合成反応への応用
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/08/03 23:42 UTC 版)
閉環メタセシスは歴史的に、数え切れないほど多くの有機合成において用いられてきており、今日も様々な化合物の合成に使用され続けている。以下の例はRCMの多くの可能性がある幅広い有用性のわずかな見本である。その他の例は多くの総説が出版されているため、それらを参照されたい。 閉環メタセシスは全合成において重要である。一つの例は、天然に存在するシクロファンであるフロレソリド(floresolide)の合成における12員環の形成でのRCMの使用である。フロレソリドBはApidium属のホヤから単離され、KB腫瘍細胞株に対して細胞毒性を示す。2005年、K・C・ニコラウらは、第二世代グラブス触媒を使用した合成終盤での閉環メタセシスによって、89%の収率でEおよびZ型異性体の混合物(E/Z = 1:3)を得て、両異性体の合成を完了した。一つのプロキラル中心が存在するものの、生成物はラセミ体である。フロレソリドは、(遷移状態における立体的制約によって)カルボニル基の後側ではなく前側を通って新たな環が形成されるため、回転異性体(英語版)である。カルボニル基は次にこの環を決まった位置に永久に固定する。E/Z異性体は次に分離され、最終段階でフェノールのニトロ安息香酸エステル保護基を炭酸カルシウムによって除去することで最終生成物と非天然型のZ型異性体が得られた。 1995年、グラブスらはRCMで可能となる立体選択性を浮かび上がらせた。グラブスらのグループはβ-ターンを形成する内部水素結合を持つジエンを合成した。この水素結合は、メタセシスが起こる寸前である両ジエンがごく接近したマクロサイクル前駆体を安定化させた。ジアステレオマーの混合物をこの反応条件に供した後、オレフィンβ-ターンの一方のジアステレオマーのみが得られた。次に、(S,S,S) ならびに (R,S,R) ペプチドを用いて実験が繰り返された。(S,S,S) ジアステレオマーのぎあ反応性があり、閉環を可能とするために必要な立体配置が示された。オレフィン生成物の絶対配置がBalaramのジスルフィドペプチドを模倣していることも興味深い。 8-11員環における環ひずみは、RCMで難易度が高いことが証明されてきた。しかしながら、これらの環系が合成された多くの研究例が存在する。1997年、Fürstnerは最終段階のRCMによってジャスミンのケトラクトン(E/Z)を得る簡易な合成を報告した。当時、RCMによる10員環の形成は報告されておらず、以前の同化合物の合成は、デカノリドを作るためのマクロラクトン化を含む経路を用いており、しばしば長かった。加熱還流したトルエンに12時間かけてジエンおよび触媒を加えることによって、Fürstnerはオリゴマー化を避けることができ、88%の収率でE/Z型異性体を得ることができた。興味深いことには、CH2Cl2が1:2.5の比でZ型異性体の形成を優先したのに対して、トルエンでは1:1.4の比しか得られなかったことである。 2000年、Alois Fürstnerは、7員環複素環中間体の形成にRCMを使用した(−)-バラノール(英語版)の8段階での合成を報告した。バラノールはVerticillium balanoidesから単離された代謝物であり、プロテインキナーゼC(英語版)(PKC)に対して阻害作用を示す。閉環メタセシスの段階では、ルテニウム・インデニリテン錯体がプレ触媒として使われ、望む7員環が87%の収率で得られた。 2002年、スティーブン・F・マーティン(英語版)らは、閉環メタセシスを2回使用した多環式アルカロイドであるマンザミンA(フランス語版)の24段階での合成を報告した。天然物であるマンザミンは沖縄沖のカイメンから単離された。マンザミンは抗腫瘍化合物としての将来性のためによい合成標的である。最初のRCM段階は13員環のD環の構築でZ型異性体のみが67%の収率で得られた。これはメタセシスが通常はE型異性体を優先的に生成するのとは珍しい対比であった。さらなる変換の後、2回目のRCMでは、化学量論量の第一世代グラブス触媒を使用して26%の収率で8員環のE環が構築された。この合成は、メタセシス反応の官能基許容性と様々な大きさの環の複雑な分子と構築できる能力を浮かび上がらせている。 2003年、ダニシェフスキーらは、Streptomyces属菌から単離されたマクロライドである(+)-ミグラスタチンの全合成を報告した。ミグラスタチン(migrastatin)は腫瘍細胞の遊走(migration)を阻害する。このマクロライドはRCMによって形成された14員環複素環を含む。メタセシス反応では、 (E,E,Z) 異性体の保護ミグラスタチンのみが収率70%で得られた。この選択性は、より障害の少ないオレフィンにル付加し、次に最も近づきやすいオレフィンへと環化するこのルテニウム触媒の優先傾向が原因であると報告されている。最終段階のシリルエーテルの脱保護で (+)-ミグラスタチンが得られた。 全体としては、閉環メタセシスは、様々な大きさと化学的性質の環状化合物を容易に得るための非常に有用な反応である。しかしながら、高希釈条件、選択性、望まない異性化といったいくかの制限も持つ。
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