解離を生むストレス要因
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/21 00:07 UTC 版)
「解離性同一性障害」の記事における「解離を生むストレス要因」の解説
生理学的障害ではなく心因性の障害である。心因性障害の因果関係は外科や内科のように明確に解明されている訳ではなく、時代により人によって見解は統一されていない。治療の方向性はある程度は見えてきてはいるものの最終的には試行錯誤である。むしろ多因性と考え、あるいは一人一人違うと考えた方が実情に即しており、以下もあくまで一般的な理解のまとめに留まる。 解離性障害となる人のほとんどは幼児期から児童期に強い精神的ストレスを受けているとされる。ストレス要因としては、(1)学校や兄弟間のいじめ、(2)親などが精神的に子供を支配していて自由な自己表現ができないなどの人間関係、(3)ネグレクト、(4)家族や周囲からの児童虐待(心理的虐待、身体的虐待、性的虐待)、(5)殺傷事件や交通事故などを間近に見たショックや家族の死などとされる。この内、(4)(5)がイメージしやすい心的外傷(トラウマ)である。 1980年代頃の北米の事例で象徴的なのは慢性的な(4)のケースである。パトナム (Putnam,F.W.) は1989年には児童虐待がDIDを「起こす」と証明された訳ではないが、DIDと心的外傷、なかんずく児童虐待との因果関係を疑う治療者はひとりたりともいないと云ったが、同時にそれ以外の児童期外傷として(5)の「地域社会の暴力」「家庭内暴力」「戦争と内乱」「災害」「事故と損傷」もあげている。 (3)のネグレクト (neglect) を原因とするDID症例も多く、ネグレクトは虐待とセットで論じられることも多い。ネグレクトというと「養育放棄」の重いもの、「充分な食事を与えない」「放置する」というようなイメージが強いが、意味するところは広く、経済的事情・慢性疾患などで子供の感情に対する応答ができないなども含めて、精神の発達に必要な愛情その他の養育が欠如している状態を指す。ネグレクトも心的外傷 (trauma) に含めてそれを陰性外傷 (negative trauma) と呼び、通常の虐待を陽性外傷 (positive trauma) と呼ぶこともある。陰性外傷としてとらえた場合には、それが親の責任であるかどうかに関わらず、場合によっては子供の過度の感受性故の誤認による主観的な心の傷まで範囲は広がる。家庭内の虐待を伴わないネグレクトもあるが、家庭内の虐待は多くの場合、陽性外傷であるとともに陰性外傷でもあることがある。ストロロウ (Stolorow,R.) などは、小児期における心的外傷は苦痛自体が外傷体験なのではなく、それに対して養育者(親)が応答してくれない、波長を合わせる(attunement) ことを行わないことが外傷体験であるという。クラフトの四因子論で云えば4つ目の「慰めの不足」に似ている。 日本では(1)(2)を要因とする症例も多い。(2)は「関係性のストレス」とも呼ばれる。過保護でありながら支配的な家庭環境によるストレスが中心だが、中には次のようなケースも含まれる。母親はすごく良い子で手がかからずスムーズに育ってきたと思っていた。しかし娘は、いい子でいなくてはと親の気持ちをくみ取りながら生きているうちに自分の気持ちが内側にこもり解離が始まりだす。報告されている事例は娘の場合が多いが、息子の場合もありうる。このようなケースでは母親は娘(主に)の発症に訳も判らぬまま自分を責めることがしばしばある。ただしアメリカの治療者がそうした側面を見ていないわけではない。例えばアリソン (Allison,R.B.) は1980年の自著の中でこう書いている。特に後半などは岡野憲一郎が「関係性のストレス」として描きだしたものと共通するニュアンスがある。 「原因には似通ったパターンがあるということだ。〈児童虐待〉もそのひとつである。・・・精神的・心理的暴力(いじめ)も含まれる。・・・片方の親は〈良い親〉で、もう片方は〈悪い親〉と見られている。・・・〈良い親〉が、子どもを〈捨てる〉といったことも多い。実際には、親が死亡したり、軍務についたり、あるいはいたしかたない別離なのだが、子どもにはそれが理解できない」「他の人格を作り出す子どもは、怒りや悪い感情を抑えなさいと教えられていることが多い。いい子は怒ったりしないというのが、両親や保護者から強制される態度である。」
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