DSM-5の診断基準
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/05 22:56 UTC 版)
「ギャンブル依存症」の記事における「DSM-5の診断基準」の解説
A.臨床的に意味のある機能障害または苦痛を引き起こすに至る持続的かつ反復性の問題賭博行動で、その人が過去12か月間(原文は「in a 12-month period」なので、「ある12か月間」であることに注意)に以下のうち4つ(またはそれ以上)を示している。 興奮を得たいがために、掛け金の額を増やして賭博をする欲求 賭博をするのを中断したり、または中止したりすると落ち着かなくなる、またはいらだつ 賭博をするのを制限する、減らす、または中止するなどの努力を繰り返し成功しなかったことがある しばしば賭博に心を奪われている(例:次の賭けの計画を立てること、賭博をするための金銭を得る方法を考えること、を絶えず考えている) 苦痛の気分(例:無気力、罪悪感、不安、抑うつ)のときに、賭博をすることが多い 賭博で金をすった後、別の日にそれを取り戻しに帰ってくることが多い(失った金を“深追いする”) 賭博へののめり込みを隠すために、嘘をつく 賭博のために、重要な人間関係、仕事、教育、または職業上の機会を危険にさらし、または失ったことがある 賭博によって引き起こされた絶望的な経済状況を免れるために、他人に金を出してくれるよう頼む B.その賭博行動は、躁病エピソードではうまく説明されない。 ▶該当すれば特定せよ・・・挿話性(数か月は軽快する)、持続性(何年も当てはまる) ▶該当すれば特定せよ・・・寛解早期(3か月以上12か月未満基準を満たさない)、寛解持続(12か月以上基準を満たさない) ▶現在の重症度を特定せよ・・・軽度(4,5項目)、中等度(6,7項目)、重度(8,9項目) 「臨床的に意味のある機能障害または苦痛」という表現は、アルコール使用障害(いわゆるアルコール依存症)、精神刺激薬使用障害(いわゆる薬物依存症)などの「物質関連障害および嗜癖性障害群」では共通に用いられている表現であり、「臨床的に意味のある機能障害または苦痛」があるのかどうかが、「精神障害(Mental Disorder)」をDSM-5で定義するうえで重要な視点となっている。なお、DSM-5では「アルコール使用障害」「精神刺激薬使用障害」のように「物質関連障害および嗜癖性障害群」では、「~使用障害」と「使用(use)」が使われている。同じニュアンスでgambleではなくgamblingが使われており、この判断基準は「ギャンブルの仕方(gambling)」によって生じている問題をチェックするものである。 ここで注意すべきは、ギャンブル障害では、物質関連障害での再発の危険性を重視する姿勢にならって、どこかの時点で基準を満たせば、以後、一生、ギャンブル障害とみなされてしまう点である。とうの昔にギャンブルをやめた人、あるいは回復支援施設等で回復し、今はほかの人の支援に当たっている人などが「ギャンブル障害である」とみなされてしまうのが、DSM-5の基準であり、SOGSの基準である。 したがって、ギャンブル等依存症対策を考えるときなどには、他の障害でいうところの生涯有病率(人生のある一年で有病であった人の率)に当たる数字をもとにギャンブル等依存症の対策等を議論しようとしているのか、現在の有病率(この一年の有病率)で議論しようとしているのか、意識的な区別が必要である。 特にこの区分に留意する必要があるのは、ギャンブル障害では自然回復が3~6割程度存在するとの諸外国の研究があり、進行的で不可逆的な障害であるというかつてのイメージ、もしくは物質使用障害(アルコール等薬物依存)の比喩からくるイメージで、依存対策等を論じることは網を大きく医欠けることになるからである。DSM-5では、「この1年のギャンブル障害の有病率」は一般人口の約0.2〜0.3%、「生涯有病率」は約0.4〜1.0%と記載しており、この上下の数字を対応させて推測すれば5~7割程度の自然回復が推測される。後に示すスイスの2008年データでは55%の自然回復が推測される。 とはいえ、自然回復する群の中にも経過中に多大な問題に繋がるものがいる可能性もあり、対象を広く取った対策も有用であろう。依存症対策の貧弱な本邦では尚更幅広い対策を行う必要がある。 また厚生労働省研究班の2017年3月の大都市圏調査報告(2,200名を対象とし993名回収、SOGSによる。SOGSは後に示されている)では、生涯有病率(生涯の一時期のギャンブル等依存症の疑い)が2.7%(実数28名)、現在の有病率(過去一年のギャンブル等依存症の疑い)が0.6%(実数5名)で「生涯の一時期のギャンブル等依存症の疑い」のうち82%(実数23名)が昔「ギャンブル等依存症の疑い」があったが現在は自然軽快または回復しているものと推定され、日本では自然回復率がより高い可能性がある。 ただし、過去のギャンブル障害が将来ギャンブルの問題を抱えることの強い予測因子になるので、自然回復群への注意喚起等、予防策は必須である。 なお、DSM-5では基準Bで躁病エピソードによって説明できる賭博行動はギャンブル障害から除くとしているが、本文中では、職業的賭博、社交的賭博を「障害ではない賭博」とし、パーソナリティ障害群では両方の障害の基準を満たす場合は両方の診断を求め(併存診断)、パーキンソン病などでドーパミン作動薬を使用している場合などは、その薬を減らす、または止めた時に症状が消失するならば、ギャンブル障害から除くとしている。
※この「DSM-5の診断基準」の解説は、「ギャンブル依存症」の解説の一部です。
「DSM-5の診断基準」を含む「ギャンブル依存症」の記事については、「ギャンブル依存症」の概要を参照ください。
- DSM-5の診断基準のページへのリンク