代名詞主語と省略
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/08 03:23 UTC 版)
世界の言語には、主語を独立の名詞句として明示しなければならない言語(英語など)もあるが、そうでない言語もある。 主語を独立の名詞句として表さないことを「主語の省略」と言う。主語の省略を許す言語を「空主語言語」と呼ぶ。空主語言語で主語が省略されるのは、英語などが代名詞を主語として用いるような文脈であるので、これらの言語では代名詞の主語が省略されているのだと考える言語学者もいる(代名詞主語省略を参照)。 英語が代名詞主語を用いるような場合に、独立した代名詞を使わず、動詞のかたちを変えて、(陰在の代名詞)主語の人称・数・性などを表現する言語もある(イタリア語など)。このような言語では、動詞に付加される接辞などが代名詞主語を表現していると言える。 また、動詞以外にも様々な語に付属して用いられる接語によって主語の人称や数などを表す言語もある。例えば Chemehuevi 語では、文の最初の語の後ろに付く接語が英語の独立代名詞と同様の機能を持っている。 他のタイプとして、独立の名詞句である主語が占めるのとは別の位置に置かれる代名詞的な語が、英語の代名詞主語と同様に用いられる言語もある。例えば Longgu 語では、主語とは別に、主語と人称や数が一致する代名詞が必ず動詞句の直前になければならない。このため、この言語では、主語の占める位置と、それと一致する代名詞の占める位置は文法上異なると考えられる。このような言語の代名詞は、イタリア語などで動詞の接辞が果たしているのと類似した機能を持っていると言える。 日本語なども、独立した代名詞で主語を表現しないのが普通であるところはイタリア語・Chemehuevi 語などと同様である。ただし、日本語では動詞が主語の人称や数などを明示しているわけではなく、主語が何であるかを明示する代名詞的な表現は存在しないのが普通である。 代名詞主語の表現の仕方が英語・イタリア語・Chemehuevi 語・Longgu 語・日本語のどのタイプに属するかを世界 711 の言語について調査した結果は次の通り(地図)。 代名詞主語の表現の仕方の違い主語位置の代名詞によって、通常義務的に明示される(英語タイプ) 82 動詞の接辞によって表現される(イタリア語タイプ) 437 様々な語に付属する接語で表現される(Chemehuevi 語タイプ) 32 名詞句の主語とは別の位置に置かれる代名詞で表現される(Longgu 語タイプ) 67 主語位置の代名詞で表現可能だが、通常明示されない(日本語タイプ) 61 上記の二つ以上の手段で表現されるが、いずれかが基本的ということがない 32 計 711 また、それぞれのタイプに属する主な言語は次の通り。 代名詞主語の表現の仕方の違いによる各タイプの主な例英語タイプ アイスランド語、インドネシア語、オランダ語、デンマーク語、ドイツ語、ハイダ語、フランス語、マダガスカル語、ロシア語など イタリア語タイプ アイヌ語、アヴェスター語、アムハラ語、アラビア語、アルバニア語、アルメニア語、印欧祖語、イテリメン語、エストニア語、カタルーニャ語、カンナダ語、キクユ語、ギリシア語、グアラニー語、グリーンランド語、コーンウォール語、サンスクリット(ヴェーダ語)、チェコ語、チュクチ語、ナバホ語、ナワトル語、ハンガリー語、パンジャーブ語、パーリ語、バスク語、ブルガリア語、ブルシャスキー語、ブルトン語、ベルベル語、ラテン語など Chemehuevi 語タイプ オジブワ語、ブラックフット語、ポーランド語、ムンダリ語など Longgu 語タイプ イボ語、グルジア語、コサ語、ソマリ語、ハウサ語、フィジー語など 日本語タイプ グーグ・イミディル語、官話(中国語)、朝鮮語、ハワイ語、ビルマ語、マラヤーラム語、モンゴル語ハルハ方言、レズギ語など
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