トレインケース
トレインケース(英: train case)とは、ソフトウェア開発において識別子を表記するための命名規則の一つである[1][2][3][4][5][6][7][8][9][10][注釈 1]。トレインケースは、単語と単語の間をハイフン-
で区切り、各単語の頭文字を大文字にする形式である(例:Train-Case
)[注釈 2]。各単語の頭文字を小文字にする形式はケバブケース(英: kebab case)と呼ばれる。この命名規則は、特に識別子を読みやすくし、単語の区切りを明確にするために用いられる[13][14][15]。
ただし、プログラミングにおける命名規則の形式に対する名前は、国際的に標準化されているわけではない[16][17]。
トレインケースの命名規則は、他の命名規則と同様にプログラミング言語やフレームワークの発展と共に広まってきたものである[13][14][15]。特にWeb開発やマークアップ言語(例:HTMLやCSS)において、属性名やクラス名を明確にするために利用されることが多い。トレインケースの使用は、キャメルケース(英: camel case)やスネークケース(英: snake case)などの他の命名規則と並行して発展し、特定のプロジェクトやコミュニティにおいて採用されることがある。
トレインケースは、特に次のような場面で適用されることが多い。
- HTMLおよびCSSのクラス名やID名[18][19]:Web開発において、要素のクラス名やID名を分かりやすくするために使用される。ただし、ウェブブラウザ側は場合によっては大文字・小文字を区別しないことがあるため、厳密にケース・センシティブな管理を行うことが難しい場合がある。
- URLスラッグ[20][21]:ウェブサイトのURLにおいて、ページやセクションの名前を区切り、見やすくするために使用される。
- 設定ファイル[22][23]:コンフィギュレーションファイル(例:YAMLやTOML)において、設定項目の名前を分かりやすくするために使用されることがある。
これにより、コードや名前の可読性が向上し、開発者間のコミュニケーションが円滑になることが期待される。トレインケースなどの標準化された命名規則を採用することは、プロジェクトの維持管理を容易にする[13][14][15]。本ページでは、トレインケースの定義から始まり、その利点、適用範囲や適用例について詳述する。
定義
トレインケースは、識別子を構成する各単語の頭文字を大文字にし、単語間をハイフン-
で区切る命名規則である[2][7][4][9]。この命名規則は、ケバブケース(英: kebab case)の発展形であり、識別子を構成する各単語の視覚的な区切りを明確にすることで識別子の読みやすさを向上させることを目的としている[14][15][24]。トレインケースの具体例としては、「Example-Identifier
」や「User-Profile-Data
」などが挙げられる。プログラミングにおいては、特にHTMLおよびCSSのクラス名やID名[18][19]、URLスラッグ[20][21]、設定ファイルの項目名[22][23]などで広く用いられる。この命名規則は、識別子の構造を直感的に把握しやすくするため、複雑なプロジェクトにおいても一貫性と可読性を維持するための有効な手段である[13][14][15]。
歴史
歴史については、「ケバブケース」の「歴史」項目で説明されている。
トレインケースについて、歴史という点でケバブケースの歴史と比較して特筆すべき点はないため、このページでは省略する。
利点
以下の点について以外は「ケバブケース」の「利点」項目で説明されている。
トレインケースについて、利点という点でケバブケースの利点と比較して以下の点について以外に特筆すべき点はないため、このページでは省略する。ただし、同ページで言及のある「CSSプロパティ名」にはトレインケースは使用できない[25]。
視覚的な強調
トレインケースは大文字の使用により、ケバブケースに比べて単語の区切りがさらに明確になる点で優れている[13][14][15]。
標準化の適応範囲
トレインケースはHTMLおよびCSSのクラス名やID名[18][19]だけでなく、URLスラッグ[20][21]や設定ファイルの項目名[22][23]でも広く利用可能なため、CSSプロパティ名を除く[25]、ケバブケースが適用可能な範囲において視覚的な強調を求める場合に有用である[13][14][15]。
欠点
欠点については、「ケバブケース」の「欠点」項目で説明されている。
トレインケースについて、欠点という点でケバブケースの欠点と比較して特筆すべき点はないため、このページでは省略する。
適用範囲
トレインケースは、HTMLおよびCSSのクラス名やID名[18][19]、URLスラッグ[20][21]、設定ファイルの項目名[22][23]に広く適用できる点が特筆されるが、CSSプロパティ名には使用できない点はケバブケースとの大きな違いである[25]。以下にこれらの点について詳述する。
HTMLおよびCSS
HTMLおよびCSSにおいて、トレインケースは主にクラス名やID名の視認性を向上させるために使用される[18][19]。各単語の先頭を大文字にし、ハイフン-
で区切ることで、複数の単語からなる識別子が明確になり、コードの可読性が向上する。しかし、CSSプロパティ名には使用できないため[25]、ケバブケース(例:background-color
)が一般的に使われる。
URLスラッグ
URLスラッグにおいて、トレインケースはSEO(検索エンジン最適化)の観点から有益である[21][26]。検索エンジンがハイフン-
を単語の区切りとして認識するため、各単語の頭文字を大文字にすることで、URL構造が視覚的に明確になり、検索エンジンのアルゴリズムにとっても有利に働く。
設定ファイル
設定ファイル(例:YAMLやTOML)では、トレインケースは設定項目の名前に使用可能なため[22][23]、読みやすさを向上させたい場合に有用である。設定ファイルは多くの設定項目を含むことが多いため、トレインケースを採用することで、項目名が明確に区別され、エラーの発生率を低減させることができる。
適用例
トレインケースの具体的な適用例として、HTMLおよびCSSのクラス名やID名[18][19]、URLスラッグ[20][21]、設定ファイル(例:YAMLやTOML)の項目名[22][23]が挙げられる。これらはケバブケースと比較して視認性を向上させる目的で採用されることが多い[13][14][15]。
HTMLとCSSにおけるクラス名とID名
トレインケースは、HTMLおよびCSSにおいて、クラス名やID名の視認性を向上させるために使用される。各単語の頭文字を大文字にし、ハイフン-
で区切ることで、複数の単語からなる識別子が明確になり、コードの可読性が向上する。
以下にクラス名とID名の例を示す。
<div class="Main-Container" id="Main-Header">
<h1 id="Title-Text">Welcome to My Website</h1>
<div class="Content-Area">...</div>
<div class="Footer-Section">...</div>
</div>
上記の例では、「Main-Container
」「Main-Header
」「Title-Text
」などのクラス名やID名が視覚的に明確になり、コードの可読性が向上している。
URLスラッグ
トレインケースは、URLスラッグにおいてSEO(検索エンジン最適化)の観点から有益である。ハイフン-
で区切られた大文字の単語は、検索エンジンに対して各単語の区切りを明確に示し、SEOの効果を高める。また、ユーザーにとってもURLの内容が一目で理解しやすくなる。
以下にURLスラッグの例を示す。
https://example.com/Blog/How-To-Use-Train-Case
上記の例では、「How-To-Use-Train-Case
」により、SEO効果が高まり、ユーザーにも内容が理解しやすくなっている。
設定ファイルの適用例
設定ファイル(例:YAMLやTOML)では、トレインケースは設定項目の名前に使用可能なため、読みやすさを向上させたい場合に有用である。設定項目が視覚的に明確になり、複数の項目が含まれる場合でも可読性が向上する。これにより、設定内容の理解と管理が容易になる。
以下にYAMLの例を示す。
Main-Settings:
Database-Config:
Host: "localhost"
Port: 5432
User: "admin"
Password: "password"
上記の例では、「Main-Settings
」「Database-Config
」などの項目名の読みやすさが向上している。
以下はTOMLの例である。
[Main-Settings]
[Main-Settings.Database-Config]
Host = "localhost"
Port = 5432
User = "admin"
Password = "password"
上記の例では、「Main-Settings
」「Database-Config
」などの項目名の読みやすさが向上している。
命名規則一覧
名称 | 英語表記 | 説明 | 表記例 |
---|---|---|---|
スネークケース | snake case | 単語間をアンダースコア(_ )で繋ぐ形式。
|
example_variable
|
スクリーミングスネークケース | screaming snake case | 単語間をアンダースコア(_ )で繋ぎ、全て大文字にする形式。「アッパースネークケース(upper snake case)」や「コンスタントケース(constant case)」とも呼ばれる[27]。
|
EXAMPLE_VARIABLE
|
キャメルケース | camel case | 各単語の頭文字を大文字にし、単語を連結する形式(最初の単語のみ頭文字が小文字)。.NETの文脈で使用。 | exampleVariable
|
ローワーキャメルケース | lower camel case | キャメルケースと同じ形式だが、フレームワークや言語に依存しない表現。 | exampleVariable
|
パスカルケース | Pascal case | 各単語の頭文字を大文字にし、単語を連結する形式(キャメルケースと似ているが、最初の単語の頭文字も大文字)。.NETの文脈で使用。 | ExampleVariable
|
アッパーキャメルケース | upper camel case | パスカルケースと同じ形式だが、フレームワークや言語に依存しない表現。 | ExampleVariable
|
ケバブケース | kebab case | 単語間をハイフン(- )で繋ぎ、各単語の頭文字を小文字にする形式。
「チェインケース / チェーンケース(chain case)」とも呼ばれる[27]。 |
example-variable
|
トレインケース | train case | 単語間をハイフン(- )で繋ぎ、各単語の頭文字を大文字にする形式。
|
Example-Variable
|
ドットケース | dot case | 単語間をドット(. )で繋ぐ形式。
|
example.variable
|
脚注
注釈
- ^ プログラミングの文脈以外で「トレインケース」というと、特に英語圏では小型の収納ケースを意味する。例えば、旅行時にや化粧品などの収納に使われる、取っ手が付いた持ち運びやすいケースである。日本語では「トラベルケース」「化粧ケース」などと表現される。
- ^ 2024年7月注記:Googleによる検索(こちら)では、各単語を全て大文字にした「
TRAIN-CASE
」として紹介しているところも存在するが[11][12]、これらはコミュニティの意見や個人のブログ、Q&Aサイトを除いた、出典として有効な情報源としては数が少ない。英語版Wikipediaではトレインケースは「TRAIN-CASE
」の形式で紹介されているが、出典は存在していない。 - ^ 「Pascal」は固有名詞であるため、先頭を小文字にしてはならない。
出典
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関連項目
- トレインケースのページへのリンク