類(カテゴリー)と属性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/13 22:22 UTC 版)
「先天盲からの回復」の記事における「類(カテゴリー)と属性」の解説
立体認知で「球」や「立方体」を類(またはカテゴリー)として識別する(色や大きさが違っても同じ「球」「立方体」として認知する)経験を経た開眼者は、事物認知でさらに細分化した類(カテゴリー)の識別課題に進む。「球」という類(カテゴリー)の中(下位)には風船もあればボールもある(「事物認識」)。ボールの中にはピンポン玉もあれば野球ボールもある(「個別化」)。これらを弁別し識別するのは視力の低い開眼者にとって困難な課題であり、開眼者は低視力の中で得られるわずかな属性を手がかりに“事物名”を推測することになる。 開眼者にとって最初の属性は明るさ・色であり、まずそれを手がかりとして事物の特定に向かう。鳥居は「事物の識別に至る長い道程」のなかで開眼者が色(あるいは明暗)のみを手がかりに事物識別へ向かうレベルを<単一属性(色)抽出段階>とした。ここに2次元性が手がかりとして加わると<複数属性(大きさ、長さ、形)抽出段階>に進む。開眼者はこの段階に進むと、確実とはいえないまでもある程度事物識別の可能性がでてくる。 また第2の複合する手がかり「形」でなくとも、複数の手がかりによって開眼者は事物認知を試み、時に成果を得る。 (例)水たまり:識別課題を初めて一年半を経た開眼者の報告(原文傍点を太字で代行)「あるとき道端で, 青く、光っているのを見つけた. たぶん水溜りだろうとは思っが、ためしに足先を入れてみた. 冷たかった」「それでたぶん次には水溜りが見ただけで分かるようになった」 この例では、色と明るさの他に触覚的な冷温知覚を手がかりとして事物の識別活動を行ったのである。しかし彼女は地面に落ちているブルーシート片も水たまりと認知するかもしれないし、水たまりが濁っていたときにそれを視覚だけで水たまりとして識知できるだろうか。 鳥居はさらに「属性の重みづけ」が開眼者の事物識別の可能性を高め、最終的には「決めての属性抽出」を得るという識別への道程を考える。 視覚だけではなく触覚を加えれば先天盲開眼者の事物識別、個別識別はきわめて確実性が高くなることは研究者たちによって数々報告されている。 たとえばボール類から個別にテニスボールとピンポン玉を識別するのに触覚を使えば、先天盲者は「ザラザラ」していることから「テニスボール」を、「ツルツル」していることから「ピンポン玉」を直ちに特定できる。それはザラザラ感とツルツル感の触覚経験と名称の結びつきによって養われたものである。視覚でそれに相当するような属性の抽出ができればそれが「決めての属性」となる。触覚によって得た事物の属性経験から得た概念を、異なる知覚様式である視覚によって抽出できるようになるには、同一物を視覚と触覚の両方で繰り返し経験する視覚経験をつみかさねる反復観察が、先天盲開眼者の事物認識の助けになることが19世紀末には報告されていた。 「触覚を通して熟知している物も初めは視覚だけでは識別することはできない. だが, 玩具(ボール, トランペットなど)を触りながら観察するように言うと、若干の練習ののち、少年(*先天性白内障の5歳の少年)は視覚だけで個々の対象(たとえば、トランペット)の名称を告げるようになった」(W.Uhtthoff,1897)。 トランペットは確かに独特の形、金色、光の反射など識別しやすい特徴がある。さらに被験者の少年は5歳で比較的失明期間が短く視覚神経も柔軟に発達する時期であり様々な好条件が揃っているようにみえる。またその手順や期間などの記載もなかった。鳥居たちは、提示方法(置き方や提示材料の数、影の処理など)を定めて事物認識訓練の実験を行った(1972年10月)。 様々な時計 論文ではストップウォッチが例としてとりあげられている。1年1ヵ月の間に5回の反復観察を行った結果、「トケイみたい」まんなかの「細いもの(時計の針)」を認識できるようになり、次の実験ではストップウォッチの縁の色が異なるものを提示したがやはり「トケイみたい」と認知し、今度は時計内の円く並んだ数字を「中の文字(読めないが)」が「グルリとあるので」と告げストップウォッチという個別特定ではないが「類」としての「トケイ」を識別できるに至った(被験者は最初から触覚ではストップウォッチと時計を明確に識別できている)。ここで開眼者はストップウォッチの縁の「色属性」を捨て全体の「丸み」と「真ん中のほそいもの(時計針)」といった「重み」の高い属性を採択し、さらに「丸く並んだ文字」という「決めての属性」抽出に至って類(カテゴリー)としての事物「トケイ」を識別し得るようになった。1年9ヵ月後に「時計かストップウォッチ」という段階に至っているが類(カテゴリー)としてのトケイから種(下位カテゴリー)としての「ストップウォッチ」という「個物」の特定には至らなかった。鳥居は「触れば(個物識別の)目標点に到達しているのだから眼だけでもやがてそれが可能になるはず」と記述している(『臨床認知心理学』(2008年)p.138)。個別認識の課題は後節でとりあげる「顔」一般と「特定人物」の識別にもつながる、低視力(弱視、ロービジョン)の開眼者にとって敷居の高い課題といえる。
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