豚肉のタブー
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/25 20:02 UTC 版)
「食のタブー#豚」も参照 世界には豚肉の食用を禁じる宗教がいくつかある。古代メソポタミアでは豚は卑しい物とされていたが、食べることは禁じられておらず、普通に食されていた。一方、馬、犬、蛇を食べることはタブーであった。[要出典] シュメル人は豚肉を食べたが、一般に羊肉の方が上等と考えられ、好まれたらしい。豚肉は女奴隷の食べ物と考えていたようで、次のようなことわざが残っている。「脂身はおいしい。羊の脂身はおいしい。女奴隷にはなにを与えようかしら。彼女(=女奴隷)には豚のハム(あるいは臀(しり)の肉)を食べさせておけ。」 また、豚の飼育は女性の仕事であったようで、こうした例は羊や牛には見られない。 — 小林登志子著『シュメル―人類最古の文明』p70-71 古代エジプトでは、豚と牡山羊は不浄な物として、神殿に生贄として持ち込むことが禁じられていた。しかし庶民は気にせず食べており、養豚も行われていた。 ユダヤ教ではカシュルートにより豚肉の食用が禁じられているほか、イスラム教では豚は不浄なものであるとされ、食のタブー(ハラーム)として食用が禁じられている。そのため、中東のイスラム諸国はもとより、中国やシンガポール、マレーシア、インドネシアなどムスリムの人口が多い国や都市では、ムスリム向けに豚肉を一切料理に使用していないこと、ラードや豚骨スープ等の豚に由来する成分なども使用していないこと、そして豚以外の肉でも所定の手続きを踏んで屠殺したものであることの3箇条を示す「ハラール(Halal)」という証明書の取得と表示が料理店に対し義務付けられている。マクドナルドやケンタッキーフライドチキンなどの外資系ファーストフード店にも表示が義務付けられており、さらには現地で販売されているスナック菓子などにも、表示が付けられているのを見ることができる。豚を巡っては、イスラームの影響の強いインドネシアで味の素の一部生産工程(豚から作られた酵素を使用する。使用された酵素は製品には入っていない)を巡って騒ぎとなったこともある。 「味の素#味の素追放事件」を参照 このような宗教的な事情から、多国籍(多宗教)の乗客の利用が想定される国際線の機内食では、基本的に豚肉は使っておらず、さらに特別な儀式で加工・調理されたイスラム食やユダヤ食もリクエストにより提供されている。 イスラームに関して言えば、豚肉を食することを禁じる以前に、イスラームの方法で屠殺されていない哺乳類や鳥類の肉の食用は全て禁じられている。厳格なムスリムは豚肉に限らず出所の不明な哺乳類や鳥類の肉は一切口にしない。豚肉以外の、牛肉や鶏肉ならイスラームの方法で屠殺されていないものでも食べるというムスリムも少なくないが、イスラーム法の観点では禁じられている行為である。 「ハラール」を参照 そのため、豚肉の食を忌避するのは宗教上の理由よりも(日本人がネズミやトカゲを食べない、食べたいとも思わないのと同様)文化的嗜好の問題ともいえる。ただ、豚肉を食べる事を忌避する以上、イスラームの方法で屠殺された豚肉は存在しないので、結果として豚肉を食べる事は禁忌となる。クルアーンなどにおいて特に豚肉と、それ以外に禁じられているものの間に優先順位などは述べられていない。 またイスラーム法においては、飲酒などとは異なり、豚肉などの禁じられた食物を食べることには特に罰則は設けられていない。従って、何らかの事情で、禁じられた食物を食べる以外に術の無い状況での食利用は許されている。イスラム教徒が多数派でありながら、イスラーム法の適用が厳格ではないインドネシアにおいては、慢性的に食糧事情に恵まれない、非イスラム教徒の山岳少数民族に対し、むしろ豚を飼育してそれを食料に充てる事を奨励しているほどである。 また、ユダヤ教でも緊急の場合であれば豚肉を食する事を認めている。そのため現代のイスラエル国防軍では、豚肉を糧食として用いている。ただし、その場合は必ず専用の食器を用いて、使用後は全て破棄する事とされている。
※この「豚肉のタブー」の解説は、「豚肉」の解説の一部です。
「豚肉のタブー」を含む「豚肉」の記事については、「豚肉」の概要を参照ください。
- 豚肉のタブーのページへのリンク