熱化学電池の基本-エネルギーと反応速度論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/11/11 02:08 UTC 版)
「熱化学電池」の記事における「熱化学電池の基本-エネルギーと反応速度論」の解説
サーモセルは、酸化還元対を含有する電解質と、外部回路に接続された2つの電極からなる(図1)。セルを横切って温度勾配が生じると、酸化還元反応の温度依存性により酸化還元対がアノード側で酸化され、カソード側で還元される。サーモセル内の電流の流れは、還元体が対流や拡散により電解質を通っておよびアノードへ移動し、酸化された種が反対にカソード側に輸送される。この一連のサイクルにより連続的な反応を生じるため反応は連続的である。構成成分の分解がない限りこの反応は理論的に無限に続けることができる。 温度勾配に対して生成される電位差の大きさは、デバイスの電力出力を決定する重要な要素である。 A + ne − ⟶ B {\displaystyle {\ce {A + ne- -> B}}} (1) で表される酸化還元反応の場合、ゼーベック係数は次の式で与えられる。 (2) nは移動した電子の数、Fはファラデー定数、SAおよびSBは種AおよびBの部分モルエントロピー、およびはイーストマンエントロピー、は、外部回路内の電子のイーストマンの輸送エントロピーを表す。 イーストマンの輸送エントロピーは、イオンとその溶媒和シェルの溶液との相互作用に起因するもので μVK-1のオーダーであり、大抵の溶液ではおよびに比べて小さく無視できる。したがって式(2)は次のように書くことができる。 nF(∂E/∂T)t=∞ = SB - SA あるいは ゼーベック係数およびセル両端の電位差を増加させると、理論的に生成可能な電流が増加する。ただしこの電位差は系の平衡状態のものである。セル動作中(電流が流れているとき)の最大電力は、システム内の様々な過電圧(抵抗に対応するもの)によって電圧が低下するため、各々のセルの性能はゼーベック係数のみでは決定できない。過電圧の要因は主に3つあり、オーミック過電圧、電荷移動過電圧および物質輸送過電である。オーミック過電圧は主に、電極や接続などのセル内の電気抵抗によるオームドロップ(IRドロップ)を表す。電荷移動過電圧は、電極表面における酸化還元対の電荷移動の反応動力学に由来する。物質移動過電圧は、電解質の酸化還元対の動きに関する。これは、拡散、移動および対流の寄与を含むため、特に複雑である。これら各々の過電圧に、さらに温度依存性がある。 また熱勾配は電池性能の重要な要素である。電解質の熱伝導率が高いと、電極間に生じるΔTおよび温度勾配が小さくなり、電池の電圧が低下する。これらの要素を考慮すると、サーモセルの性能は、ゼーベック係数に加え、性能に及ぼす導電率(σ)と熱伝導率(κ)の影響を考慮した無次元性能指数(ZT)で定義される。 一般に固体半導体素子のZT値は1.7以下である。熱電池の場合、電解質の輸送特性は伝導度以外にも影響を受けるため、この性能指数は熱電化学電池には直ちに適用できない。物質輸送を考慮した修正された性能指数は、Abraham らによって導入され、性能指数(現在ZT *と呼ばれる)は、 で与えられる。ここで、zはイオンの電荷、Fはファラデー定数、Rは気体定数、Dlimは限界拡散係数、cは酸化還元対の濃度である。 現在、サーモセルの最も大きな課題は、その低い出力と変換効率である。報告されているほとんどのサーモセル素子は、カルノーエンジンに比べたエネルギー変換効率(カルノー効率、効率÷(1-TH/TL))が1%未満である。しかし、最近の研究では、高比表面積の炭素電極を使用することで3.95%の変換効率が報告されている10,11。これらの効率はなお低いが、サーモセルの主な用途は浪費されるエネルギーの回収であるため、商業的に成り立つために必要な効率は比較的低い。いくつかの見積もりによれば、実用的なエネルギーハーベスティング用途には2 - 5%の変換効率があれば十分である。6ただし、製造コストや設置コスト、装置の動作寿命によって、求められる変換効率は当然左右される。 サーモセルの効率の向上のためには、セル内が発生しうる電位差の増加と、電極での電流密度の増加という2つの主要なターゲットがある。電圧の向上は、基本的な熱力学を理解し最適化すること、すなわち高いゼーベック係数を有するレドックス対と電解質との組合せを開発することで達成できる。使用するセルの温度範囲は、高沸点電解質の利用や、固体電解質やセパレータにより大きな温度勾配を維持するなどのデバイス設計の最適化によって、広げることが可能である。さらに高表面積の電極および良好な物質輸送特性を有する電解質の使用により、電流密度を改善できる。以下に述べるように、これらのすべての観点は、サーモセルデバイスの性能を改善するための戦略として現在検討されている。
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