聴覚障害について
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/08 17:17 UTC 版)
「ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン」の記事における「聴覚障害について」の解説
難聴(40歳ごろには全聾[要出典]となった)の原因については諸説ある。 耳硬化症説 伝音性の難聴。中耳の耳小骨の「つち・きぬた・あぶみ」の内のあぶみ骨が硬化して、振動を伝達できず、音が聞こえなくなる病気。現代では手術で改善される。ベートーヴェンの難聴が耳硬化症である論拠として、ベートーヴェンが人の声はまったく聞こえていなかったにもかかわらず、肖像画のモデルになっていた時、後ろでピアノを弾いていた甥のカールが失敗する度に、「そこはおかしい!」と注意したエピソードが挙げられる。これは耳硬化症に特有の、人の声はまったく聞こえなくなるが、ピアノの高音部の振動はわずかに感じ取ることができる性質にあると考えられる。また、ベートーヴェンは歯とピアノの鍵盤をスティックでつなぐことで、ピアノの音を聞いていたという逸話もこの説を裏付ける論拠として挙げられる(高度難聴以上は感音性難聴であり、骨導音の利用は無意味であるため)。 医学的分析としては、これらの症状から導出された仮想オージオグラムと、実際の耳硬化症およびページェット病の顕微鏡写真との比較などから、耳科医の多数意見は耳硬化症であるとの論文があり、有力説となっている。 なお、耳硬化症だとすると、伝音性難聴であり高度難聴や全聾になることは稀であり、現代の医学分類ではせいぜい中度難聴であると考えられる。 先天性梅毒説 「蒸発性の軟膏を体に塗り込んだ(水銀の可能性。当時梅毒の治療法の一つ)」という記述があるため、論拠とされている。しかし、のちにベートーヴェンの毛髪を分析した結果、水銀は検出されず、また梅毒は眩暈の症状を併発するにもかかわらず、そうした話がないために、先天性梅毒説は説得力の乏しいものとなっている。 鉛中毒説 上載の死因と健康についてを参照。成人の低レベルの鉛への継続的被爆が聴覚障害を生むことはParkほかの論文などで示されている。しかし、全聾というほど重篤なものに帰結するかは議論の余地がある。たとえば、前述のParkほかの論文では、30dB程度であり、軽度難聴である(ただし、この聴力だとすると、リストを褒めたなどのベートーヴェンの行動に説明がつく)。 メッテルニヒ政権対策(実際は全聾ではなかった)説 21世紀の現代では、ベートーヴェンがその自由主義的な主張でメッテルニヒ政権下では反体制分子と見られていたことを挙げて、難聴だったとしても全聾までは悪化しておらず、盗聴を防ぐために「筆談帳」を使った可能性も指摘されている。その延長として「ベートーヴェンは暗号を用いていた」という仮説に基づく『秘密諜報員ベートーヴェン』という書籍が出版された。 この説については、たとえばベートーヴェン晩年の1823年4月13日にデビュー直後のリストの演奏に臨み、彼を高く評価したエピソードが残っているが、耳硬化症による難聴ならばまだしも、全聾であればそういったことはできないという指摘や、「女中に卵を投げつけた」という類の有名な逸話も、これは「女中に変装したスパイ」への正当防衛であるという見解がある。 また、完全失聴や聴覚障害を患った作曲家にボイスやフォーレがいるが、彼らの作曲活動はその後伸び悩んでいるのに対し、ベートーヴェンはその間に多くの重要作を書いている点も指摘される。
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