木星磁気圏との相互作用
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/15 09:04 UTC 版)
「イオ (衛星)」の記事における「木星磁気圏との相互作用」の解説
イオは木星の磁気圏を形作る上で重要な役割を果たしている。イオは 400,000 ボルトもの電圧の発電機として働き、300万アンペアの電流を生成し、木星に磁気圏を2倍以上の大きさに膨張させるイオンを放出する。木星の磁気圏はイオの薄い大気からのガスとダストを掃き集めており、その量は1秒あたり1トンにもおよぶ。この物質は大部分がイオンか原子状の硫黄、酸素と塩素、原子状のナトリウムやカリウム、分子状の二酸化硫黄と硫黄、そして塩化ナトリウムの塵である。これらの物質はイオの火山活動に起源を持つものだが、木星の磁気圏に散逸し惑星間空間にやってくる物質はイオの大気から直接来るものである。これらの物質は、その電離状態や組成に依存するが、最終的に様々な中性物質の雲や木星磁気圏内の放射線帯に到達し、場合によってはその後木星系から放出されることもある。 表面からイオ半径の6倍程度の距離までに広がりイオを取り囲んでいるのは、中性の硫黄、酸素、ナトリウム、カリウム原子の雲である。これらの粒子はイオの高層大気に起源を持ち、プラズマガストーラス中のイオンとの衝突によって励起され、その他の過程によってイオのヒル球 (イオの重力が木星の重力を上回る領域) を満たしている。この物質の一部はイオの重力を振り切って木星を周回する軌道に入る。20時間かけてこれらの粒子はイオから拡散してバナナ型の中性雲を形成し、この構造はイオの軌道の内側ではイオの前方に向かって、イオの軌道の外側ではイオの後方に向かって、木星半径の6倍の距離にまで広がる。これらの粒子を励起する衝突過程は、時々プラズマトーラス中のナトリウムイオンに電子を供給して再結合し、これによって生成された新しい高速の中性粒子はトーラスから除去される。これらの粒子は 70 km/s 程度の速度を得て (イオの軌道速度は 17 km/s である)、イオから遠ざかるジェットとして放出される。 イオは、イオプラズマトーラスとして知られる強い放射線帯の中を公転している。この電離した硫黄、酸素、ナトリウム、塩素のドーナツ型の環にあるプラズマは、イオを取り囲む「雲」の中にある中性原子が電離され木星の磁気圏によって運ばれる際に発生する。中性の雲の中にある粒子とは異なり、これらの粒子は木星の磁気圏と共回転し、木星の周りを 74 km/s で公転する。木星磁場の他の部分と同様にプラズマトーラスは木星の赤道面 (そしてイオの軌道面) に対して傾いているため、イオはある時はプラズマトーラスの中心より上にあり、ある時は下にある。先述の通りこれらのイオンは高速で高エネルギーであるため、イオの大気や広がった中性雲から中性原子や分子を除去する働きがある。 トーラスは3つの区分から成り立っている。1つ目はイオの軌道のすぐ外側にある「温かい」トーラスである。2つ目は「リボン」として知られる垂直方向に広がった領域で、木星からイオまでの距離に位置しており、中性物質の起源と冷却するプラズマからなる。3つ目は「冷たい」トーラスで、木星へ向かって徐々にらせん状に落下していく粒子からなる。「温かい」トーラス内の粒子はトーラス内に平均で40日とどまった後に脱出し、木星の異常に大きい磁気圏の部分的な原因となり、外向きの圧力で磁気圏を内部から膨張させている。イオからの粒子は磁気圏プラズマの変動として検出され、これはニュー・ホライズンズによって非常に長い磁気圏尾として検出された。プラズマトーラス内の同じような変動を研究するためには、それが放射する紫外線を測定するという方法もある。このような変動は、プラズマトーラス内の物質の究極的な源であるイオの火山活動とは明確には結び付いていないものの、中性ナトリウムの雲を介して関連している。 探査機ユリシーズが1992年に木星に接近した際、木星系から放出されるダストサイズの粒子の流れを検出している。離散した流れの中にあるダストは数百 km/s 以上の速度で木星から遠ざかっており、粒径の平均は 10 µm で、塩化ナトリウムが主成分であった。ガリレオ探査機によるダストの測定では、これらのダストの流れはイオが起源であることが示されたが、どのように形成されたのか、イオの火山活動が起源なのかあるいは表面から除去された物質が起源なのかについては明らかになっていない。 イオを横切っている木星の磁力線は磁束管として知られる電流を生み出して、イオの大気および中性雲と、木星の極域の高層大気を結合している。この電流は、"Io footprint" (イオの足跡) として知られている木星の極域でのオーロラ発光や、イオの大気でのオーロラを生み出している。このオーロラ相互作用による粒子は可視光の波長で木星の極域を暗く見せる。地球と木星に対するイオとそのオーロラの足跡の位置は、地球から見たときの木星電波放射に強い影響を与える。イオが見えている時は、木星からの電波は大幅に増加する。現在木星を公転する軌道に入るジュノーは、この過程を明らかにする観測を行っている。イオの電離圏を横切らなかった木星の磁力線も電流を誘導し、イオの内部に誘導磁場を生成する。イオの誘導磁場は、表面から 50 km 下にある部分的に溶融した珪酸塩マグマの中で発生すると考えられている。同様の誘導磁場はガリレオ探査機によって他のガリレオ衛星にも発見されており、これらの衛星内部の液体の水の海で発生している。
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