法曹志望者の大幅な減少、法曹の質の低下の懸念
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「法科大学院定員割れ問題」の記事における「法曹志望者の大幅な減少、法曹の質の低下の懸念」の解説
法科大学院の入学者数減少は前述のとおりであり、入学者数の減少は法曹志望者の減少を意味する。旧司法試験時代には、最も多い平成15年で50,166人が出願しており、昭和45年以降は少ない年でも2万人以上が司法試験に出願していた。これに対し、例えば平成25年の司法試験出願者数は10,315人、司法試験予備試験の出願者数11,255人を合わせても合計21,570人にとどまっており、旧司法試験時代に比べると法曹志望者数自体が大きく減少していることが分かる。法科大学院制度の理念は「質量ともに豊かな法曹」を養成するというものであったが、司法試験の合格者数は旧司法試験時代より大幅に増加されているにもかかわらず、法曹志望者数は逆に減少しており、その法曹志望者も法科大学院ルートではなく予備試験ルートに流れている。このため、「質量ともに豊かな法曹」を実現するという観点から法科大学院制度の正当性を説明することは、もはや困難になりつつある。一方、司法試験の合格者数を増加させたことに伴い、法曹者となる者の質の低下が各方面から指摘されている。以下に主な指摘を挙げる。 (1)平成25年3月22日衆議院法務委員会における最高裁事務総局人事局長答弁椎名毅委員(みんなの党)が、司法改革以前と比較して司法試験の合格者数が倍増しているにもかかわらず、判事補への採用人数は年間100人前後でほとんど変わっていない点について、「司法制度改革を行って、新司法試験に受かった人たちの成績が余り期待できていないという意味なんでしょうか」と質問したところ、安浪亮介最高裁判所事務総局人事局長は「私どもとしては裁判官になってほしいと思う者であっても、弁護士事務所の方に行くという者もおりますし、その一方で、やはり裁判官として仕事をしていく上では、裁判官にふさわしい資質能力を備えた者でなければならないということもありますもので、修習生の数がふえたからといって、直ちに判事補として採用する者が増加するという関係にはないというふうに見ております」と答弁している。つまり、最高裁は司法試験合格者数が約2,000人に増加したにもかかわらず、判事補に適する資質を有する司法修習生が任官しないため判事補の定員を満たさないと自認しているのであり、これは最高裁自らが司法修習生の質の低下を認めたも同然であると解釈されている。 (2) 二回試験不合格者数の急増司法試験合格者数の増加に伴い,司法修習生の考試(いわゆる二回試験)の不合格者数が急増している。旧司法試験時代,二回試験に不合格または合格留保追試対象)となる司法修習生はごくわずかであったが,司法試験の合格者数増大とともにその数は増加し,旧司法試験時代最後の修習期である59期(平成17年の司法試験に相当)では,二回試験の不合格者が10人,合格留保者(追試対象者)が97人もの多数にのぼった。最高裁は,翌60期から二回試験の追試を廃止し,二回試験で所定の成績に達しない者は直ちに不合格とする取り扱いとした。60期以降における,二回試験の不合格者数は以下のとおりである。 旧60期 71人(うち新規受験者60人) 新60期 76人(うち新規受験者59人) 旧61期 33人(うち新規受験者20人) 新61期 113人(うち新規受験者101人) 旧62期 23人(うち新規受験者9人) 新62期 75人(うち新規受験者70人) 旧63期 28人(うち新規受験者12人) 新63期 90人(うち新規受験者85人) 旧64期 24人(うち新規受験者10人) 新64期 56人(うち新規受験者56人) 65期 46人(うち旧試験組の新規受験者5人、新試験組の新規受験者38人) 66期 43人(うち新規受験者39人)最高裁事務総局は、不合格者数が激増した新60期の二回試験について、『新60期司法修習生考試における不可答案の概要』を公表しており、60期の不可答案は、例えば次のような問題点が一点にとどまらず複数積み重なっているなど、他の記載部分を併せて答案全体をみても、実務法曹として求められる最低限の能力を修得しているとの評価を到底することができなかったと説明している。○ 刑法の重要概念である「建造物」や「焼損」の理解が足りずに,放火の媒介物である布(カーテン)に点火してこれを燃焼させた事実を認定したのみで、現住建造物等放火罪の客体である「建造物」が焼損したかどうかを全く検討しないで「建造物の焼損」の事実を認定したもの○ 債務の消滅原因である民法505条の相殺の効果を誤解して、相殺の抗弁によっては反対債権との引換給付の効果が生じるにとどまる旨を説明したもの○ 放火犯人が被告人であるかが争点の事案で、「被告人は犯行を行うことが可能であった」といった程度の評価しかしていないのに、他の証拠を検討することなく、短絡的に被告人が放火犯人であると結論付けるなど、「疑わしきは被告人の利益に」の基本原則が理解できていないと言わざるを得ないもの○ 2年間有償で飼い猫を預かる契約の内容には「猫を生存させたまま返還するまでの債務は含まれない。」との独自の考えに基づき、「猫を死亡させても返還債務の履行不能にはならない。」と論じたもの一方、62期以降は不合格者数が減少傾向にあるものの、これは成績下位者を救済しやすくするために小問形式が採用されるなど、試験問題自体が変更されたことに起因するものであり、司法修習生の質が向上したわけではないと理解されている。上記の問題について、白浜徹朗弁護士は「実務修習での成績評価をしていると、従前は、優良可の判定のうち、「可」の判定をしなければならない修習生はほとんどいなかったのだが、最近は、「可」の判定もやむなしとなる修習生がかなりの数となっているから、修習生の水準が低下していることは間違いないので、そのような中、不合格者が減っているということは、我々弁護修習実務に関わる弁護士の指導や二回試験対策がよかったからというようなことでは説明できないのである」と述べている。
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