聴覚系との関連
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/09/07 15:43 UTC 版)
聴覚野は脳において最も強く組織化された音処理のユニットである。この皮質領域は聴覚、及びヒトにおける言語、音楽の処理の神経的な要所となっている。 聴覚野は一次、二次、三次聴覚野の3領域に分けられる。これらの領域は同心円状に並び、一次聴覚野が内側、三次聴覚野が外側に存在する。 一次聴覚野はトノトピーに従って構造を成している。つまり、聴覚野のある領域のニューロンは特定の周波数の音に対して反応する。このことは聴覚系の経路を通じて保存されている興味深い機能である。この領域は音高や音量などの、音楽の基本的な部分を同定することが出来ると考えられる。このことは視床の内側膝状体からの直接の入力を受けていることからも分かる。二次聴覚野はハーモニー、メロディ、リズムのパターンの処理を担っていることが示唆されている。三次聴覚野は全てを音楽の全体的な体験へと統合する役割を担うと推測されている。 クリンケ (Klinke) らによる先天的に聾唖の子猫の誘起電位の研究では、電場電位を利用して聴覚野の皮質可塑性が計測された。先天的に聾唖の子猫に人工内耳と音処理装置を埋め込んで刺激した結果、この子猫から計測される電場電位は正常な聴覚の猫よりも強いものとなった。この結果は、音楽教育を受けた生徒は受けてない生徒に比べて皮質の活動が増加するとしたエッカート (Eckart Altenmuller) らによる研究と一致する。 聴覚野はガンマ波周波数に関して不思議な現象を示す。3、4周期の40ヘルツのクリック音に曝された被験者の脳波には、他の刺激では現れない異常なスパイクが現れる。この周波数に関連して生じる神経活動のスパイクは、聴覚野のトノトピーに依存するものではない。この周波数は脳の特定領域の“共鳴周波数”であると考えられ、この活動は視覚野にも影響を及ぼしている。 ガンマ波 (20 から 40 Hz の脳波) は感覚的な出来事の知覚や、認識の処理の際に現れる。ニーフ (Knief) らの2000年の研究では、ヤンキードゥードゥル (Yankee Doodle : アルプス一万尺) やフレール・ジャック (Frere Jacques : かねがなる) といったよく知られている曲から8音を、まず被験者に呈示した。その次に、ランダムに6、7番目の音符を省略して呈示し、その時の脳活動を脳波計と脳磁図を用いて調べた。その結果、聴覚課題によって発生するガンマ波は、被験者のこめかみ付近で観測された。省略された刺激に対する反応 (OSR : omitted stimulus response) は、わずかに異なる位置で計測され、その位置は通常の曲に比べて、7 mm前方、13 mm内側、13 mm上方であった。また、計測されるガンマ波は通常の曲に比べ弱いものであった。省略された6、または7番目の音に対する反応の変化は、特に右大脳半球で大きかった。右側の一次聴覚野はより調性音楽に対する感受性が高いとされる一方、左側の一次聴覚野は特に音声言語の音のわずかな順番の違いにより感受性が高いとされている。 幻聴はガンマ周波数帯に類似した (完全に同一ではない) オシレーションを引き起こす。スパーリング (Sperling) は自身の2004年の研究により、幻聴が12.5から30 Hz の脳波を引き起こすことを示した。この周波数帯は統合失調症患者の右側一次聴覚野の活動を、13人の対照群と比較した時に観測された。この実験は、被験者に頭の中で曲を思い出してもらい、実際には音を聞いていないにも関わらず、メロディやリズムや音全体の体験を経験してもらう過去の実験と対になるものである。統合失調症患者は幻聴を感じている時、一次聴覚野が活性化していた。このことは、曲を思い出してもらう際は三次聴覚野がわずかに活動することと比べて対照的な結果となった。このことから、一次聴覚野の人工的な刺激は非常にリアルな幻聴を引き起こすと考えられる。また、全ての音と音楽の情報が三次聴覚野へと終結することで、聴覚情報の魅力的な結びつきを生み出していると考えられている。この理論が正しいとすれば、三次聴覚野に損傷を受けた人や、この領域の機能を人工的に低下させた人の研究をすることは興味深いものとなるだろう。しかし三次聴覚野は他の低次の聴覚野を取り囲むように輪状に存在するため、このような実験は非常に難しいものとなる。 音色は聴覚野の他にも多くの領域で知覚される。その中でも特に興味深い領域として前頭前皮質内側吻側部 (rostromedial prefrontal cortex) がある。ジャナタ (Janata) らは自身の2002年の研究において、fMRIを用いて音色の処理をする際に活動する脳の領域を調べた。その結果、通常は聴覚処理と関連がないと考えられていたいくつかの領域でも活動の変化が見られた。前頭前皮質内側吻側部は内側前頭前皮質の下位領域で、扁桃体へと投射し、負の感情の抑制を助けていると考えられている。内側前頭前皮質は衝動的な10代と温和な大人を比較した際、大きく発達の異なる領域であると考えられている。前頭前皮質内側吻側部の音色に対する感受性は、この領域が共鳴する音や音楽の周波数や音色に対して活性化することを意味する。このことは音楽によって人々の魂 (見方によっては大脳辺縁系) が安らぎを得るメカニズムとして考えられるかもしれない。
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