の放送ネットワークの大枠が確立した。

1967年フジテレビジョン(現・フジ・メディア・ホールディングス)、サンケイ新聞社ニッポン放送文化放送が中心となりフジサンケイグループを結成。翌1968年、フジテレビ、ニッポン放送の代表取締役社長を兼任する鹿内信隆がフジサンケイグループ会議を創設、議長(最高経営責任者に相当)に就任。グループ各社の財務経理、人事、総務等コーポレート機能の積極的連携を推進するなど、当時からグループ経営を志向していた。フジサンケイグループを除く日本のメディア企業は、電波政策上の連携(いわゆる波取り)や人事面での交流、イベント等の共同企画、ゆるやかな資本的関係はあるが、あくまで個々が独立した企業体であるのが特徴である。

1992年7月21日、フジサンケイグループの三代議長である鹿内宏明が、当時フジテレビ社長だった日枝久の主導で産経新聞社の代表取締役会長職を解任される。翌22年にフジテレビ、ニッポン放送の代表取締役会長とフジサンケイグループの議長職を辞任した。以降しばらくの間、フジテレビを中心とする緩やかなグループ運営が行われた。

マードック・ソフトバンク孫正義陣営によるテレビ朝日買収騒動と衛星放送の開始

1996年、設立以来テレビ朝日の主要株主(発行済株式総数の21.4%を保有)であった旺文社が全持分をマードックソフトバンク孫正義陣営に売却、旺文社メディアはニューズ・コープソフトバンクが50%ずつ出資するJV「ソフトバンク・ニューズ・コープ・メディア株式会社」となった。[7]同日、デジタル衛星放送事業「JSkyB」プロジェクトを発表した。同陣営は役員派遣等の経営参画を試みるも、テレビ朝日と朝日新聞社の反発もあり、翌1997年に全株式を朝日新聞社に売却した。[8]同年5月、JSkyBのイコールパートナーにフジテレビとソニー加わった。1998年の放送開始に先立ち、ジェイ・スカイ・ビー株式会社(代表取締役会長:ルパート・マードック、代表取締役社長:孫正義)は、パーフェクTV!を運営する日本デジタル放送サービス株式会社と対等合併した。幾度の再編を経て、スカパーJSATホールディングスが発足した。2000年にはBSデジタル放送が開始し、WOWOWスカパーJSATともに事業成長したものの、日本が多チャンネル時代を迎えることはなかった。

フジサンケイグループの再編とライブドア、そして認定放送持株会社の誕生

2005年1月17日、日枝久会長兼CEO(当時)率いるフジテレビジョンフジサンケイグループの再編を目的として、ニッポン放送に対する株式公開買付(1株5,950円)を発表した。その最中に突如として堀江貴文率いるライブドア東京証券取引所のToSTNeT-1を利用した時間外取引によりニッポン放送株式の35%を取得。法廷闘争や北尾吉孝率いるソフトバンク・インベストメント(現・SBIホールディングス)のホワイトナイト参画を経て、フジテレビ、ライブドア、ニッポン放送の三者は和解。フジテレビはニッポン放送を完全子会社化、フジサンケイグループの事業持株会社となった。

2006年小泉政権において通信・放送の在り方に関する懇談会(通称「竹中懇」)が開かれた。メディア・コングロマリット化の推進やそのためのマスメディア集中排除原則の緩和が議論され、2007年に放送持株会社が認められた。2008年に日本初の認定放送持株会社であるフジ・メディア・ホールディングスが発足。翌2009年には楽天からの買収防衛を目的としてTBSが持株会社体制へ移行した。2014年までにすべての在京キー局は認定放送持株会社へ移行した。

フジ・メディア・ホールディングス発足後、同社は関西テレビ放送の持分法適用会社化や仙台放送の連結子会社化など、フジネットワーク各社の株式を追加取得しており、メディア・コンテンツ事業以外でもサンケイビルの完全子会社化やグランビスタホテル&リゾート(旧・三井観光開発)を買収するなど、積極的な再編と事業展開を進めている。

今後、マスメディア集中排除原則は緩和、認定放送持株会社の所有12県域規制は撤廃される予定[9]

FANGAMの台頭と米メディア・コングロマリットの大型再編

2010年代、米国ではデジタル端末の普及やネットフリックスをはじめとする配信サービスの台頭により、ケーブルテレビ市場が急速に衰退(いわゆるコードカットの進行)。新聞社、出版社も経営危機に直面した。既存メディア各社は再編を迫られた。

2013年4月、タイム・ワーナーは傘下のタイム社を売却。2018年には通信大手AT&Tがタイム・ワーナーを買収、ワーナー・メディアに社名変更する。AT&Tは「通信とメディアの融合」を目指して買収を進めてきたが、財務が悪化。再びワーナー・メディアをスピンオフ、ディスカバリー社との経営統合によりワーナー・ブラザース・ディスカバリーが誕生した。[10]

2013年6月にニューズ・コーポレーションがスピンオフを実施、エンターテインメントを中心とする21世紀フォックス(21CF)、新聞出版事業と豪州ケーブルテレビ事業で構成される新生ニューズ・コーポレーションが発足した。マードックの次男ジェームズCEOの下、積極的な事業展開を行っていたが、2019年に事業の大半をウォルト・ディズニー・カンパニーに売却。取引完了直前に39.1%を保有するスカイ(Sky PLC、当時ロンドン証券取引所に上場)の完全子会社化を目指していたが、コムキャストとの入札競争に敗れた。21CFの非売却資産はスピンオフされ、FOXエンターテインメント(地上波ネットワーク)、FOXニュースFOXスポーツFOXTVステーションズ(地上波テレビ局)から成るFOXコーポレーションが誕生した。

2019年12月4日、サムナー家率いるナショナル・アミューズメンツ傘下のCBSコーポレーションバイアコムが経営統合、バイアコムCBSが発足した。2022年には商号をパラマウント・グローバルへ変更した。

2023年9月、ルパート・マードックが引退を表明。同年11月の株主総会をもってニューズ・コーポレーションの会長職、FOXコーポレーションの共同会長職を退任、両者の名誉会長に就任し、長男のラクラン・マードックが両社の単独会長に就任した[11]

2023年12月、ワーナー・ブラザース・ディスカバリーとパラマウント・グローバルの合併交渉が水面下で行われていることがアメリカの複数のメディアから報じられた[12]

規制

同一地域でのクロスオーナーシップやコンテンツの製作と発信の垂直統合を禁止・制限すべきとの主張もあるが、日本も含め世界的には、伝送路の多様化を踏まえて規制緩和の傾向にある。[13][14]


注釈

  1. ^ 本社は日本
  2. ^ 2022年10月にタイで開業[5]
  3. ^ フジテレビの映画部門は日本有数の映画製作企業
  4. ^ 仙台放送はフジ・メディア・ホールディングスの連結子会社には該当するが、フジサンケイグループには属していない。
  5. ^ マスメディア集中排除原則の上限33.3%をフジ・メディア・ホールディングスが保有しており、加えてグループ会社のフジランド、系列局の関西テレビ及びフジサンケイグループと関係の深い東宝が株式保有し、代表取締役社長もフジテレビから派遣するなど実質的に支配している。
  6. ^ フジ・メディア・ホールディングスの持分法適用会社(筆頭株主)。
  7. ^ 伊藤忠商事とフジ・メディア・ホールディングスのJVである伊藤忠・フジ・パートナーズ株式会社の持分法適用会社。
  8. ^ フジ・メディア・ホールディングスの持分法適用会社。
  9. ^ 「サンケイアトムズ」だった期間があり、主催試合はニッポン放送が中継する。
  10. ^ 読売新聞グループ本社独自の会計基準であり、グループ本社の連結売上高の数値とは異なる。グループ本社東京本社大阪本社西部本社中央公論新社読売巨人軍よみうりランドの単純合算。
  11. ^ 東映の筆頭株主がテレビ朝日ホールディングス、テレビ朝日ホールディングスの第2の大株主が東映という関係。また、テレビ朝日映像を合弁会社として朝日新聞社と東映によって設立され、朝日放送も含めて関係が深い。
  12. ^ テレビ朝日が第2の大株主
  13. ^ 阪急阪神ホールディングスエイチ・ツー・オー リテイリング東宝の合算値
  14. ^ 東宝はHJホールディングスに出資している。

出典

  1. ^ フジサンケイグループとは|FUJISANKEI COMMUNICATIONS GROUP”. www.fujisankei-g.co.jp. 2023年7月8日閲覧。
  2. ^ 会社情報―コーポレート・ガバナンス フジ・メディア・ホールディングス
  3. ^ 角川&ワーナーの日米メディアコングロマリット提携で加速するコンテンツ市場のワールドワイド化――安田善巳 角川ゲームス社長に聞く、ダイヤモンド社、2011年8月8日
  4. ^ KADOKAWA、ドワンゴ経営統合へ。最強のサブカル・メディア・コングロマリットが誕生 Archived 2014年5月31日, at the Wayback Machine.、Yahoo!ニュース、2014年5月14日
  5. ^ タイに映画テーマパーク ソニー系初、観光再生期待”. 時事通信 (2022年9月16日). 2022年9月23日閲覧。
  6. ^ 山本浩『仁義なき英国タブロイド伝説』
  7. ^ 株式会社旺文社とのマルチメディア事業ならびにインターネット事業に関する提携について”. ソフトバンクグループ株式会社 (1996年6月20日). 2023年7月8日閲覧。
  8. ^ ソフトバンク・ニューズ・コープ・メディア株式会社の全株式売却に関する件”. ソフトバンクグループ株式会社 (1997年3月3日). 2023年7月8日閲覧。
  9. ^ 制度見直しに向けた検討状況について(総務省、デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会事務局)”. 2023年7月9日閲覧。
  10. ^ AT&T「16兆円メディア」 ディスカバリーと新会社発表”. 日本経済新聞 (2021年5月17日). 2023年7月8日閲覧。
  11. ^ バーンド・デバスマン・ジュニア、ケイティー・ラザル (2023年9月22日). “「メディア王」マードック氏が米FOXの会長退任へ 後任は長男”. BBCNEWS JAPAN. 2023年11月22日閲覧。
  12. ^ “米メディア大手ワーナー、パラマウントと合併交渉=関係筋”. ロイター通信. (2023年12月21日). https://jp.reuters.com/markets/japan/funds/4NDUGHA4U5N7ROEKHBW37C3JDA-2023-12-20/ 2023年12月24日閲覧。 
  13. ^ 米FCC,メディア所有の規制を大幅に緩和|NHK放送文化研究所”. NHK放送文化研究所. 2023年7月7日閲覧。
  14. ^ https://www.facebook.com/asahicom+(2022年3月14日).+“持ち株会社によるグループ経営の制限を撤廃 放送局経営の規制緩和案:朝日新聞デジタル”. 朝日新聞デジタル. 2023年7月7日閲覧。


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