経済学の定義
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/22 07:45 UTC 版)
経済学の最も古い定義は、アダム・スミスの『国富論』によるものである。 政治経済学(ポリティカル・エコノミー)は、政治家や立法者の科学(サイエンス)の一分野として考えた場合には、二つの明確な目的がある。第一に、国民に十分な収入や食料などの生活物資を提供すること、つまり、より適切にいえば、国民が自分自身で、そのような収入や食料などの生活物資を入手できるようにすることであり、第二に、十分な公共サーヴィスを提供するための収入を国家(ステート)ないしは共和国(コモンウェルス)にもたらすことである。それが提案することは、国民と統治者の両方を豊かにすることなのである。 — アダム・スミス『国富論(上)』講談社学術文庫「第四編 政治経済学の体系についてー序論」 また、1878年頃、フリードリヒ・エンゲルスは、経済学について次のように述べた。 経済学は、最も広い意味では、人間社会における物質的な生活資料の生産と交換とを支配する諸法則についての科学である。経済学は、本質上一つの歴史的科学である。それは、歴史的な素材、すなわち、たえず変化してゆく素材を取り扱う。 — フリードリヒ・エンゲルス「反デューリング論」第二篇 岩波書店刊 さらに、エンゲルスの盟友であり、マルクス経済学を確立したカール・マルクスは、『資本論』序言で次のように述べた。 問題なのは、資本主義的生産の自然諸法則そのものであり、鉄の必然性をもって作用し、自己を貫徹するこれらの傾向である。 — カール・マルクス「資本論」岩波書店刊 その後、経済学の定義について、ライオネル・ロビンズが1932年に『経済学の本質と意義』で最初に問題提起した。 他の用途を持つ希少性ある経済資源と目的について人間の行動を研究する科学が、経済学である。 — ライオネル・ロビンズ、小峯敦・大槻忠志 共訳「経済学の本質と意義」京都大学学術出版会 しかし、こうした定義にはジョン・メイナード・ケインズやロナルド・コースらからの批判もある。経済問題は性質上、価値判断や道徳・心理といった概念と分離する事は不可能であり、経済学は本質的に価値判断を伴う倫理学であって、科学ではないというものである。 一方で、とりわけゲーム理論の経済学への浸透を受けて、経済学の定義は変化しつつある。たとえば、ノーベル賞受賞者ロジャー・マイヤーソンは、今日の経済学者は自らの研究分野を以前より広く、全ての社会的な制度における個人のインセンティブの分析と定義できる、と述べた(1999年)。このように現在では、資本主義・貨幣経済における人や組織の行動を研究するものが中心となっている。広義においては、交換、取引、贈与や負債など必ずしも貨幣を媒介としない、価値をめぐる人間関係や社会の諸側面を研究する。このような分野は、人類学、社会学、政治学、心理学と隣接する学際領域である。 また、労働、貨幣、贈与などはしばしば哲学・思想的考察の対象となっている。ただし、経済システムの働きに深く関わる部分については経済思想と呼ばれ、経済学の一分野として考えられることも多い。
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