副作用やリスク
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/04/20 18:23 UTC 版)
「選択的セロトニン再取り込み阻害薬」の記事における「副作用やリスク」の解説
「SSRI離脱症候群」も参照 2004年、カーディフ大学のデイヴィッド・ヒーリーによれば、「選択的」は薬理学者と臨床医にとって意味が異なり、薬理学者にとってはノルアドレナリン系以外の全ての脳システムに作用し得るもので、臨床医が脳の一箇所にだけ作用すると考えているとしたら勘違いであると述べている。 SSRIの有効性についてはほぼ評価が確立していたが、2000年代後半には「プラセボよりは有効だが、従来考えられていたほどの効果ではない」として再検討が行われてきた。SSRIの多用でうつ症状が改善する率が3割ほどある一方、悪化する例が3割というように、SSRIの反応性には個人差があることが指摘されている。不安や恐怖感を高める受容体の働きを抑え、抑うつ症状を改善させるSSRIだが、人によっては衝動性を抑える受容体の働きも鈍くなるといわれている。恐怖感がなくなり、さらに衝動性が高まることにより、攻撃的な行動に駆られるのではと考えられている。 SSRIは新薬である、神経症からうつ病まで幅広く作用する、三環系や四環系など従来の抗うつ薬に比べ副作用が少ないなどの背景から、第一選択薬として選ぶ医療機関も多く、多用される傾向にあるが、個人によっては強い副作用が出ることもある。特に、飲み始めにより服用が逆効果になることもあり得る。服用においては、飲み始め・減薬・絶薬・依存を含め、リスクと効果を見極めつつ、個々の体質も含め慎重になされなければならない。 副作用として、食欲不振や増加、体重増加または減少、性欲異常などが比較的多くみられる。特にセロトニンの再吸収阻害作用が強くなるにしたがって性機能副作用は増加する。抗うつ薬の中ではSSRIは取扱が楽であるが、双極性障害(躁うつ病)では、躁転のリスクがあり、単独での使用は推奨されていない。 急に服薬を止めると、めまい、頭痛、幻聴など気分や体調が悪くなることがあるので、重篤な副作用が起きた場合や躁転した場合を除いて、勝手に服用をやめてはいけない。(これらの症状は一過性であり、依存や中毒ではない)このことは、同剤の添付文書にも明記されており、投薬量の増減には慎重な判断が必要である。 賦活症候群(アクチベーションシンドローム)という中枢神経刺激症状を呈することがあり、注意が必要である。症状としては、不安焦燥感、衝動性、不眠、自殺企図などがある。これらの症状にも個人差があり、必ずしもSSRIのみの抗うつ薬に現れるものではない。 18歳以下の若年者に投与する場合には、自殺念慮、自殺企図、凶暴化の増加が報告されている。この害作用はSSRIの適応であるうつ病や不安障害などの病態の進展との区別が難しいことから、その認識が遅れたが、プラセボ(偽薬)を対照として用いるランダム化比較臨床試験成績からその存在が明確になった。 2009年、偽薬効果を研究するハル大学のアービング・カーシュ博士は、アメリカ食品医薬品局(FDA)は、2006年の最新のデータ解析で「プラシーボと比べて、SSRIは24歳までのうつ病患者の自殺志向や自殺行動のリスクを2倍に高める」と結論を下したと述べている。24歳以上も同じだと思われるが、このデータ解析からはまだ結論が出ていない。しかし、米国ではFDAの警告以降に若年者の自殺死者数が増加している。FDA警告の結果、若年者の抗うつ薬治療が少なくなり、結果として自殺者が増えたとすればかえって問題である。 また、近年ではSSRIの長期服用で前頭葉類似症候群(frontal lobe-like syndrome)が起こるという研究がなされている。米国の精神科医、Dr.J.ZajeckaはSSRIを長期に使用した場合、無気力・無関心、疲労感、精神的に鈍い感じが残る状態に陥ることがあるとした。これらの症状は、SSRIの長期間使用により、前頭葉や脳幹のノルアドレナリンやドーパミン活性が低下し起こると考えられている。これらの症状が出たら処方の変更が推奨される。セルトラリンは、弱いドーパミン再取り込み阻害作用も伴う為、前頭葉類似症候群は起こりにくいとされているが、これも個人差がある。 男女ともSSRIの処方量が増えると、自殺率は低下する。若年者への投与の減少により、若年者の自殺率が増加している。睡眠障害により自殺率は上昇する。不安障害の併存により自殺率は上昇する。アルコールや物質依存により自殺率は上昇する。このように渡邊衡一郎は述べている。
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