有機合成とノーベル賞
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「ロバート・バーンズ・ウッドワード」の記事における「有機合成とノーベル賞」の解説
1940年代後半の間、ウッドワードはキニーネ、コレステロール、コルチゾン、ストリキニーネ、リゼルグ酸、レセルピン、クロロフィル、セファロスポリン、コルヒチンなど多くの複雑な天然物を合成した。これらによって、ウッドワードは、物理有機化学の法則を注意深く応用し細心の計画を立てることにより天然物を合成することが出来ることを示し、ウッドワードの時代 (Woodwardian era) とも呼ばれることのある合成の新時代の扉を開いた。 ウッドワードによる合成の多くは彼の仲間達から驚異的であると称えられた。彼が合成するまで、それらの天然物のを実験室で実際に作り上げることは不可能であろうと考えられていた。ウッドワードの合成はまた、芸術的な要素を有していると表現され、その後の合成化学者は利便性と共に常に美しさを合成の中に追い求めている。彼の仕事はまた、当時新たに開発された赤外分光法や、後には核磁気共鳴 (NMR) 分光法の技術の徹底的な使用を含んでいる。ウッドワードの合成におけるもう一つの重要な特徴は、立体化学や三次元空間における分子の特定の配置に対する注目である。医学的に重要なほとんどの天然物(医薬品)は、それが特定の立体化学を持つときにのみ効果を示す。これによって、特定の立体化学を有する化合物を作り出す「立体特異的合成」に対する要求が生まれた。今日では典型的な合成経路は立体特異的合成をごく普通に含むが、ウッドワードは立体特異的な反応が緻密かつ合理的な計画によって実行できることを示したパイオニアである。彼の合成の多くは化合物中に構造を固定する要素を導入するこおによって特定の配置を分子に取らせる戦略を含んでおり、今日の標準的な戦略となっている。この点において、特にウッドワードによるレセルピンとストリキニーネの合成は大きな進歩である。 第二次世界大戦の間、ウッドワードは軍需生産委員会 (War Production Board) のペニシリンプロジェクトのアドバイザーを務めていた。しばしばペニシリンのβ-ラクタム構造を提唱した功績を認められているが、実際は最初に提唱したのはメルク社とオックスフォード大学の化学者達であり、続いても他のグループ (Shellなど) によって研究された。ウッドワードは最初、Peoriaのペニシリングループによる間違った三環性構造(チアゾリジンが縮環しアミノ架橋したオキサジノン)を支持していた。後に、ウッドワードはβラクタム構造を認めた。このチアゾリジン-オキサゾロン構造と異なっている構造はロバート・ロビンソンによって提唱された。ロビンソンは彼の世代の有機化学者を牽引していった。最終的に、β-ラクタム構造は、1945年にドロシー・ホジキンによってX線回折法を利用して正しいことが明らかにされた。 ウッドワードはまた、赤外分光法と化学分解の技術を複雑な分子の構造決定に応用した。それらの構造決定の中でも特筆すべきなのがサントン酸 (santonic acid)、ストリキニーネ、マグナマイシン、テトラサイクリンの構造決定である。テトラサイクリンに関して、ウッドワードの同僚とノーベル賞受賞者デレック・バートンは次にように述べている。 構造決定のパズルにおいてこれまで行われた中で最も輝かしい解析は、疑いなくテラマイシン(テトラサイクリン)問題の解決(1953年)である。この問題には大きな産業的重要性があったため、多くの優れた化学者が構造決定のために膨大な量の研究を行っていた。この問題を解決するのに過剰なデータがあると思えた。何故なら、かなりの数の実験結果が、実験的に正しいにもかかわらず、非常に誤解を与えるものであったためである。ウッドワードは、大きなボール紙を取りそれに全ての実験事実を書き、思考のみによって、テラマイシンの正しい構造を推定した。当時、他の誰もそれは不可能であった。 それらの一つ一つの場合において、ウッドワードは化学的直感によって融合された合理的な事実と化学的な原則が、いかに課題を達成するために用いることができるかを再び示した。 1950年代前半、ウッドワードは、後にハーバードに来ることになるイギリスの化学者ジェフリー・ウィルキンソンと共に、有機分子と鉄によって構成された化合物であるフェロセンの新しい構造を仮定した。これによって、工業的に非常に重要な分野へと成長する有機金属化学分野の始まりが記された。この業績によって、ウィルキンソンは、エルンスト・オットー・フィッシャーと共に1963年のノーベル化学賞を受賞している。ある歴史家達は[誰?]、ウッドワードがこの業績によってウィルキンソンと共にノーベル賞を受賞すべきであると考えている。珍しいことに、ウッドワード自身もそう考えており、ノーベル委員会に手紙で彼の考えを表明している。 ウッドワードは、有機合成法への貢献によって1965年のノーベル化学賞を受賞した。受賞講演で、ウッドワードは抗生物質セファロスポリンの全合成について述べ、ノーベル賞のセレモニーまでに合成が完了するように合成スケジュールを無理に進めたのだとした。
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