小説『白旗の少女』
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挿絵は依光隆が担当、その他に写真も多く収録されている。 冒頭は、主人公がニューヨークで平和行進に参加するところから始まる。そこで彼女は写真家を捜し始めた。その後写真家と面会するところから回想に入る。 彼女は首里で生まれ、平和に暮らしていた。そこでは沖縄の伝統を強く残した生活のことが語られている。その中で1944年(昭和19年)、母が亡くなる。1945年(昭和20年)にはいよいよ沖縄に戦線が近づく。その4月1日、沖縄本島中部にアメリカ軍が艦砲射撃を加え、それと思われる音は首里にまで響いた。それから1か月すると、家の周辺にも砲弾がくるようになり、防空壕へ避難することが多くなった。5月10日ころ、父親が「何かあったら子供たちで判断して行動するように」と言い残して家を出て、これが父との別離になった。 それから3日待って、通信隊へ父の安否を尋ねると、「それより早く南へ避難するよう」と言われ、兄弟姉妹4名(姉17歳、姉13歳、兄9歳、本人6歳11か月)は荷物をまとめて家を出た。昼間は洞穴などに身を隠し、夜間に歩いた。まずは父の消息を尋ねて真壁に行くがやはり不明で、それ以降は当てもなくとにかく南へ移動する。そのさなか、米須で一緒にいた兄が流れ弾に当たって死亡、さらに南へ移動するさなか、主人公は姉たちとはぐれてしまう。それから彼女は1人で避難行を続けることになる。 夜道を逃亡する際、姉2人とはぐれてしまい、たった1人になった彼女には頼りになるものはなにもない。記憶に残っている肉親の言葉をたよりに戦場をさまよう。必要なものは水や食料の他、肉親の愛情である。ひとりでガマに入っていこうとしても追い払われてしまう。子供は大きな声を出したりするため、敵兵に狙われてしまうからだ。 彼女は父の言っていたことをいろいろと思い出しながら行動している。「人間というものは、死ぬ運命にあるときは、どこにいても死ぬものだ。生きるときは、どんな危険にさらされても、生きるものだ」という言葉を思い出すと、砲弾や銃弾を避けるため、必死に洞穴を探すことをやめて平気で外を歩き回ったりする。ガマからガマへ「ネエネエ(お姉さんいる?)」と声をかけて回る。そのため「ヤナ、ウーマク、イナグワラビ(わるくて、きかんぼうの女の子)」という評判が立った。住民の敵はアメリカ軍だけでなく、日本軍も敵と言ってもよい存在であった。日本兵は沖縄の人々を守ってはくれなかった。彼女は日本兵に軍刀で斬りつけられようとさえした。死んだ日本兵はなんども目にし怖くはなかったが、生きている日本兵は恐ろしい存在だった。 動物に教えられたことも何度かある。蟻が行列を作っている場面に出くわすとその先に何かがあるのかを感じる。見届けようと先に進むと、日本兵が倒れていて背負っている雑のうに蟻が群がっている。雑のうの中に金平糖を見つける。缶詰を見つけたときは開け方を知らないままに石や木の枝で中身を取り出したりしている。小さな芋を抱えたネズミからその芋をもらったこともある。砲弾に怯えたウサギを見つけると、親しかった兄の身代わりとして「ニイニイ」と名前を付けてしばらくともに過ごす。彼女は愛情に飢えていたのだ。 そうして彼女は多くの戦死者、自殺する兵隊や集団自決する住民などを目にしながらさまよい、あるガマでは日本兵に殺されかける。一人きりでの移動が1か月ほどになったとき、とあるガマに入ったところ、そこには老夫婦がこもっていた。その老人は両手両足がなく、目の不自由な老婆に身の回りの世話をさせ、その洞窟で暮らしていた。彼らは彼女を優しく受け入れ、彼女はここで初めてその身を休めることが出来た。その外では、戦闘が刻一刻と激しくなっていた。彼女は老夫婦にここで一緒に暮らして、一緒に死にたいと言ったが、それに対して、命の大切さや生き延びることの価値を説かれる。数日後、洞窟の外からアメリカ軍の呼びかけが聞こえた。これから爆弾を投げ込むから、その前に投降することを呼びかけるものだった。老人は老婆へ指示し、自分のふんどしで白旗を作らせ、その旗を彼女に持たせた。そして「世界中の約束だから、これを持ってれば大丈夫だ」と言い聞かせ、自分たちを残して1人で投降するよう促した。 彼女はほかの住民に混じって進んだ。1人の米兵が何かを構え、こっちをねらうようにしているのを見て、カメラのようだが、武器かも知れないと思いながら、かつての父に言われた言葉を思い出し、顔を上げ、笑顔を見せた。彼女はほかの避難者と一緒になり、そこで2人の姉に再会した。1945年6月25日のことだった。
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