九六式陸攻の攻撃
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/01/06 05:13 UTC 版)
英艦隊上空に最初に到達したのは、美幌航空隊(白井中隊)の爆装九六式陸攻8機だった。英艦隊は突如出現した8機の日本軍機に対空砲火を浴びせるが、効果はなかった。午後12時45分、美幌空陸攻隊8機はレパルスを目標に各機2発搭載した250kg爆弾による水平爆撃を実施する。第二小隊二番機は第一弾投下直後に被弾したため第二弾を投下できず、別の1機も故障で投下ができなかったため、250kg爆弾計14発が投下された。このうち、最初の爆撃での1発がレパルスの右舷後部カタパルト付近に命中。右舷後部飛行機格納庫甲板、海兵隊員居住区甲板を貫通し、装甲を施した下甲板で爆発した。爆風でダメージコントロール班員が多数死傷、副長は消火隊5隊を投入したが、中々鎮火できなかった。またカタパルト上の水上機1機が炎上し、海中投棄された。最大の被害は、命中箇所直下の罐室で高圧蒸気管が破裂したことだった。このような事態になってもフィリップス提督はイギリス空軍に掩護を求めず、バッファロー戦闘機はシンガポールで待機したままだった。この攻撃の後レパルスは25ノットで航行した。 水平爆撃を行った美幌航空隊白井中隊が退避する中、元山航空隊九六陸攻隊16機(雷装)が英艦隊上空に到達する。フィリップス提督は日本軍機が雷撃を行えるとは考えておらず、プリンス・オブ・ウェールズの反応は遅れた。英軍にとって不運なことに、対空火器として期待を集めたポンポン砲は頻繁に故障を起こした。日本軍航空隊は、第一中隊(石原薫大尉)9機と第二中隊(高井貞夫大尉)6機(第二小隊一番機はエンジン故障で帰投)の二手に分かれ、それぞれプリンス・オブ・ウェールズとレパルスに雷撃を行った。第一中隊三番機は撃墜され、二番機(大竹典夫 一飛曹)はプリンス・オブ・ウェールズが転舵を止めたため目標を見失い、直後に右旋回中のレパルスを狙った。第二中隊・高井中隊長はレパルスと艦型が似ているため金剛型戦艦かと迷ったが、イギリス国旗を確認し、雷撃を行った。レパルスはウィリアム・テナント(英語版)艦長の巧みな操艦で8本の魚雷を全て回避した。午後1時14分、プリンス・オブ・ウェールズに5本の魚雷が接近、左舷後方と左舷中央に魚雷2本(英軍記録魚雷1本が左舷後方)が命中した。ロースン副長は左舷中央の魚雷は命中ではなく自爆と推測、水圧により浸水が発生したが被害は限定的だった。これに対し、左舷後方に命中した魚雷はプリンス・オブ・ウェールズに重大な損傷を与えた。魚雷命中による損傷に加え、衝撃で湾曲した左舷外側推進軸が周囲を殴打して破壊し続けた。この時に隔壁が破壊されたためプリンス・オブ・ウェールズは早くも多量の浸水を見るにいたり、左舷に10度傾斜、右舷2軸運転となり速力は20ノットに低下した。(16ノットまで低下とする文献もある)さらに浸水は推進機軸管を伝って広がり、最下層甲板中部(Y缶室、Y機関室、中央機関科指揮所、ディーゼル発電機室)などにも浸水が及んで電力供給が途絶、後部4基の両用砲が旋回不能になり、対空射撃に甚大な影響が出た。艦内電話は通じなくなり、通風が不十分となって機械室では熱中症で倒れる乗組員が続出、応急注排水装置が故障、操舵機も電力を絶たれ人力操舵となる。後部指揮所にいた士官は、たった1本の魚雷でプリンス・オブ・ウェールズが致命傷を受けたことに「誰が不沈戦艦と名づけたんだ」とぼやいていたという。プリンス・オブ・ウェールズは重大な損傷を受けたにも拘らず、レパルスに被害を報告せず、レパルスのテナント艦長は旗艦の動きと傾斜から損害を推測するのみであった。この他、魚雷1本が駆逐艦エクスプレスの付近で自爆した。 午後1時20分、美幌航空隊第四中隊(高橋勝作大尉)の九六式陸攻8機が戦場に到達した。第四中隊も元山航空隊と同じくレパルスと金剛の見分けがつかず、対空射撃を受けてから英軍と確信した。午後1時27分、故障で魚雷投下に失敗した高橋機を除く7機が魚雷7本を投下するもレパルスは全て回避する。高橋中隊の損害は小破3機で、魚雷投下行動を2度やりなおした高橋機の損害は大きかった。第四中隊は魚雷3本命中・左舷傾斜を主張するが、実際には命中していない。午後1時28分(1157)、レパルスのテナント艦長は独断で無線封止を破り「発レパルス、宛関連全友軍艦艇。我敵機の雷爆撃を受けつつあり、至急空軍の援助を乞う、位置134NYTW22X09、時刻1158」と発信した。午後1時46分、11機のF2Aブリュースターバッファロー戦闘機がシンガポールを発進したが、到着見込みは午後2時30分以降であった。これに関して午後12時30分までにイギリス空軍が出動しなければ、日本軍航空隊の空襲までにバッファローが英艦隊上空に到達できないという指摘もある。 午後2時37分、小沢中将は潜水部隊に対し、「潜水部隊ハ敵損傷主力艦ニ集中セヨ」と命じたが、潜水部隊指揮官の吉富説三少将は英主力艦二隻の沈没を知ると、潜水部隊に対し午後3時15分に次期作戦命令を与えた。
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