製作に関して
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岡田茂映画本部長(当時)は東映東京撮影所所長時代の1962年から1963年に敷いた「東映ギャング路線」の成功に貢献してくれたフリーの井上梅次監督の招聘を決め、既に井上に頼んでいたが、プロデューサーの吉田達が「井上さんだと演出250万円、脚本150万円の計400万円とられますよ。本部長は2400万円で作れって言いますけど、監督に400万円も取られたら出来ません。(東映)社員の野田幸男なら15万円で済みますよ」と進言し、岡田が「よし、じゃあ野田でいけ」と監督が野田に変更になった。2400万円という製作費は全16本とも同じで、当時の東映でも最低の予算だった。梅宮のギャラは推定70万円。野田は岡田に東映本社に呼ばれ「お前も助監督を10年もやったんだから多少は映画のことも分かってきたやろ。梅宮主演で『不良番長』をやるからすぐに『地獄の天使』を観て来い!」と言われ、慌てて電車に乗り、場末の汚い小屋(映画館)に掛かっていた『地獄の天使』を観た。野田は「クランクインが迫っていて、僕は何人かの有名監督に断られた最後のピンチヒッターだった」と話している。いずれも監督デビューだった野田幸男が11本、内藤誠が5本、脚本は全作、松本功、山本英明のコンビが担当した。 吉田は岡田から「梅宮を二軍のエースにしろ」と指示された。『不良番長』には東映の一軍俳優は出ていない。野田は吉田に「岡田さんに言うようにやったらダメですよ。ムチャクチャいきまひょか! 谷岡ヤスジみたいな方向性で行きまっせ!」と言い、吉田はそれを了承。梅宮にも「岡田さんに怒られてもいいから、ムチャクチャにやろう!」と焚き付け、作品は段々ムチャクチャになっていった。吉田と梅宮は「『不良番長』の成功の因は、関西出身の野田さんがえげつない関西イムズを持ち込んだからだと思う」と述べている。野田と吉田はお客を笑わせようと必死で、毎回映画館にお客の笑いをチェックに行った。岡田は『乱暴者』のマーロン・ブランドのような、もっと渋くてカッコいい梅宮を想定していたから、一作目を観て「何じゃこりゃ!」と言った。一作目のシナリオには岡田からダメ出しも食らっていたが、三作目くらいまで行ったら営業が「お客さん、皆『不良番長』が良いと言っています」と岡田に報告し、岡田から「どんどん行け!!」と指示が飛び、長期シリーズが決定した。タイトルの『不良番長』も当時の主婦連の「良くない映画タイトル」ワースト1に選ばれ、「不良性感度」を標榜する岡田はそれを自慢していたという。 メインのシナリオライター・松本功、山本英明は共同でシナリオを執筆する人で、内藤誠、山口和彦、中島貞夫らが東映同期入社の「花の8期」。松本と山本は任侠映画のシナリオをたくさん書いた。任侠映画のサブタイトルに使われた「死んで貰います」という名台詞は「僕らが考えた」と話している。「悪が生き残って、成功した映画はない」という岡田の名言もあり、『不良番長』でも脚本段階では一応貫かれていた勧善懲悪は、東映任侠映画と共通するもの。シリーズ二作目の『不良番長 猪の鹿お蝶』のみ、凡天太郎の原作クレジットがあるのは「猪の鹿お蝶」というサブタイトルだけを会社が使用したかったため。原作はほとんど使わなかったというが、凡天原作にある「女が男をバッタバッタ斬る」というプロットが製作当時はまだ珍しく、松本は筆も進まず困っていたら、野田監督と矢部恒プロデューサーに粘りの説得を受け、仕方なく山本には相談せず、松本一人で『猪の鹿お蝶』のシナリオをたくさん書いた。 シリーズは評判がよく、途中で監督が足りなくなり、吉田が岡田に相談したところ「内藤にでもやらせておけば、大丈夫」と言われ、第1作で助監督を務めた内藤誠が第4作『送り狼』で監督デビューを果たした。内藤は「他人のシリーズで監督デビューはしたくない」と、せっせとオリジナル脚本を書き、会社に提出していたが、岡田に呼びつけられ、「いろいろゴチャゴチャ本を書いているらしいけど、そうはいかない!『送り狼』でゴーだ!」と言われた。シリーズ中、5作を監督した内藤は「ロジャー・コーマンの『ワイルド・エンジェル』で映画をやるから観て来い」と岡田に言われ、野田幸男と一緒に観に行ったという。内藤は当時がもうコーマンばかり観て『白昼の幻想』を観てヒッピー文化を研究し『不良番長 出たとこ勝負』(1970年)の福島県郡山市熱海ロケで「同じように暴走族を100台集めてバイクの集団を走らせた。映画の撮影なのでルールを守って走りましょうと言ったが、誰も守ってくれず、あれで初めてパトカーに連行された」と話している。内藤は「映倫スレスレを狙え」と岡田からアドバイスを受けた撮影台本や、『送り狼』の試写を観た岡田から送られて来た書簡を現在も大切に保管している。
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