代用閉塞取扱の手続き無視と誤出発検知装置の誤作動
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/11 05:28 UTC 版)
「信楽高原鐵道列車衝突事故」の記事における「代用閉塞取扱の手続き無視と誤出発検知装置の誤作動」の解説
発端は、信楽駅から貴生川駅行きの上り普通列車534D列車を発車させるため、信楽駅の制御盤で出発信号機を出発現示(青信号)にしようとスイッチ(テコと呼ばれる)を操作したにもかかわらず、停止現示(赤信号)のまま変化しなかったことである。このとき下り列車が正しく信楽駅に到着しているにもかかわらず、下りの運転方向表示が点灯したままだった。分岐器を調べたが線路は開通しており、信号トラブルを疑ったため信楽高原鐵道は保守要員として詰めていた信号システム会社の社員に点検を命じた。それとともに、代用閉塞である指導通信式の採用を早々に決定。小野谷信号場で対向列車であるJRからの直通列車と行き違いを実現すべく、誤出発検知装置を頼りにして、指導員となる社員を添乗させ普通列車を11分遅れの10時25分頃に発車させた。この列車には指導員役の社員の他、当日の午後から安全管理などの査察に来る予定だった近畿運輸局の係官を貴生川駅まで出迎えに行こうとした常務、おそらくは指揮を執るべく乗り込んだ業務課長、夜勤明けで自宅に帰る予定だった運転士の計4人が乗り込んだ。事故で本務運転士も含め、添乗した4人全ての計5名が死亡し、信楽高原鐵道の乗務員で生存したのは車掌1名のみだった。 代用閉塞を開始する場合、閉塞区間の両端に駅員を配置して対向列車の抑止と閉塞区間に列車がいないことを確認しなければならない。この場合は少なくとも対向列車501Dが小野谷信号場で停車し、代用閉塞の使用を運転士に通告した上で出発を抑止したことを、小野谷信号場に到着した閉塞責任者から信楽駅の運転主任に伝達され確認した後でなければ534D列車は出発させてはならなかった。しかし事故当時、代用閉塞に必要な要員を自動車で小野谷信号場に差し向けたものの、その到着を待たずに列車を発車させてしまった。これにより刑事裁判においても代用閉塞に必要な措置を取らなかったことにより事故を招いたとして当事者は刑事罰を受けた。 しかしながら、改修した信号システムはトラブル続きだった。貴生川駅の出発信号機を青信号にできないトラブルは4月8日、4月12日の2度、事故当日と全く同じ、信楽駅で出発信号機を青信号にできないトラブルはゴールデンウィーク中の5月3日にもあった。特に5月3日のケースは事故時の列車と全く同じ534D列車で起きていた。この時は代用閉塞への変更すら行わず、誤出発検知装置を頼りに10時20分頃に534D列車を出発させていた。対向列車であるJR西日本からの直通列車は小野谷信号場で停車しており、業務課長は小野谷信号場まで列車に添乗し、自ら手動で分岐器の操作を行って列車を行き違いさせていた。さらにその1時間後の下り列車も代用閉塞に必要な運転通告券の交付を受けず、小野谷信号場に居合わせた業務課長による口頭の要請のまま、小野谷信号場から信楽駅まで運転させていた。そして、5月3日のこの列車の運転士が事故当日のJR西日本乗り入れ快速501Dの運転士であった。事故当日も業務課長が上り534D列車に乗り込んだことから5月3日と同様の解決法を取ろうとしたものと思われるが、列車の運行中は厳禁とされていた信号継電器室での作業も影響を与えた可能性があり、5月3日には有効に作用したこの手法によっても対向の下り臨時快速列車を停車させることができず、両列車が正面衝突するに至った。 小野谷信号場の下り出発信号機が赤にならなかった理由について、信楽駅構内の信号固着の修理のために同駅の継電器室(信号機器室)において行われていた、運行時間中の信号装置の点検作業が指摘されている。小野谷信号場の出発信号機は先の装置により一度は実際に赤に変えられたが、その作業の影響により、再び青に戻ってしまったと見られている。事故検証において信楽駅とともに小野谷信号場の誤出発検知装置も調べられたが誤出発は検知されておらず、列車は青信号で通過したものとみられる。 事故後、警察は実際に車両を動かして信号の動作検証を行った。信楽駅における出発信号機の青信号が出せない現象は、方向優先テコの操作、小野谷信号場の下り場内信号機(貴生川駅側)と下り出発信号機との間の反位片鎖錠の関係、小野谷信号場下り場内信号機の制御接近点の変更工事が複合して発生した現象だと鑑定されたが、事故当日、小野谷信号場の下り出発信号機が誤出発を検知しながら青信号になった理由については検証で再現できず、継電器室でのジャンパー線(英語版)による人為的接続の想定ケースを列挙するにとどまった。
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