3階で火災発生
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/02 22:45 UTC 版)
22時ごろ、3階と4階に滞在していたニチイ社員4人が残業を終え退館した。当直のデパート電気係は、閉店後でも常時通電とすべき電源を除き、館内の不要な電源をすべて遮断した。例外として地下1階の電気室と機械室、1階保安室、工事が行われている「ニチイ千日前店(3階4階)」、営業中の7階「プレイタウン」に関する電源は通電とした。3階では配管の折り曲げやネジ切などの工事作業が粛々と進められていた。 22時15分ごろ、工事監督は作業現場を離れ、タバコを吸いながら照明が消えている暗がりの3階東側フロア周辺をうろつき始めた。「監督が常に傍に居ては作業者が煙たがるだろう」との思いから気を利かせたつもりだった。工事監督は残りの工事個所を一通り確認したあと、しばらくして西側のD階段付近に向かい、その場に佇んでいた。デパート保安係員2名は、売場内の巡回を一通り終え、事務所関連の巡回を開始した。 22時32分ないし33分ごろ、工事作業者の1人は、3階東側の寝具・呉服売場の方向から「パリパリ」というガラスが割れるような音がするのを聞いた。ふとその方向に目をやると、40メートルほど離れた東側売場で高さ70センチメートル、幅40センチメートルくらいの赤黒い炎が揺らめき、黒煙が天井いっぱいに立ち込めているのを発見した。異常を発見した工事作業者は、すぐさま火災であることを仲間に知らせると同時に、西側D階段付近に佇んでいた工事監督に向かって大声で火災が発生したことを知らせた。工事作業者らは消火器を探し回ったり、火災報知機(火報スイッチ)を押そうとしたりするなど初期消火活動に奔走した。工事監督は、1階のデパート保安室に向かって「3階が火事や!」と数回叫びながら西側D階段を駆け降りた。 22時30分ごろ、閉店後の館内巡回をすべて終えた千日デパート保安係員2人が1階保安室に戻ってきた。その直後の22時34分、保安室の火災報知機(警報ベル)が3階の火災を検知した。工事作業者の1人が3階西側設置の火報スイッチを押したのである。それとほぼ同じくして3階から工事監督の火災発見を知らせる大声が保安室にも響きわたった。保安係員2人がすぐさまD階段を駆け昇り、3階へ確認に行くと、すでにフロアいっぱいに黒煙が立ち込め、出火元へ容易に近づけない状態になっていた。消火器を持って右往左往する工事作業者らに対して保安係員は消火器の使い方を教えたが、すでに初期消火を行える段階ではなく、火災はフラッシュオーバーを起こす寸前にまで達していた。保安係員は、床上50センチメートルから1メートル付近にまだ煙が充満していないことを確認すると、工事作業者ら2人を引き連れて床を這いながら、消火栓がある場所の3、4メートル手前(上りエスカレーター東側)まで行って、なんとかして消火を試みようとした。工事作業者2人は指示に従い、それぞれが持っていた消火器の安全ピンを外して消火を試みた。1人の消火器からは消火剤が噴射されず、もう1人の消火器からは消火剤が噴射されたものの、火源には遠く、全く届かなかった。そのうちに火勢と煙はますます強くなり、周囲が赤黒く澱んできてD階段にも煙が迫ってきた。そして早くも3階でフラッシュオーバーが発生し、火は同フロア全体に燃え拡がった。火元に向かおうとした保安係員らは、火元の確認や防火区画シャッターの閉鎖はおろか消火の一つもできずに活動を断念し、元の経路を這って戻った。工事作業者ら5人と保安係員2人はD階段で1階へ避難した。 地下1階の機械室では、22時34分ごろに当直のデパート電気係と気罐係の2人が入浴中だった。そこへ火災発生を知らせる保安係員の大声が響きわたり、当直の2人は火災を覚知した。電気係は、ただちに3階と4階のニチイ関連の高圧および低圧の主電源をすべて遮断する措置をとった。火災報知機(警報ベル)は、地下1階の電気室にも設置されており、警報ベルが鳴ったことを電気係は確認した。そのあと電気係と気罐係の2人は消火器を持ち、従業員用のCエレベーターで4階まで昇った。4階に到着した時にはビル西側の従業員専用エリアに煙はまだ流入していなかったが、D階段と売場に通じる鉄扉を開けたと同時に2人は猛煙に襲われた。結局、当直の2人は消火活動の一つも行えず、そのまま鉄扉を閉めて同エレベーターで地下1階へ避難した。デパート電気係と気罐係の2人は消火活動断念の後に、それぞれ西側と南側の出入口からビルの外へ無事に脱出した。 22時35分から40分にかけて、6階の千日劇場跡でボウリング場改装工事に携わっていた工事作業リーダーは、廃材の積み降ろし作業のためにデパートビル南側の路上にいた。リーダーは誰かが発した「火事だ!」という叫び声を聞いてビルの上を見上げたところ、デパートビル3階中央付近の窓から煙が吹き出しているのを発見した。すぐさま仲間に火災を知らせようと西側Cエレベーターで6階の作業現場へ昇ったが、6階に着いてエレベーターのドアが開いた瞬間、激しい煙に襲われたため、リーダーはそのままドアを閉めて1階へ降りた。6階ボウリング場改装工事の現場では、ちょうど作業が終わり、片付けをして撤収しようとしていた矢先だったが、階段から黒煙が一気に流入してきたことで作業者全員が火災に気付き、避難を始めた。そのとき、壁一枚隔てた7階プレイタウンのホステス更衣室の辺りからは、ホステスらの甲高い悲鳴が漏れ聞こえていた。作業者6人は、6階西側窓からビルの外に出て、鉄骨で組んだ足場を利用し5階まで降りた。そこから外付けの給水配管、避雷針ケーブルを伝ってビル南側の「なんば中央通商店街」のアーケード屋根へ降り、梯子を利用して全員無事に地上へ脱出した。 22時39分、火災は急速に拡大し、防火カバーシャッターが閉鎖されていなかった4階エスカレーター開口部から4階へ延焼が始まった。保安係員2人は、ただちにデパート保安室に待機していた保安係長に3階が本格的な火災である旨を報告した。 22時40分、保安係長は千日デパート保安室の外線電話で119番通報を行った。このときデパートビル内で唯一営業中だった「7階プレイタウン」へは、保安室から何らの連絡も通報も為されなかった。
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