微粒子キャリア
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/08/07 14:08 UTC 版)
微粒子キャリアには脂質ナノ粒子(lipid nanoparticle、LNP)と高分子マトリクス微粒子がある。LNPにはリポソーム、リピッドマイクロスウェア、高分子ミセルが知られている。 リポソーム 1964年にBanghamはレシチン(卵黄ホスファジルコリン)の懸濁液を電子顕微鏡で観察し、ラメラ構造の二分子膜からなる小胞の形成を見出した。後にその小胞はリポソームと呼ばれるようになった。脂質分子は極性基と疎水性基からなる両親媒性物質で、水中では安定な二重膜構造をとりリポソームを形成する。リポソームは脂溶性薬物を膜内の疎水性部分に、水溶性薬物を内水相に包含できるためDDSキャリアとして有用である。リポソームは小さな一枚膜リポソーム(SUV)、大きな一枚膜リポソーム(LUV)、巨大な一枚膜リポソーム(GUV)多重層リポソーム(MLV)が知られている。調整法や調整に用いる脂質を選択することで粒子径、表面荷電、硬さなどを調節することができ、安定性や臓器への分布を制御することができる。リポソームの改善法としてステルス化(PEGリポゾーム)、トランスフェリンや糖鎖の修飾などが知られている。リポソーム製剤としては抗真菌薬のアムビゾーム(リポソームアムホテリシンB)やカポジ肉腫治療薬のドキシルなどが知られている。アムホテリシンBをデオキシコール酸で懸濁させた注射薬のファンギゾンが、深在性真菌症治療薬として使用されてきたが副作用のため十分な投与量、投与期間が確保できなかった。アムビゾームはアムホテリシンBとコレステロール複合体がリポソーム膜に組み込まれた構造をしており、その平均粒子径が100nmと小さいため網内系細胞に取り込まれにくい。血中でリポソーム構造を維持したまま安定に存在し、正常組織においては血管から漏出しにくいのに対して、感染部位においては血管透過性の亢進によりリポソームが漏出し存在する真菌に特異的に作用し抗真菌活性を示す。2017年現在はがんのターゲティングに好適な100nm程度の粒径ならばリポソームでも作成することができるがそれよりも小さな粒径の場合は高分子ミセルでなければ作成することができない。 リピッドマイクロスフェア 高カロリー輸液に用いられる脂肪乳剤は精製大豆油を高度精製卵黄レシチンで乳化した脂肪微粒子(Lipid microsphere、リピッドマイクロスフェア)から成り立っている。脂肪乳剤は臨床においてはイントラリポス、イントラファット等の名で使用され、安全性や安定性は十分に確立されている。脂肪性の薬物をこの脂肪微粒子に溶解させ、これをキャリアとして薬物の安定化や病巣へのターゲティングを狙ったものをリポ剤とよぶ。リポ剤の例としては関節リウマチ治療薬のデキサメサゾンパルミコート(リメタゾン)、NSAIDsのフルルビプロフェンアキセチル(ロピオン、リップフェン)、慢性動脈閉塞症の治療薬のアルプロスタジル(パルクス、リプル)、静脈麻酔薬のプロポフォール(ディプリバン)などが知られている。 高分子ミセル 高分子ミセルは高分子から成るミセル構造のことである。高分子ミセルを薬物キャリアとしての研究は1980年代に始まったものでリポゾームなどの他のキャリアに比べると新しい部類になる。代表的な構成は親水性の鎖(A鎖)と疎水性の鎖(B鎖)からなるブロックコポリマーが、B鎖の部分を内核として数十~数百個の高分子が会合して形成する構造で内核に疎水性の薬物を内包する。B鎖としては疎水性鎖以外にも、鎖間に相互作用を生じる種類の高分子を用いることも可能である。例えば、イオン相互作用を生じる荷電性高分子鎖である。水溶性のA鎖としてはポリエチレングリコール(PEG)が用いられることが多い。最も標準的な構造は疎水性の低分子薬物を内包する球状ミセルである。リポソームでは水相に親水性の低分子薬物を内包することができるが標準的な高分子ミセルでは親水性薬物の封入が困難であるなど高分子ミセルとリポソームではいくつかの違いがある。高分子ミセルは疎水性薬物に対して大きな内包量をもつこと、10~100nmの小さな粒径が得られること、薬物放出速度の広い範囲での制御が可能なことなどはリポソームと比べて遊離な点である。しかし親水性薬物の封入が困難なこと、薬物封入法が未発達なこと、比較的に高度な高分子設計・合成が必要なことなどはリポソームより不利な点である。 核酸医薬など親水性の高分子はPICミセルなど特殊なミセルを用いる。天然高分子と異なり化学合成した高分子には分子量にばらつきがあり分子量分布があるという。分子量は平均分子量で表現される。
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微粒子キャリア
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/01 06:43 UTC 版)
微粒子キャリアには脂質ナノ粒子(lipid nanoparticle、LNP)と高分子マトリクス微粒子がある。LNPにはリポソーム、リピッドマイクロスウェア、高分子ミセルが知られている。 リポソーム 1964年にBanghamはレシチン(卵黄ホスファジルコリン)の懸濁液を電子顕微鏡で観察し、ラメラ構造の二分子膜からなる小胞の形成を見出した。後にその小胞はリポソームと呼ばれるようになった。脂質分子は極性基と疎水性基からなる両親媒性物質で、水中では安定な二重膜構造をとりリポソームを形成する。リポソームは脂溶性薬物を膜内の疎水性部分に、水溶性薬物を内水相に包含できるためDDSキャリアとして有用である。リポソームは小さな一枚膜リポソーム(SUV)、大きな一枚膜リポソーム(LUV)、巨大な一枚膜リポソーム(GUV)多重層リポソーム(MLV)が知られている。調整法や調整に用いる脂質を選択することで粒子径、表面荷電、硬さなどを調節することができ、安定性や臓器への分布を制御することができる。リポソームの改善法としてステルス化(PEGリポゾーム)、トランスフェリンや糖鎖の修飾などが知られている。リポソーム製剤としては抗真菌薬のアムビゾーム(リポソームアムホテリシンB)やカポジ肉腫治療薬のドキシルなどが知られている。アムホテリシンBをデオキシコール酸で懸濁させた注射薬のファンギゾンが、深在性真菌症治療薬として使用されてきたが副作用のため十分な投与量、投与期間が確保できなかった。アムビゾームはアムホテリシンBとコレステロール複合体がリポソーム膜に組み込まれた構造をしており、その平均粒子径が100nmと小さいため網内系細胞に取り込まれにくい。血中でリポソーム構造を維持したまま安定に存在し、正常組織においては血管から漏出しにくいのに対して、感染部位においては血管透過性の亢進によりリポソームが漏出し存在する真菌に特異的に作用し抗真菌活性を示す。2017年現在はがんのターゲティングに好適な100nm程度の粒径ならばリポソームでも作成することができるがそれよりも小さな粒径の場合は高分子ミセルでなければ作成することができない。 リピッドマイクロスフェア 高カロリー輸液に用いられる脂肪乳剤は精製大豆油を高度精製卵黄レシチンで乳化した脂肪微粒子(Lipid microsphere、リピッドマイクロスフェア)から成り立っている。脂肪乳剤は臨床においてはイントラリポス、イントラファット等の名で使用され、安全性や安定性は十分に確立されている。脂肪性の薬物をこの脂肪微粒子に溶解させ、これをキャリアとして薬物の安定化や病巣へのターゲティングを狙ったものをリポ剤とよぶ。リポ剤の例としては関節リウマチ治療薬のデキサメサゾンパルミコート(リメタゾン)、NSAIDsのフルルビプロフェンアキセチル(ロピオン、リップフェン)、慢性動脈閉塞症の治療薬のアルプロスタジル(パルクス、リプル)、静脈麻酔薬のプロポフォール(ディプリバン)などが知られている。 高分子ミセル 高分子ミセルは高分子から成るミセル構造のことである。高分子ミセルを薬物キャリアとしての研究は1980年代に始まったものでリポゾームなどの他のキャリアに比べると新しい部類になる。代表的な構成は親水性の鎖(A鎖)と疎水性の鎖(B鎖)からなるブロックコポリマーが、B鎖の部分を内核として数十~数百個の高分子が会合して形成する構造で内核に疎水性の薬物を内包する。B鎖としては疎水性鎖以外にも、鎖間に相互作用を生じる種類の高分子を用いることも可能である。例えば、イオン相互作用を生じる荷電性高分子鎖である。水溶性のA鎖としてはポリエチレングリコール(PEG)が用いられることが多い。最も標準的な構造は疎水性の低分子薬物を内包する球状ミセルである。リポソームでは水相に親水性の低分子薬物を内包することができるが標準的な高分子ミセルでは親水性薬物の封入が困難であるなど高分子ミセルとリポソームではいくつかの違いがある。高分子ミセルは疎水性薬物に対して大きな内包量をもつこと、10~100nmの小さな粒径が得られること、薬物放出速度の広い範囲での制御が可能なことなどはリポソームと比べて遊離な点である。しかし親水性薬物の封入が困難なこと、薬物封入法が未発達なこと、比較的に高度な高分子設計・合成が必要なことなどはリポソームより不利な点である。 核酸医薬など親水性の高分子はPICミセルなど特殊なミセルを用いる。天然高分子と異なり化学合成した高分子には分子量にばらつきがあり分子量分布があるという。分子量は平均分子量で表現される。
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