DDS技術の利用
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/27 15:09 UTC 版)
アンチセンスDNAを単独で血中に投与した場合、血中に存在する分解酵素によるアンチセンスDNAの分解、腎臓からの排出、およびアンチセンスDNA自体が水溶性アニオン性高分子であるため細胞透過性が低いことなどから標的組織・細胞内に到達できず治療効果が得られない。siRNAを利用したRNA干渉はアンチセンス法に比べて標的mRNAを切断する効率が高く、低濃度で効果が得られ、また配列を比較的容易に選択できる。しかしsiRNAも標的組織・細胞内にデリバリーされて効果を発揮する点ではアンチセンスDNAと同様であり、効率的なデリバリーシステムと組み合わせることが重要である。 効率的なキャリアを設計するうえで重要なことは、生体組織との非特異的な相互作用を極力小さくすることである。一般に細胞表面や血清蛋白質などの生体組織はアニオン性であることからカチオン性のキャリアは強い組織吸着性を示し血中投与に適していない。また、キャリアの大きさを把握することも非常に重要である。5nm未満のようにキャリアが小さすぎると腎臓で濾過作用を受けて尿として体外に排出されてしまい、100nm程度より大きいと肝臓や肺などに存在する貪食細胞によって認識されやすく排除されてしまう。固形がん組織では正常組織と比べて新生血管の増生と血管壁の著しい透過性の亢進があることから数十nmサイズのキャリアが固形がん組織に集積しやすいことが知られEPR効果(enhanced permeation and retention effect)といわれる。 核酸医薬をデリバリ-する微粒子キャリアにはリポプレックス、ポリプレックス、リポポリプレックスといった微粒子キャリアが知られている。どのキャリアでも以下のような機能が付加されていることが多い。 PEG化 血中滞留性や安定性の向上のために外殻または表層にPEGを用いることが多い。PEG化によって血液成分との非特異的な相互作用が低下する一方で、標的細胞への侵入効率も低下してしまう。これをPEGのジレンマという。PEGのジレンマの解決のためにPEGの先端にリガンドを導入することもある。 表面電荷の調整 バイオアベイラビリティや安全性を考慮して表面電荷を調整することができる。細胞表面は負に帯電しているため細胞表面へのアクセスを狙ってカチオン性のDDS技術がよく用いられてきた。しかし電荷を中性の非カチオン生にすることで生体内の非特異的な吸着を防いだり毒性を低減したりすることもできる。 表層リガンド 標的指向性を高めるために表層にリガンドの導入が可能である。核酸医薬そのものにコンジェゲートさせる場合と比較して、表層に導入するリガンド量(またはリガンド率)の調整ができることから、標的との親和性を調整できることが可能である。細胞表面の受容体に対するリガンド分子や抗体分子をキャリア表面に連結し、受容体介在型エンドサイトーシスによって目的細胞への取り込みを促進することができる。 細胞内動態制御 細胞に内在化してから細胞内に放出されるまでの動態を制御することができる。例えばエンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれた後に、リサイクリング経路によって細胞外へ排出されたり、分解経路によって失効してしまうのを防ぐべく、エンドソーム内ではpHが低下して還元環境となる性質を利用して、封入した核酸医薬を放出したりエンドソームからの脱出を狙ったりするためのシステムを搭載できる。
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