月に賭ける
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/06/29 09:19 UTC 版)
ナビゲーションに移動 検索に移動『月に賭ける』(原題: Venture to the Moon)はアーサー・C・クラークの6篇のSF短編小説シリーズ。それぞれの話はどれも米ソ英による共同有人月探査ミッションについて書かれている。1956年にロンドンのイヴニング・スタンダードに掲載された。クラーク短編集「天の向こう側」に収録されている。
あらすじ
- スタート・ライン
- The Starting Line
- 人類初となる有人月探査ミッションは米ソ英による共同ミッションとなった。地球軌道上で3カ国のロケットが組み立てられ、同時に出発することになっていたが、英国隊の隊長である「私」にある内々の指示が届く。それは予定時刻よりも1周分早く出発し、他国より先に月に降り立て、というものだった。
- ロビンフッド教授
- Robin Hood FRS
- 無事月に降り立ったメンバー達。しかし地球からの無人補給機が登頂不可能な丘の上に着陸してしまい、何とかして登山用ロープを頂上まで届けなければならない。幸いなことに、隊員の1人であるロビンフッド教授はアーチェリーの名手だった。
- みどりの指
- Green Fingers
- ソ連の植物学者が単独行動で何かを行っている姿が度々目撃されていた。ある日その学者が行方不明になり、帰還信号にも応答しない事態が発生する。探索隊が彼の死体を発見するが、同時にある物も発見する。
- 輝くものすべて
- All that Glitters
- ある地球物理学者が月面で大きなダイヤモンドを発見し、嬉々として基地に帰還する。帰還して早々に彼の研究が成功したという地球からの報告書を手渡される。手渡した隊員は彼が2重に喜ぶと思っていたのに、何故か彼は落胆してしまう。
- この空間を見よ
- Watch this Space
- 月の上層大気を研究するため、ナトリウムを射出することになった。太陽の光を浴びるとナトリウムが輝き出すが、そこにはある文字が映し出されていた。
- 移住期間の問題
- A Question of Residence
- 地球へ帰還することになったが、ソ連の宇宙船が故障してしまう。協議の結果、修理を諦めロシア人は米英の船で帰還すること、米英のどちらかが先に出発すること、が決まった。先に帰還した者がより大きな栄誉を手にすることは明らかだったが、「私」は何故か月に残ることを自ら申し出た。
経緯
『書誌学的な注釈』によると、クラークは当初、イヴニング・スタンダードの依頼を断っている。たった1500語で異質な環境を舞台にした物語を一般読者にも理解できるように書くことは不可能に思えたからだという。しかし後に興味深い挑戦だと考え直し、結局は依頼を引き受けた。このシリーズは好評だったようで、翌年の1957年には再び『天の向こう側』という6篇のSF短編をイヴニング・スタンダードに連載している。
参考文献
- アーサー・C・クラーク『天の向こう側』山高昭訳、早川書房、2007年。ISBN 978-4150115999。
月に賭ける
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/04/22 00:14 UTC 版)
月に向けて出発することになった、アメリカ、イギリス、ソビエトの各探検隊の出来事を、次に挙げる6編のオムニバス形式にしたもの。 「スタート・ライン」 3隻の宇宙船は、宇宙ステーション3号の軌道上で組み立てられた。試験飛行と発進演習も行い、燃料も積み込まれた。発進時間も厳密に決められていた。ステーションを発進して地球を2度回ってからである。イギリス隊に極めて地位の高い人物から緊急電話があった。地球を1度だけ回ったとき、電話の指示に従ったイギリスの宇宙船がロケットを点火した。地球の影から出たときに後ろを見ると、他の2隻もついてきている。みんながフライング・スタートをしたのだ。宇宙空間では、余分な加速をすれば減速にも燃料を消費する。それは帰還できないことにつながる。そのままの状態で航行した3隻は、ほとんど同時に月面に着陸した。 「ロビンフッド教授」 最初の補給ロケットは無事に到着した。だが2隻目の補給ロケットは、自動操縦で高さ500フィートの平らな山頂に着陸してしまった。断崖を人間が登ることはできず、月の長い夜が迫ってきていた。月面スポーツとして特殊なアーチェリーを考案したイギリス隊の天文学者が、山頂にむけて矢を放ってみたが、月の低重力の中でも届かなかった。そこで4本の矢をロープでつなぎ、1本目が飛んでいるうちに2本目を放ち、さらに次の矢を放ってみた。ロープは山頂まで届き、無事に補給物資を降ろすことができた。やがてその山は、月面図に「シャーウッドの森」と記されることになった。 「みどりの指」 ソビエト隊のスーロフ隊員が、1人で行動している姿がイギリス隊に目撃された。事故のときの対応のため、2人以上で行動することが決められているのに。植物学者のスーロフは、その後も1人で行動している姿をたびたび目撃された。ある日、ソビエト隊の隊長からスーロフが行方不明になったので捜索に協力してほしいとの連絡がきた。イギリス隊は彼が目撃されていた方向を探した。スーロフは宇宙服のヘルメット前面が割れた状態で発見された。もちろん死亡していた。死体の近くには、厚い皮でおおわれた植物があった。彼は植物学者として、北極でも育つ小麦をつくりあげたが、月面でも生育できる植物を研究していたのだ。そして植物が繁殖するために、小石のような種子を飛ばすところに遭遇し、ヘルメットを割られたのだ。その植物は「スーロフのサボテン」と呼ばれるようになった。 「輝くものすべて」 アメリカ隊のペインター博士は、妻から逃げるために月面に来たと噂されていた。彼女は浪費家で、特にダイアモンドに執着していた。ペインターは地球上でも、別の研究を平行して進めているらしく、共同研究者と頻繁に通信を行っていた。ある日、探検に出かけていた彼のグループは、とんでもないものを発見し意気揚々と帰ってきた。それはダイアモンドの原石で、今まで知られているダイアモンドの中では、少なくとも2番目の大きさだった。彼が帰着する前に、地球から届いていた電文を隊長が手渡した。それにはこう書かれていた。「実験は大成功。大きさの制限なし。費用はわずか」。ペインターは人工ダイアモンドの製造を研究していたのだ。彼が言った。「これは昨日までなら、100万ドルの価値があった。今日からは数百ドルの価値しかない」。彼が持ち帰ったこのダイアモンドは、妻のアクセサリーになったが、それは3ケ月のあいだだけだった。ペインター製法によるダイアモンドが市場に出回ると、妻は精神的虐待を理由に離婚した。 「この空間を見よ」 アメリカ隊が、地球からも観測できる実験を行った。それは月面の上空にナトリウム原子を放出し、太陽光線をあてて発光させるというものだった。補給ロケットで届けられた通称「ナトリウム爆弾」は、高熱で気化されたナトリウム蒸気を、特殊なノズルを通して上空に噴出し、上昇していくあいだに日光を浴びて輝かせる、というシステムだった。月面での日没直後に実験は行われることになり、3つの探検隊のあらゆる観測装置はもちろんのこと、地球上のほとんどの望遠鏡もむけられた。点火回路のスイッチが入れられ、爆弾の内部圧力は上がっていった。突然、ノズルからナトリウム蒸気が吹きだして上昇していく。太陽光線が当たった瞬間、それは黄色に輝きだした。口径5センチの望遠鏡でも見られるその光は、世界中が知っている飲料の広告だった。AやC、LやOで書かれた文字。ノズルに加工した地球の技師はくびになったが、彼の老後の生活まで飲料メーカーによって保証されていた。 「居住期間の問題」 3つのチームによる探検は、大成功だった。5ヶ月間の活動での死者はソビエト隊のスーロフだけでその死因もわかっていた。だが月面のあちこちに置かれた装置はまだ計測を続けていて、そのデータを地球に自動送信することはできなかった。そのため1チームが残る必要があった。そんな中、ソビエトの宇宙船が事故で使えなくなった。隊員たちはアメリカとイギリスの宇宙船に便乗して帰還することになった。イギリス隊の1人の教授が隊長に話をした。隊長もその話に同意して、遅く帰還することにした。アメリカの宇宙船が出発してから1ヶ月後、イギリス隊も2人のソビエト隊員を乗せて帰還した。彼らは宇宙で7ヶ月間も過ごしていた。会計年度の半分以上の期間、イギリスにいなかった隊員たちは税法の恩恵を受けた。
※この「月に賭ける」の解説は、「天の向こう側」の解説の一部です。
「月に賭ける」を含む「天の向こう側」の記事については、「天の向こう側」の概要を参照ください。
- 月に賭けるのページへのリンク