様々な文化における祖父母の育児参加
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/05/08 07:16 UTC 版)
「祖父母」の記事における「様々な文化における祖父母の育児参加」の解説
祖父母の育児参加のあり方は、西洋と東洋の文化では違っている。中国では、祖父母が孫たちの面倒を見ることは一般的な現象であるが、これは家族の調和、集合的な幸福、世代間交流、孝行を強調する中国の伝統によるものである。中国独特の哲学としての仏教と道教は、こうした古典的な価値観を形成する上で重要な役割を果たした。中国仏教は、中国の社会における家族の役割の重要性と、家族内の調和的な関係を、特に強調し、道教は、人と人との人間関係や、自然と人の関係における、調和の重要性を強調する。こうした哲学が、中国文化において家族が果たす重要な役割を下支えしている。文化的な要因に加え、祖父母たちが孫たちの子育てをする背景には、孫たちの親である成人した自分の子どもたちが、フルタイムで働く必要があり、育児サービスが高価であったり(特に大都市において)、貧弱であったり(僻地などにおいて)するという事情もある。孫たちの世話をする祖父母たちは、特に中国の農村部では、ごく一般的である。1980年代以降に急速に進んだ中国の都市化(英語版)によって、2億2千万人もの移住労働者が、仕事を求めて農村部から都市部へと流入したが、彼らは故郷に5800万人ほどの子どもたちを残しており、その子育ては、祖父母たちが親代わりとなって担っている。こうした祖父母たちは、新たに「留守祖父母」などと称され、中国の農村部に住み、主な仕事は育児で、その大部分は経済的重荷を抱え、成人した子どもたち(孫たちの親)の帰還を願っている。「留守祖父母」たちの精神的、身体的な健康については、社会からの関心を集める必要がある。育児サービスが提供されている都市部においても、ほとんどすべての祖父母たちは、自発的に孫たちの世話をすることを望んでいる。これには、保育サービスにかかる、成人した自分の子どもたちの経済的負担を軽減するという面もあるが、それだけではなく、自分の孫たちの世話をすることが家族の調和を目指す上で、より効率の良い方法だからである。 アメリカ合衆国では、孫の子育ては、祖父母の必須の責任ではない。孫の子育てをする祖父母たちは、何らかの望まれていなかった出来事なり、危機的な事情があってそうしているのであり、状況の解決策ではなく問題状況であって、そうしたいから希望してやっているわけではなく、中国とはまったく違っている。例えば、アメリカ合衆国の祖父母たちが孫の子育てに関与するのは、児童虐待や、投獄(英語版)、死別など、なんらかの問題に直面したことが契機となることが多い。アメリカ合衆国の中でも、エスニック集団によって様々に異なる事情があり、白人は一般的に個人の独立を重視する考えが強く、祖父母が孫の面倒を見る率は低い。しかし、アフリカ系アメリカ人やラテン系アメリカ人は、祖父母による孫の育児を家族の伝統とする見方が強く、成人した子どもへの援助にも積極的である。孫たちの育児をする祖父母たちに見られる多様性は、それぞれのエスニック集団がもつ文化的価値観の違いを反映している。具体的には、アフリカ系アメリカ人の祖父母たちは、孫たちに何かの手ほどきをしたり、しつけをすることがよくあるが、その背景には親戚や、血縁関係はない身内が自発的に相互扶助に取り組む、アフリカ系特有の柔軟性の高い家族の仕組みがある。ラテン系の家族は、大勢が同居することを好み、また、多くが移民1世や2世であることもあって家族との頻繁な接触を保とうとし、同居する家族を単位として生活し、機能するので、ラテン系の文化における祖父母は、家族の中のリーダーとして家族の単位を安定させる役割を担っている。白人の祖父母たちは、直接に育児を担うことは少ないが、他のエスニック集団以上に子育てに対する強い責任感や身体的負担感をもっており、それは主として、育児者としての役割があまり規範的なものではなく、育児の形態がより距離をおいたものであったり、友愛に基づくものであることに由来している。これとは逆にアフリカ系やラテン系アメリカ人の祖父母たちは、より厳しくしつけ、指示を与えるような子どもへの接し方をし、孫たちの世話をする際に、認知的、身体的な負担感を覚えることは比較的少ない。
※この「様々な文化における祖父母の育児参加」の解説は、「祖父母」の解説の一部です。
「様々な文化における祖父母の育児参加」を含む「祖父母」の記事については、「祖父母」の概要を参照ください。
- 様々な文化における祖父母の育児参加のページへのリンク