水素化分解
【英】: hydrocracking
水素化分解とは、炭化水素を高温・高圧下、水素気流の中で触媒を用いて分解し、より軽質の炭化水素に転化させることで、水素化分解法は近年、石油需要の軽質化に対応し注目されている方法の一つである。 わが国で広く採用されている重油の脱硫法もこの水素化分解技術を応用したものである。水素化分解はナフサから残油に至る広範囲な原料油の処理が可能であり、そこから得られる製品の得率も、LPG 、ガソリン、灯油、ジェット燃料油、軽油など自由に調整ができ、しかも、その性状はオレフィン分を含まず、流動点が低く、硫黄分は非常に低く、後処理が不要であるなどの特色をもっている。わが国における水素化分解法は本来の目的の一つであるナフサから LPG の製造用として 3 基導入されている。また、1984 年には重質軽油や減圧軽油を原料に灯・軽油を製造することを目的とした装置が 1 基完成した。水素化分解では、分解活性をもたせるために酸性を有するシリカ・アルミナなどの担体に活性金属(タングステン、鉄、ニッケルなど)を担持させた触媒を用いて、高温(200 ~ 430 ℃)・高圧(70 ~ 210kg/cm2 )下で反応を行わせる。触媒の取り扱い方法により、固定床式と流動床式の 2 種類に大別される。前者に属するプロセスとしては、HC ユニボン法(旧 UOP アイソマックス法)、アイソクラッキング法(旧 CRC アイソマックス法)、ユニクラッキング JHC 法、BASF-IFP 法などがあるが、プロセス的にはいずれも類似している。後者に属するプロセスとしては H-Oil 法、LC ファイニング法などがある。水素化分解によると、軽質ガス発生による精製ロスが少なく、原料油に対する液状製品の収率は 110 ~ 120 %程度に達する。水素化分解は多量の水素を消費するので、付帯設備として水素製造装置を必要とするため、また、高温・高圧であるため建設費、運転費ともに高いのが難点である。 |

クラッキング (化学)
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接触分解(せっしょくぶんかい、catalytic cracking)とは、一般的には触媒の作用によって生ずる分解化学反応のことである。クラッキングとも呼ばれる。ここでは石油精製において重油留分を触媒の作用によって分解し、低沸点の炭化水素に変換するプロセスについて述べる。粉末状の固体触媒を流動層状態で使用することから流動接触分解、FCC(Fluid Catalytic Cracking)とも呼ばれている。
概要
原油の蒸留によって得られる各留分の収率は原油の組成によって決まり、需要の比率とは必ずしも一致しない。とりわけ重油の過剰とガソリンの不足が問題となりがちであるので、重油を原料としてガソリンを50 %前後の収率で得られる接触分解装置は石油精製工場において重要な位置を占める。
使用される触媒は粒径数十マイクロメートル程度のゼオライト系固体触媒である。触媒は流動層状態で装置内を循環するので、反応活性に加えて良好な流動性や耐摩耗性が求められる。
歴史と特許
シューホフのクラッキングやバートンのクラッキング、バートン・ハンフレーズ(Hamphreys)のクラッキングやダブス(Dubbs)のクラッキングなどいくつかの熱分解の方法が開発されている。1891年、ロシアの技術者、ウラジーミル・シューホフが発明し初めて特許を取得した(ロシア帝国特許No.12926、1891年11月27日)[1][2]。建設された施設はロシア国内で限定的に使われたが発展しなかった。これとは別に1900年代にアメリカ人技術者のウィリアム・メリアム・バートンとロバート・E・ハンフレーズが同様の施設を考案し、特許を取得した(特許No.1049667、1908年6月8日)。両者の長所は液化装置と気化装置が継続的に圧力下におかれることだった[3]。
初期の装置は過程は連続的ではなかった。また、全ての装置が実用的なものではなかったが、多くの特許がアメリカやヨーロッパを追随して取得された[1]。1924年、アメリカのシンクレア石油コーポレーションの代表者がシューホフを訪れた。シンクレア石油は表向きはスタンダード・オイルが使用していたバートンとハンフレーズの特許がシューホフの特許に基づいていることをシューホフに話すことを願っていた。それができれば、バートン・ハンフレーズの特許を無効にしようと考えているアメリカのライバル企業の支配を強化できるからである。シューホフ自身の興味は基本的に「ロシアで、アメリカに特許侵害として訴えられないクラッキング装置を簡単に造る」ことにあったが、バートンの方法が彼の1891年の特許に原理的に非常に似ていることを知ってシューホフはとても喜んだという[4]。
しかしその数年後、ロシア革命が起こり、ロシアは外貨獲得のため石油産業の発達に躍起になっていった。そのためロシアは最終的に外国企業、ほとんどはアメリカ企業から多くの技術を購入することになった[4]。しかしその後流動接触分解が開発され、すぐにほとんどの熱分解は置き換わった。しかしその交代は完全なものではなく、原料油の性質と市場の需要に依存する熱分解もまだ利用されていた。熱分解は、ナフサや重油、コークスの生産にいまだ重要な役割を果たし、またより複雑な熱分解が様々な目的のために開発されている。これらにはビスブレーキング(Visbreaking)や蒸気分解、石油コークスの製造などが含まれる[5]。
ウィリアム・メリアム・バートンは1912年に温度700–750 °F (371–399 °C)、圧力90 psi (620 kPa)の状況下で進行する熱分解を発明し、その後1921年にユニバーサルオイルの従業員だったC.P.ダブス(Dubbs)はそれを少し発展させた温度750–860 °F (399–460 °C)で進行する熱分解(ダブスのクラッキング)を発明した[6]。
機構
分解反応は500 ℃程度で原料油と触媒が接触することによって起こり、以下のような機構で進行していると考えられている。
- 高温によって軽油や重油を構成する直鎖のアルカンが熱分解を起こし、ラジカル的にC-C結合やC-H結合が切断される。
- こうして生成したラジカルのうち一部はさらにC-C結合が切断されてアルケンを生成する。
- 生成したアルケンに触媒からプロトンが供与されることでカルボカチオンが生成する。
- カルボカチオンは水素原子やアルキル基の転位を起こしたり、切断されたりしていく。この転位反応では安定性の高いアルキル基の置換の多いカルボカチオンが生成しやすいため、主に分岐の多い低沸点アルケンが得られる。
化学反応式は次のようになっている。
流動接触分解装置の反応プロセス 小粒状触媒を用いた流動接触分解 (FCC) は現在最も広く用いられている分解法で、典型的な石油精製の過程に含まれている。ガソリンの需要が高いアメリカでは「キャットクラッカー」(cat cracker)などの方法が用いられている[8][9][10]。触媒クラッキングの過程にはカルボカチオンと不安定な水素化物アニオンを作る酸触媒(大抵はシリカアルミナやゼオライトなどの固体酸)が関わっている。炭素原子にあるフリーラジカルと陽イオンはいずれも不安定で、C-C結合が切断され、アルケンが生じる。
脚注
- ^ a b M. S. Vassiliou (2 March 2009). Historical Dictionary of the Petroleum Industry. Scarecrow Press. pp. 459–. ISBN 978-0-8108-6288-3
- ^ Vladimir Grigorievich Shukhov (Biography)shukhov.org
- ^ Newton Copp; Andrew Zanella (1993). Discovery, Innovation, and Risk: Case Studies in Science and Technology. MIT Press. pp. 172–. ISBN 978-0-262-53111-5
- ^ a b Yury Evdoshenko. American Cracking for Soviet Refining. - Oil of Russia、Yury Evdoshenko
- ^ Kraus, Richard S. Petroleum Refining Process in 78. Oil and Natural Gas, Kraus, Richard S., Editor, Encyclopedia of Occupational Health and Safety, Jeanne Mager Stellman, Editor-in-Chief. ILO, ジュネーヴ. &#copy; 2011. Petroleum Refining Process、オリジナルの2013年7月24日のアーカイブ
- ^ U.S. Supreme Court Cases & Opinions, Volume 322, UNIVERSAL OIL PRODUCTS CO. V. GLOBE OIL & REFINING CO., 322 U. S. 471 (1944)
- ^ Propylene From Ethylene and Butene via Metathesis, Archived from the original site 2014年10月28日
- ^ James H. Gary and Glenn E. Handwerk (2001). Petroleum Refining: Technology and Economics (4th ed.). CRCプレス. ISBN 0-8247-0482-7
- ^ James. G. Speight (2006). The Chemistry and Technology of Petroleum (4th ed.). CRC Press. ISBN 0-8493-9067-2
- ^ Reza Sadeghbeigi (2000). Fluid Catalytic Cracking Handbook (2nd ed.). ガルフパブリッシングカンパニー. ISBN 0-88415-289-8
水素化分解
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/16 01:11 UTC 版)
原料油脂をメチルエステル化してグリセリンを除去し脂肪酸メチルエステル(FAME)を精製する既存の技術とは異なり、原料植物を問わず獣脂も含めた広範な原料油脂を石油精製の水素化処理技術を応用して分解し、合わせて雑物を除去して作る水素化処理油(Bio Hydrofined Diesel、略称:BHD)が、新日本石油株式会社(当時)とトヨタ自動車株式会社により研究開発されている。 この技術によれば、油脂を原料としつつ、既存の石油由来の燃料と何ら遜色のない、一般の軽油の規格に適合した燃料を精製することが可能であるとされる。BHDは油脂に水素を化合させる過程で不純物が除去される。また、酸化による劣化がしにくく、化学合成軽油(GTL)と同等品であるとされる。 これまでに、減圧軽油留分とパーム油を混合して水素化分解処理を行い、パーム油の水素化分解による軽油留分の収率の向上や、既存の石油精製で得られている軽油に近い性状の軽油留分が得られることが確認されている。 このBHDを路線バスの営業運行で使用する実証実験が2007年10月から2008年3月まで都営バス渋谷営業所の一部車両で行われる。
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