中華人民共和国における社会主義リアリズム
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「社会主義リアリズム」の記事における「中華人民共和国における社会主義リアリズム」の解説
中国では社会主義リアリズムは社会主義現実主義と訳される。中国での社会主義リアリズムの最初の紹介は1933年9月とされるが、リアリズムが現実主義と訳され定着したのも1933年で、これ以後中国ではリアリズムは社会主義リアリズムと関連して理解されるようになった。1942年5月中国共産党は延安で文芸座談会を開催し、毛沢東が開会挨拶と結語というかたちで講話(演説)を述べた。翌1943年10月19日に毛沢東の講話は「延安文芸座談会での講話」(文芸講話)として発表されたが、この中には社会主義リアリズムの語はなく、プロレタリアリアリズム(無産階級現実主義)が用いられていた。1949年7月、北京で開催された中華全国文学芸術工作者代表大会(第一次文代大会)では、「毛沢東主席の文芸方針のもとで」中国の作家、芸術家は活動するという決議が、満場一致で採択された。 1949年に建国された中華人民共和国では、1953年9月~10月開催の第二回文学芸術家代表大会(第二次文代大会)で社会主義リアリズムが中国の文学芸術の創作と批評の最高基準として公式に規定された。この直前の1953年5月に出版された毛沢東選集第三巻に収録された「文芸講話」では、プロレタリアリアリズムが社会主義リアリズムに書き換えられ、「文芸講話」は社会主義リアリズムの内容をのべたものとされた。五四運動以来の中国新文芸も、社会主義リアリズムの方向に沿って発展してきたものとみなされた。ただし、それなりに芸術の質の向上をめざす社会主義リアリズムは、解放区以来の左傾傾向の強かった中国文芸界では、専門家の尊重や専門技術の向上重視など積極的な意義もあった。第二次文代大会では、芸術作品の公式化、概念化克服の必要性が強調され、『紅楼夢』など中国古典に対しても、リアリズムの方向で解釈しなおされ、その意義が再確認された。 これ以後、ながらく国家構成員の多くを占めた労働者・農民および彼ら出身の兵士の現実生活とその“理想”に即した社会主義リアリズム、あるいは古典的な中国美術が公式芸術であった。1958年大躍進期には、より教条的な「革命的リアリズムと革命的ロマンチシズムの結合」(両結合)が提起され、社会主義リアリズムは用語としては用いられなくなったが、実質的には変わらなかった。 1966年からの文化大革命では、ソ連などの社会主義リアリズム系作品すら修正主義文芸として否定された。文化大革命期の文学芸術分野の指導的論文とされた「林彪同志が委託し江青同志が開いた部隊の文学芸術座談会紀要」(1967年)でも、両結合が公式の創作方法とされた。革命現代京劇の創作方法に基づく「三突出」(あらゆる人物の中で肯定的人物を際だたせ、肯定的人物の中で主要な英雄的人物を際だたせ、主要な英雄的人物の中で最も主要な英雄的人物を際だたせる。突出は際だたせるの意味)が強調された。 文革終結後の1979年に開催された第四回文代大会では、リアリズムを推奨しつつも創作方法の多様化を提唱し、公式の創作方法として社会主義リアリズム、革命的リアリズムと革命的ロマンチシズムの結合のいずれも提起しなかった。公的団体が公式の創作方法を規定する時代は終わりを告げたのである。 改革開放の流れの中から地下芸術家が現れ始め、自由思想の弾圧や全く政府の援助を受けられない中、自分や他人の身体を酷使したパフォーマンスや、社会主義リアリズムの美術教育で身につけた超絶的な写実技法を使った不愉快な絵画など、過激な抗議的美術を展開した。 1990年代末には世界の美術界の新星としてヴェネツィア・ビエンナーレなどで大きく紹介され、欧米の脚光を浴びた(多分に、実験的美術家の存在や政治・表現の自由を認めない当時の中国共産党への抗議も込められてはいたが)。しかし、計画経済から市場経済への転換の中で中国共産党が芸術の多様化をある程度認るようになった21世紀初頭の現在では、彼ら現代美術家も公然と敵視されることはなくなった。政府や地方は再開発された街のために巨大な抽象彫刻を発注し、欧米のコレクターや中国の新興成金達は北京や上海の画廊街やアーティスト村に大金を抱えて殺到するという、過熱状態にあり、商業主義に巻き込まれていく傾向もみられる。 このような現代美術全盛の中で社会主義リアリズム系統の作品は、今でも新年のカレンダーや、中国共産党や有人宇宙飛行などの宣伝ポスターなどに使用され公式芸術としての地位を細々と保っている。
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