仕出地(供給地)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/17 20:21 UTC 版)
1988年度の警察白書によれば、その前年の大量押収例に係る最大の仕出元は台湾で、全体の8割近くを占めていた。この年には福岡県を本拠地とする暴力団・道仁会の傘下組織が、一度の押収量としては史上最高であった約253キログラム(末端価格は当時の価値でおよそ420億円)の摘発を受けている。これは台湾から密輸されたもので、未押収の約317キログラムがその時点で既に関東地方等にまで渡り密売済みであった。この組織は総構成員数20名あまりの小規模な団体でありながら、台湾からの大規模な密輸を洋上取引によって行い、それを全国の暴力団に卸すことで長年にわたり巨額の利益を上げていたことが判明している。 第三次覚せい剤乱用期が宣言された1998年以降、日本で違法に流通する覚醒剤は、中国、香港、北朝鮮が仕出地である。しかし、密輸の小口化と分散化が進むにともなって、密輸ルートが多様化しており、過去に摘発実績のない国・地域を仕出地とする密輸(後述)、過去に摘発の例がなく警戒の薄い日本の地方港・地方空港を狙った密輸が増えている。また、日本人が運び屋に仕立てられるケースも増加している。中国からの密輸は日本人の困窮者を運び屋に仕立てる手口が横行しており、中国各地の空港で覚醒剤を日本に持ち出そうとした日本人が、相次ぎ逮捕されている。 1997年から2002年まで、覚醒剤大量押収事件における総押収量の約4割を占める北朝鮮からの密輸は、北朝鮮船籍の入港規制や不審船取り締まりにより年々減少。アテネオリンピック終了後の2004年末頃からは北京オリンピックを控えた中国で、覚醒剤の原料となる麻黄の製造や流通の管理が強化されたため、原料の入手が困難になった北朝鮮国内の薬物製造ラインは稼働率が低下。薬物製造拠点とみられる3工場のうち2工場が休止に追い込まれ、北朝鮮による覚醒剤の生産量は激減した可能性が高いことが、国内外の捜査当局の調査で判明している。 2007年は、カナダからの密輸が急増した。カナダからの密輸が急増した原因について、日本とカナダの捜査当局は、カナダを仕出地とする大量密輸入事件の逮捕者が、いずれの事件でも中国人だったことや、2004年以降、中国で覚醒剤原料の流通監視とともに、密造工場の摘発も強化されたことから、中国国内の密造拠点を失った香港系犯罪組織が、1997年の香港返還を機にカナダへ移住した組織のメンバーと連携して、カナダルートでの密輸ビジネスに乗り出したためと推測している。また、カナダ側からの情報や押収した覚醒剤の鑑定結果などから、カナダ国内には複数の密造拠点が存在する疑いが強い。また、同年から過去に摘発実績のない国・地域を仕出地とする密輸の増加が顕著になり、同年はメキシコ、アラブ首長国連邦、トルコからの密輸を初めて摘発した。 2008年は、減少傾向にあった中国からの密輸が増加した。また、南アフリカ、カンボジアからの密輸を初めて摘発した。2009年は覚醒剤密輸事犯の摘発件数が過去最高を記録した。過去に摘発実績のない仕出地からの密輸も引き続き増加し、ベトナム、シンガポール、ロシアのほか、ナイジェリア、ウガンダ、ケニア、レソトといったアフリカ各国からの密輸を初めて摘発した。増加が顕著なアフリカ各国からの密輸は、女性の恋愛感情を利用して麻薬の運び屋に仕立てる「ラブ・コネクション」と呼ばれる手口が多いため、騙された日本人女性が逮捕されるケースが増加しており、警察や大使館は注意を呼びかけている。また「ラブ・コネクション」は、利用された女性が事情を知らないため捜査は容易ではなく、密売組織までたどり着くのは難しい。 2010年、海上保安庁などは覚醒剤密輸のロシアルートの存在を初めて確認した。同年2月には、日本に密輸するためにロシア国内の地下工場で覚醒剤を製造していた犯罪組織のメンバーが、ロシア連邦保安庁に身柄を拘束されている。北朝鮮や中国からの密輸が困難になった日本では、覚醒剤の末端価格が高騰しており、他国よりも高値で取引されるため、ロシアの犯罪組織が日本の麻薬市場に目を向け始めた可能性があるとみて、海上保安庁が警戒を強めている。 日本の警察が摘発した密輸事件の送り出し元の割合は、2009年まで中国が最大で、2番目がアジア各国であったが、2010年になってからは中国・アジア経由の割合は減少し、代わりにアフリカ諸国が急増して1位となっている。2012年時点で、日本への送り出し元の内訳は、1位がアフリカ、2位は中国となっており、3位のメキシコを始めとする中南米経由が中国に匹敵する量となっている。過去にはほとんど見られなかったメキシコからの密輸は特に急増しており、メキシコ発の摘発量は4年で24倍に膨れ上がり、2012年には全体の2割近くを占めるようになっている。
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