行田足袋の生産工程
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/11 02:53 UTC 版)
明治期から大正期にかけて行田の足袋産業は、自身では足袋を生産せず全面的に生産委託する「足袋問屋」、足袋製造の一部にのみ関与する「足袋製造卸」、この両者から足袋生産を委託される「下職」、下職からさらに生産を委託される「内職」という、職種ごとで階層的な関係が形成された。この関係を強固にし、さらに製造工程の効率化を図るために、足袋の製造工程そのものの分業化がさらに推進された。 地域内での分業構造が確立する過程では、資本を蓄積した足袋問屋が自家工場を建設したり、足袋製造卸が自家工場を拡大するなどの傾向もみられた。 足袋の生産工程の大部分は複雑な手作業で、以下13の工程があるが、以下の「3.とおし」から「13.仕上げ」までの工程は、従来は1人の職人が一貫して携わった作業工程である。各工程に専用のミシンを導入するなどにより分業化がすすめられたことで、生産工程が細分化された。 ひきのし - 足袋生地を裁断しやすくするため、10枚ずつ重ねて揃える作業。「貼り屋」とよばれた職人が担い、この貼り屋が用いる白足袋用の布地・晒し木綿の加工は「晒し屋」と呼ばれた職人が担った。この「貼り屋」と「晒し屋」の仕事には、布を晒したり糊を乾燥させたりするための広い作業スペースが必要であり、冬場の農閑期の農家の副業として、近郊の農家が携わった。 裁断 – ひきのしした生地を金型で打ち抜く仕事。金型は、足袋製造者ごとに「原稿師」が作成した紙型に基づいて制作された。 とおし – 甲馳(こはぜ)にかける太めの糸を表生地に仮縫いする仕事。専用の機械が開発されたことにより、内職にまわされるようになった。 おさえ - 通し縫いした太い糸を固定するよう、縫い止める仕事。 はぎまき - 鞐を付ける箇所の裏側に、当て布を接ぎあわせる仕事。 鞐(こはぜ)付け - 鞐を布に縫い付ける仕事。専用のミシンが開発されたことにより、簡易化した作業のひとつである。 羽縫い - 甲の表裏を縫い合わせ、表に返す仕事。 甲縫い – 内甲と外甲をそれぞれ縫い合わせる仕事で、この甲縫いと前工程の羽縫いで、足袋の甲の外形がほぼ完成する。 尻止め - 甲の踵の部分を丸い形に止め縫いする仕事。 ツマ(先付け) - 甲布の足先部分に小刻みなマチを付け、指先のふくらみを作りながら皮と底を縫い合わせる仕事。足袋の履き心地を左右するもっとも重要な工程である。 廻し縫い – ツマから踵までの表布と底布を縫い合わせる仕事。 千鳥 - 廻し縫いの縫い代部分を、絡み縫いする仕事。縫製はここまでである。 仕上げ - 足袋を木型に履かせ、木槌で叩いて形を整えたり、アイロンで皺を伸ばす仕事。この後、足袋は1足ずつ紙で結い、商標を付けて包装、箱詰めされるところまでが「仕上げ」の仕事であった。 2.裁断工程で使用する足袋底を型抜きする金型の1種。この画像の型には、縫製作業を分業するための目印が3カ所についている。 4.おさえ工程で使用される専用のミシン 6.鞐付け工程で使用される専用のミシン 9.尻止め工程で使用される専用のミシン 10.ツマ(先付け)工程で使用される専用のミシン 13.仕上げ工程で使用される木型。 行田で初めて工場生産に着手した橋本足袋工場では、1890年(明治23年)には手回しミシンの「フジミシン」を導入している。以後、裁縫工程に小規模ながら機械を導入し、工場生産方式をとる者がふえ、行田全体では、直進縫いに適した「フジミシン」のほか、爪先縫いに利用する「ドイツ八方ミシン」などが採用された。裁断機の導入は、ミシンよりも後年であった。 大正時代に工場法が適用された従業員が13名以上の足袋製造工場は、1923年(大正12年)の時点で組合員数178に対して36工場であり、このうち100名以上の職工を抱えた大工場は奥貫工場(142名)、行田工業株式会社(137名)、鈴木足袋工場(116名)、橋本工場(足袋工場105名、織布工場143名)の4つだった。男女比では男性の比率が高く、大正時代には「ツマ(先付け)」や「廻し縫い」の工程は男工の仕事であったとみられる。足袋生産の多くを下請け工場や内職従事者に依存した生産体制であった。工場で一定期間、従業員として足袋製造に携わった者が婚姻などを機に退職する際、ミシンなどの製造道具を借り受け、その工場の内職として働き続けることが地域内で一般化し、工場単位でも足袋製造が分業化した。 1941年(昭和16年)3月の調査によれば、足袋工場は下請場もあわせて533工場あり、9,638名の職工がいた。
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