定義・病因
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/16 18:12 UTC 版)
「精神障害の診断と統計マニュアル」の記事における「定義・病因」の解説
1970年代、100年経っても病因が不明なため、精神病は医学的な疾患と異なると見なされ、精神病の存在自体が議論されていた。 1998年、ミシガン大学のエリオット・ヴァレンスタイン名誉教授は、精神障害の生化学的、解剖学的、機能的な指標が発見されているという主張について、過去から現在の研究例を交え、実際には証明されていないと説明している。また、精神障害の主な原因について、心理社会的要因と生物学的要因が精神保健の専門職の意見を二分しており、一方が優勢になると他方が盛り返し、交互に優勢になることが繰り返されてきたと述べている。 2000年、ニューヨーク州立大学のトーマス・サズ(英語版)名誉教授は、疾患(disease)の病理学的定義を身体の病変(物質的異常)と説明し、脳は身体器官なので疾患になり得るが、精神は身体器官ではないため、比喩的な意味を除いて疾患にはなり得ないと述べている。精神的病気は行動科学上の存在であって病理学上の存在ではなく、精神的病気の有無を証明できる客観的検査もないと指摘している。また、客観的検査によって証明された場合は精神的病気から身体疾患に再分類されると指摘し、実例として、「神経梅毒」「脳損傷」「中毒症」「感染症」「てんかん」を挙げている。 2002年、アメリカ精神医学会はDSM-Vに向けて『DSM-V研究行動計画』を出版した。同書は、DSM-III以降の「精神障害の定義」について、精神障害と正常を画定できず、実用的ではないと評している。また、精神障害の検査指標の候補提案は多数あるが、発見された指標は一つもないと説明している。 2005年、日本においては、精神障害の診断に光トポグラフィーで神経科学的な客観的根拠を持たせようとする研究がある。ただし、現在の神経科学等では、脳内の物理現象がどのように精神障害として具現化するのか因果関係が未だはっきりしない点も残っている。 2010年、京都府立医科大学大学院の中前貴(医学博士)は、精神障害の病因について、生物学的、心理学的、社会学的要素に対し理論中立的な立場を取る「生物心理社会モデル(英語版)」が現在の精神医学における中心的モデルであり、1970年代に体系的に発展し、DSM-IIIに導入されたと述べている。DSMでは多軸評定によって生物心理社会的アプローチを提供している。 2010年、DSM-IVのアレン・フランセス編集委員長は、WIRED英語版で、「精神障害の定義は存在しません。でたらめです。つまり、定義などできないということです」などと発言している。 2011年、『ネイチャー』誌の論説は、精神障害の客観的指標(生物学的指標)に関する主張は多数あるが、脳波、fMRI、光トポグラフィ等のいずれも追試による再現性が低いと指摘している。 2012年、DSM-IVのアレン・フランセス編纂委員長は「残念なことに、精神医学における生物学的検査というのは未だにありません。…現在のところ、症状記述に頼るしかありません」と述べている。また、DSMの改訂後に定義が拡大解釈されたことについて、「米国では数多くの勢力が(DSMの)変更点を丹念に研究しながら、どのようにしたら自分たちが考えている特定の目的に合わせて曲解できるかと待ちかまえているのです」と述べている。 2013年、DSM-5のデヴィッド・クッファー編纂委員長は、精神障害の生物学的、遺伝学的な指標の同定には程遠いと述べている。 2013年、国立精神・神経医療研究センターの樋口輝彦理事長・総長は、精神障害の原因について、「ほとんどわかっていないのが現実です」と述べている。 2014年、日本精神神経学会の岩田仲生理事は、精神障害の生物学的研究について、「精神医学研究にみるべきものはない,そもそもレベルが低い,報告される内容も真理とかけ離れており再現性も乏しい,研究費を投入するだけ無駄ではないか〔ママ〕」といった指摘は概ね事実だが、進歩には研究が欠かせないと述べている。
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