東アジアの伝統的な養豚
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/30 05:32 UTC 版)
東アジアでは『山地住民の生業における山の垂直利用とその変化』(西谷 大(国立歴史民俗博物館))にあるように、人間の生活圏から発生する生ゴミや人糞をそのまま養豚に用いることが伝統的な養豚法であった。 「糞#糞の利用」および「豚便所」も参照 豚を不潔な動物とする見方は、この点によるのかもしれない。しかし、食糞を行うのは豚に限らない。またヒトは雑食動物であるが、馬に見るように盲腸・大腸発酵によって食物繊維をエネルギー源に転換する草食動物としての性質を持っている。大腸に常在する多数の嫌気性細菌が、小腸までで消化吸収されなかったセルロースやヘミセルロースなどの多糖類を発酵させて、エネルギー源となる酪酸やプロピオン酸といった短鎖脂肪酸を生産している。こうした発酵の場は牛や羊などの反芻をする動物では胃の直前に位置しており、短鎖脂肪酸を吸収するだけでなく増殖した細菌や原生動物を胃に流し込んで消化・吸収。蛋白質などを回収している。ところがヒトやウマといった盲腸・大腸発酵を行う動物の消化器官は増殖した腸内細菌の菌体を消化吸収できず、糞として捨てざるを得ない。従って、人糞は細菌の菌体が主成分であり、この形で蛋白質などの栄養素を豊富に含んでいる。 東アジアでの養豚はこうした蛋白質に富んだ人糞を豚に食わせ、それによって集落の衛生を保つと共に生きた豚の形で蛋白質や脂肪をストックし、必要に応じて屠畜、人間の食料として回収するシステムとして発達した。日本の本州、四国、九州及びその周辺島嶼では江戸時代まで、不殺生戒がある仏教の影響で食用家畜を飼育する文化が衰退した。このため人糞は発酵させて農地の肥料として利用する文化が発達し、こうした人糞を飼料とする養豚は行われなかった(或いは行われなくなった)。一方、中国文化の影響が強く、九州以北と文化的差異が大きい琉球王国の支配下にあった南西諸島では、こうした東アジア一帯に普遍的に見られる人糞養豚が行われ、豚肉食文化が発達した。 人糞養豚は上記のように優れたリサイクルシステムではあるが、危険な寄生虫である有鉤条虫の感染サイクルを形成してしまうという問題点もあった。南西諸島では戦後、このリスクの危険視や、高等教育を受けた人々が中国由来の不潔な奇習であるとの偏見を持ったことによる人糞養豚廃絶運動が行われ、日本列島での人糞養豚は姿を消した。その過程では、八重山諸島でこの運動の先頭に立った高等教育を受けた女性の家の中に、嫌がらせとして人糞がぶちまけられるなどの激しい軋轢が生じたことが記録されている。
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