泡
『神統記』(ヘシオドス) クロノスが父ウラノスの性器を大鎌で切断して、海へ投げた。海に漂う性器の回りに白い泡(=精液と見なされる)が湧き、その中に美しい乙女アフロディーテ(=ヴィーナス)が誕生した。
泡子塚の伝説 西行が旅の途中、醒ヶ井の茶屋に立ち寄った。その折、西行に恋した茶屋の娘が、西行の飲み残した茶の泡を飲んで懐妊し、男児を産んだ。旅の帰途、このことを聞いた西行は男児を見て、「もしも我が子ならば、もとの泡に還れ」と念じた。男児はたちまち泡となってしまった(滋賀県坂田郡米原町醒井。*→〔口〕1の『捜神記』巻11-33の変形)。
★3a.神龍が口から泡を吐く。
『史記』「周本紀」第4 昔、夏后氏が衰微した頃、2匹の神龍が帝宮の庭に現れた。夏の帝王が占うと、「龍が口から吐く沫(あわ。=龍の精気)を請い受ければ『吉』」と出た。龍は沫を吐いて去ったので、匱(はこ)に沫を納めた。夏・殷・周、3代の間、匱を開く者はなかった。周の厲(れい)王の末年に開くと、沫は宮庭に流れ出し、取り除くことができなかった→〔性器(女)〕3。
★3b.神がかりした女の口から泡が出る。
『古今著聞集』巻2「釈教」第2・通巻64話 高弁上人の伯母である女房に、春日大明神が乗り移って、上人に向けてさまざまな託宣をした。女房は飛び上がり、天上の梁に尻をかけて坐した。顔の色は瑠璃のごとく青くすきとおり、口から白い淡(=泡)を垂らした。淡の芳香は他郷にまで匂ったので、人々が集まって拝んだ。女房は3日間、梁から降りなかった。
★4a.泡から陸地ができる。
泡からできたブオル王国 原初は海だけだった。予言者ノアの舟がやって来て3回廻ったので、海面に泡が現れた。泡は固くなって陸地となり、そこに黒い石が1つ発生した。石は割れ、中から人間の男タヌタウと女ブキ・キヌミラトが出てきた。2人は結婚して子供を作った。この土地は「ブオル」と名づけられた。「ブラウ=泡」に由来するからである(東南アジア、北セレベスの神話)。
★4b.泡から島ができる。
『日本書紀』巻1・第4段本文 イザナキ・イザナミが結婚して、8つの大きな洲(しま)を産んだ。これによって大八洲国(おほやしまくに)の名ができた。対馬島(つしま)・壱岐島および、ところどころの小島は皆、潮沫(しほなわ=海水の泡)が固まってできたものである。あるいは、水沫(みなわ=淡水の泡)が固まってできたともいう。
★5.死んで泡になる。
『人魚姫』(アンデルセン) 人魚は不死の魂を持たないので、3百年の一生を終えると、水の上の泡になってしまい、あの世に生まれ変わることはない。人魚姫は人間の王子に恋し、王子が隣国の姫と結婚した夜、海に飛びこみ、溶けて泡になる。しかしその身体は泡から抜け出て空気の精の世界へ昇る。3百年の後、彼女には不死の魂が授かるであろう。
『法句経物語』第46偈 1人の比丘が河で水浴し、岸辺で休んでいた。そこは流れの速い所で、多くの泡が出来ては、たちまちに消えていった。比丘はそれを見て、泡が出来ては消える姿と、人間の生死との間に、同じ道理がはたらいていることを悟った。
『泡んぶくの仇討ち』(昔話) 番頭が旅先で主人を殺す。折からの豪雨で水たまりにできる泡に向かい、主人は「仇を討ってくれ」と訴えて息絶える。番頭は「主人病死」と報告し、主人の妻の婿になる。主人の3年目の法要の時、夕立で寺内の水たまりに泡が立つのを見て、番頭は「泡に頼んでも仇討ちなどできぬ」と思い、笑う。主人の妻が「なぜ笑ったのか」とその夜問う。番頭は油断して3年前の悪事を語る。主人の妻は役所へ訴え出る〔*『大菩薩峠』(中里介山)第36巻「新月の巻」で、もと雇人幸内の霊がお銀様にこの物語を語る〕。
★8.泡の数と人間の数。
『娘奪還』(昔話) 山賊の岩屋の前に不思議な泉水があり、人が1人いたら泡が1つ立つ。2人いたら泡が2つ立つ。山賊にさらわれた娘を救いに、若者がやって来て、櫃に隠れる。山賊の大将が泉水を見ると、今までは泡が2つ(大将と娘)だったのに、今日は泡が3つ立っている。大将は「誰かいるのではないか?」と問い、娘は「私のお腹に赤ちゃんができたのでしょう」と答えてごまかす。大将は喜んで、手下たちと一緒に、お祝いの宴会をする(島根県能美郡広瀬町西比田)→〔美女奪還〕1b。
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